第27話 世界を砕けドリーム・コネクターズ

「いくぜ! モエカ姉ちゃん!」

「いくぞ! カイト!」


 モエカとカイト、二羽のウサテレが駆けだしていく。

 カイトのウサテレが地面を蹴り、宙を舞う。それと同時に、光の球達が浮かび上がる。


「シャイニング・ブラスター!」


 光の球達が、南方へ直線状になって向かっていく。

 南方は簡単に光の線を避けていくが、その隙にモエカが彼の懐に潜り込む。


「セイヤ!」


 周辺を駆け回り、土煙を舞あげながら南方と剣を交えていく。



◇♠



 モエカとカイトが南方の動きを封じ込めていると、ショウの近くにいた二匹のウサテレがショウに話しかける。


「水瀬君! 無事で良かったわ!」

「ユリエさん! いったいこれは……」

「エリちゃんの夢の中に呼ばれた部外者サードの人達を集めてきたのよ。エリちゃんのことを見守って上げてって話だったんだけど……」


 目線を逸らすユリエに対して、デーブの写ったウサテレが割って入る。


「ジャップ共は俺様の作ったウサテレに乗りたいってしつこくてっよ! 仕方ねえから全員分作ってやったのさ! しかも、今までの探索用じゃないぜ……戦闘特化型ウサテレだ!」

「戦闘特化型ウサテレ!?」

「そうだぜ! 幼い子供の夢を破壊する大人の本気って奴だ!」


 鼻を鳴らすデーブにユリエは補足を添える。


「言い方は悪いけど、デーブの言うとおり。これは夢物質セカンドを破壊することに特化させたウサテレよ。最終手段として私達は用意していたの。でも安心して、破壊するのはアイツだけ」


 ユリエの視線は南方へと向けられる。


「南方の……いえ、エリちゃんのトラウマを壊さなきゃ……」

「あ、あのユリエさん……何で、皆がウサテレを操作しているんですか?」


 ショウの質問に、ユリエは頬をかく。


「え、ええ……皆エリちゃんを助けたいって言うことを聞かないのよ。デーブもノリノリで操縦方法を教えちゃうから……でも彼等の気持ちの強さは、他の誰にも負けてないと思ったからウサテレの操作を許可してるの。勿論一時的にね」


