確かな筆力と形而上的な世界観に引き込まれます。



 人物の心情、概念の説明が丁寧に描かれていて、ある属性の人にぐっとくる世界観だと思います。また筆力も、語彙力とその組み合わせによって、詩性が生まれています。
 文体の硬さ柔らかさ(ヤングアダルト的かハイファンタジー的か)に関しては、どっちが良いというものではなく完全に読者の好みの問題ですが、個人的に大好きです。ごちそうさまです。


 またシェアワールドという概念を土台にするのは、マイナーなファンタジー小説で取り上げられているため(少し前ならレジンキャストミルク〈電撃文庫〉など)、ネタとしては新しいわけではありませんが、その掘り下げを行おうとした点はとても評価できる功績だと思います。


 惜しい点としては終盤の展開のくみ上げがいささかあっさりしすぎているのが気になるところです。メタな存在に対する対抗策のつり合いが取れているか、というところでちょっともにょっとしました。


 漫画でいうならばブリーチが参考になるかもしれません。オサレ作品と言われていますが、藍染を倒すとき一護は藍染の能力発動のキーを見ていない状態で、死神の力を失う一撃という代償を払っていますし、ユーハバッハを倒す際も、藍染の力+石田+一護という、布陣でギリギリの戦いを演出していました。


 また形而上的概念に対して、物理的な舞台装置が少ないのが気になります。これも好みといってもいいのかもしれませんが、形而上的なフレーバーに対して、世界観設定という厚みが加わるとクオリティはより高まると思います。


 化け物には化け物をぶつける、抽象をメイン具体性の土台をつくりあげることで厚みを持たせる、といったところでしょうか。


 私自身も路傍の石ころにすぎず、人のことをいえる身ではないのですが、形而上的なだけはなく具象的な部分が加われば、構造的なレベルで受賞作となりうる可能性を持っていると思います。カクヨムでは☆がすべてなので、どうか知りませんが。


正と負の両方の面でレビューしましたが、とにかく応援してます。よき日々を!