盲目の傀儡
第16話 盲目の傀儡①
寒い季節は
視線の先には仕立ての良い
身なりからして役人だろうか――
しかしアンは、貧しいながらも
アパートに這入り、扉を閉め、鍵をかける。
胸を撫で下ろすと同時に背後で扉を
さきほどの役人だろうか。
無視しようか迷ったが、
立っていたのは郵便屋だった。
近くで誰かに手渡されたらしい。封筒に
渡された
小窓から外を
だが男は、眼が合うと
郵便屋も
ひとり残されたアンは仕方なく部屋に戻った。友人知人のすくないアンにとって、手紙を受け取るのは久しぶりのことである。誰からだろうと眉をひそめつつ封筒を裏返す。
――領家からだ!
差出人を見てアンは驚いた。
いったいなんの用があって手紙を
宛先を間違えているのではないかと我が目を疑ったが、しかし書かれている住所も宛名も合っている。たしかにアンに向けられて出された手紙のようだ。
アンは、
内容は、医者として領家に仕えるようにとのことだった。
突然の
領家に仕えれば
苦しい生活を
どうして自分のような若輩者に声がかかったのか不思議ではあるが、またとない出世のチャンスを逃すまいとアンは意気込んだ。
※
翌日。
アンは勤めていた病院を
招聘については秘密にしておくよう記されていたので
気にせず手紙と医療具を携えると、病院を
午前中だというのに外はどことなく薄暗い。雲ひとつ無い
城門前で
最初に眼を奪われたのは、高く
その上に建つ城の
外界と地続きであっても城のなかは、彼女の住む城下町とはまるで別世界だった。
その威容は圧巻の一言だが、しかしどこか物足りないような気もする……。
アンは違和感の正体に気づいた。
まるで
躰を
人の姿を確認し、アンは胸を撫で下ろした。
男の許へ歩み、頭を下げる。
「あの、お手紙ありがとうございました」
精一杯の
男は
アンは慌てて駆け寄り、男の後についていく。
整備された庭を横目に城内へ這入る。なかは
あちこち目移りさせながら歩いていると、男は通路脇の階段へ折れた。
黙って先に行くから見失うと大変だ。
「あの――これからどちらへ?」
領主がいる
「もしかして、直接持ち場へ案内してくれているのですか?」
「領主様にご挨拶しなくても良いのでしょうか?」
「私はこれから何をするのでしょうか?」
道中いくつか質問してみたが、相変わらず返事はない。なにを訊いても無言のままだった。
やがて。
長い階段をくだり終え、男はようやく立ち止まった。
かなり地下深くまで
足許は石畳になっており、すでに城の
だが
奥の正面に鉄の扉がみえた。
表面には見慣れない文字が刻まれている。そちらの知識には暗いアンだが、ひと目で魔法陣と知れた。
男は扉の前に立つと、腰に下げた
これで開けろということらしい。鍵にも扉と同種の文字が記されていた。扉の向こうにいるのが人間ならばまだいいのだが……なにか悪しき者が封じられているのではないか。さすがに悪い予感しかしない。
答えないであろうことは承知のうえだが、それでもアンは尋ねずにはいられなかった。
「あの……どう見ても此処は医務室ではないですよね?」
「この先に誰かいるのですか? 傷ついた兵士ですか? それとも
「私は、人間ならば診れますが、獣や人外では手に負えません」
「どうしてなにもお答えいただけないのですか?」
「お答えいただけないのであれば失礼させていただきます」
男の横を過ぎ、足早に階段へ向かおうとしたが、後ろから手首をつかまれて無理やり戻されてしまった。引っ張られた拍子に背中を打ちつけて倒れ込む。顔をあげると長い影が重なり、次に光るものが。
男が
――
顔色ひとつ変えないその
話がうますぎるとは思ったが、あまりの
だが、いまさら悔やんでも時間は元に戻らない。
このまま還らなくとも探す者はいないだろう。若い医者がひとり
アンの
音から察するに
アンが包みを拾うと男はただ一言、頼んだぞと小さく呟いた。
静かに背を向け階段を上っていく。はるか上空で錆びた鉄の
――どうして私ばかりがこんな目に?
その場で
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