夕焼けの写真

僕は先輩の手元を見る。

「どうした。私の撮った写真が気になるの?」

僕は否定も肯定もしなかったが、先輩は仕方ないなあとニヤニヤ笑って言いながら、こっちに写真を見せて来た。


記録写真のようにのっぺりと写る公園。失敗した風景写真みたいな林や木々。暗くてよく分からない茂み。

じっくりは見ていないが、人影はおろかオーブの一つも飛んでいない。おおよそ心霊的なものが写っているようには見えなかった。

それにしても写真下手だな、先輩。

「心霊写真は撮れてないよ。残念だったね」

「全く残念じゃないですよ。僕は」


夕日に照らされて、僕と先輩の影が真っすぐに伸びていた。

「最後に君の写真を撮ってあげよう」

先輩は数歩下がったかと思うと、夕日をバックに僕の方にスマホを向けて写真を撮った。

カシャとシャッター音が鳴るのが聞こえた。

油断していた僕はきっと変顔になっているに違いない。

「やめて下さいよ」

「へへへ」


そして、先輩が今スマホで撮った写真を確認した瞬間。

先輩の顔から笑顔が消えた。


「先輩…?」

僕は不安になって、先輩に近づきスマホの写真をのぞき込んだ。

そこには高台から見えるきれいな夕日が写っていた。

いや、夕日だけが写っていた。

…僕は写っていなかった。

何か操作したようには見えなかったけど。

まさか、消しゴム機能で?

ということは。

まさか。

「何か写ってたとかじゃ、ないですよね?」

写真をじっと見ていた、先輩がこちらを向く。

「何も、写ってなかったよ」

まっすぐこちらを見た先輩の眼はこれ以上の詮索を拒んでいるようだった。先輩はもう一度「何もね」とだけ言うと、スマホをしまい帰り支度を始めた。


写真を見てからの先輩の顔は、なぜだかどこか寂しそうな悲しそうな顔に見えた。

いつもの先輩の不気味さとは違う、初めて見る表情だった。

いったい何が写っていたんだ。

心霊的な何かがあったのだとしたら明らかに自分も巻き込まれてしまっているけれど、それ以上に先輩の反応が気になった。

死んでしまった恋人が写り込んでしまったとか?なんてね。

口数の少ない先輩と帰路につきつつ、僕はそんな戯言を考えていた。



…後で振り返ると、その戯言は半分外れていて半分当たっていた訳だったのだけど。


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僕と先輩と怪談と 徒歩 @habanana

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