つまらない小説です

 どれくらいつまらないかというと、ワードに貼り付けてプリントアウトして常に手元に置いてダメな箇所を指摘せざるを得ないくらいです。

 まず、本作はジュブナイル小説として驚くほどありきたりです。性的マイノリティとして周囲に溶け込めない実存を抱えた少年が友人たちと絆を確かめ合い、そして時に傷つけ合い、社会で生きていく力を養っていくというテンプレ。うっかり女の子の秘密を知ってしまった主人公だとか、親友との三角関係だとか、決して壊れない友情だとか、更に物語を彩る遊園地デートに水族館デート、イヤホンを女の子と二人で共有だとか読者の好みが盛りだくさんです。描き方も少女との初々しくも甘酸っぱい恋愛という紋きりと、大人との激しくも苦い情愛というド定番をコントラストにして、読者の胸にいちいち迫ります。要するにみんなが興味がそそるものを盛り込んでいるわけですよ、面白くなって当然。こんな作品は書こうと思えば誰だって書けるんですよね。ただ、発想が出て来ないだけであって。

 また、登場人物が都合よく優しいのも指摘しなければなりません。素敵過ぎて聖人かとツッコミたくなる腐女子の三浦さんに、だれでも親友になりたくなるだろう幼馴染の亮平、さらに大人として主人公を導く知性と色気の溢れるケイトさん、そして最初は一癖もあるけれど打ち解けていくうちに内面にある人の善さが見えてくるその他の登場人物たち。誰ひとり単純な悪はおらず、それぞれが苦しみを抱えそれを主人公に示唆することで成長させていくわけです。まぁ、作者が人間の可能性を信じてらっしゃるんでしょうね。なので読後感はかなり前向きにはなります。自分も人間を信じてみようと思う程度には。

 あと主人公の主張が耳障りなまでにくどいです。性的マイノリティをマジョリティが意図せずに傷つけてしまう振る舞いがいちいち指摘されるし、マジョリティが当然のごとく生活している社会の仕組みがいかに息苦しいかがウザったらしいまでに描写されます。かつて町田康が創作を「手製の手りゅう弾をつくること」と表現しました。それはこの世界の片隅のちょっとした喧噪で掻き消えてしまう様な囁きを、作家が物語によって叫びに昇華し世界に訴える、世間の無関心を穿つ凶器であれという願いなのですが、本作は十分に騒音になっておりご近所迷惑はなはだしいです。耳鳴りがします。当分この事について考えざる羽目になってしまいます。

 以上、指摘したように本作はとても欠点だらけです。みなさんぜひ読んでお確かめください。そしてつまらない作品だと言ってください。お願いします。嫉妬でどうにかなりそうなんです。

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