 ユリエの顔は真剣になり、真っ直ぐ南方へと向いた。


「それじゃあ、そろそろ行くわよデーブ! 私も少し練習したんだから!」

「おうよ! じゃあ手始めにフォーメーションSだ!」


 そう言うと二羽は駆けだした。

 二羽のウサテレが南方を中心に向かい合わせで旋回し始める。彼を中心にウサテレ達はそれぞれニンジンとピザを打ち出していく。

 それを見計らったようにモエカが後方へ飛ぶ。


『小賢しい!』


 彼に着弾すると、ニンジンとピザは爆発する。が、南方は無傷であった。


『あああああめんどくせえええええ! ゴミ掃除してやるよおおおお!』


 南方の目が赤く光り、足下から巨大な陰が沸き上がってくる。その陰は巨大な恐竜達へと姿を変えていき、幾多の咆哮を上げた。



♡♣



「恐竜達……早く片づけないと」


 呆気に取られていたショウは我に返る。

 右手に[剣心]を浮かび上がらせ、白い剣を取り出す。


「おい水瀬!」


 後ろから声を掛けられる。その声にショウは聞き覚えがあった。


「コウタロウさん!」


 ショウは後ろを振り向く。するとそこにはヘッドライトの部分にブラウン官がくっついたがあった。


「え……」

「水瀬! 久しぶりじゃねぇか! 生きてて良かったぜ!」

「あ、あの……コウタロウさん。それってウサテレですか?」

「あん? そうだぜ! 特攻特化ウサテレだぜオラァ!」

「どう見てもバイクですね……」


 ヘッドライト部分にリーゼントの男の顔が写されたバイクという、シュールな物質にショウはどう反応して良いか困ってしまう。


「よし! 水瀬、俺の上に乗れ!」

「はい?」

「良いから乗れ! あの恐竜の群を突き破るぞ!」

「突き破る!? あそこにこれで突っ込むんですか!?」

「当たり前だ! テメェはここに何しにきた? 妹を救いたいんだろうが!!」

「……ああ、もう! 分かりました! 乗りますよ!」


 やけくそでショウがバイクにまたがる。するとショウの肩にぴょこんと一匹のペットサイズのゴシック服を着たウサテレであった。


「……関口くん」


 彼の耳元で囁く声に、彼は振り向いた。


「ナオちゃん!」

「ええ、元気そうね」

「元気ではないよ……ナオちゃんも一緒に戦うの?」

「そうよ、貴方のサポートをすることになったわ。よろしくね」


 ピッタリとショウの肩に捕まるナオミのウサテレ。

 それを確認したコウタロウは声を上げる。


「ッシャア!! ぶちかましに行くぜ!!」


 気合いを入れコウタロウのバイクは走り出した。



 一気に加速していくバイクは黒い恐竜達の間を切るように走り去る。ティラノサウルスの大きな口を避け、ブラキオサウルスの股の下を潜り、南方へと近づいていった。


『目障りだ! 消えろ!』


 大型恐竜では捕らえることが出来ないと判断した南方は、足下から小型のラプトルを増産し群を放った。今までのように通り抜ける隙間がなく、群衆が殺意と共に押し寄せてくる。


「よし! 位置は整った! あのデブ野郎の言った通りやるぞ! 川崎!!」

「わかったわ。関口くん、神楽くんのハンドルを離して」

「え?」


 言われるがままショウは手を離すと、ナオミは彼の背中へと移り耳をバイクの後部にくっつけた。


「準備完了よ」

「飛べえええええええええ!!」


 コウタロウの雄叫びと共にショウの体はロケットのように射出された。


「うわあああぁぁぁぁぁぁ……」


 ショウの叫びは、コウタロウとナオミによって作り出された運動量によって彼方へと飛んでいった。


「水瀬……後は任せたぜ!」


 コウタロウのバイクはラプトルの群に突っ込んで行き、やがて大きく爆発四散した。



◇♠♡♣



 曲線を描きながらショウとナオミのウサテレは落ちていく。その進路は南方を超え、水晶となったエリへと向かっていった。


『チッ!! そういうことかよ!!』


 即座にエリの目の前に立ちふさがる南方。そして彼は片手をショウ達に向け照準を合わせる。


『アイツ等を打ち落とせ!!』


 彼の掛け声と共に羽の生えた黒い動物達が沸き上がり、ショウ達へと向かっていく。それは黒い塊のように一人と一羽を飲み込もうとする。


「来たわ。関口くん」

「うん!」


 ショウは空中で体制を整え、右手を照準にし[閃光]の文字を浮かび上がらせる。


「行け!!」


 浮かび上がった光の球達をレーザーの如く射出し、動物の群を撃墜しにいく。動物の体を貫通していく光の線に大部分の動物達は打ち落とされていった。しかし、数が多過ぎる故に群衆の勢いを止めることは出来ない。


「来るわ。準備して」


 ナオミの声を聞き入れ、ショウの右手に[剣心]を浮かび上がらせ白い剣を抜き出す。

 そして、黒い動物達の群に彼等は突っ込んだ。

 動物達は一斉に彼等に噛みつこうとするもショウは剣で二つに裁いていき、時に動物達蹴り飛ばして先に進んでいく。先ほど打ち出された光の球もUターンしてきて、動物達の群をえぐり取る。

 ナオミのウサテレも、ショウの死角から迫ってきた動物に耳で触れ、光を反射する鏡のように進路を逸らして他の動物に当てていく。

 多少の傷は付き勢いを失いながらも、彼等は動物達の群衆を抜けた。


「第二波が来る前に一気に勝負を掛けるわ。関口くん、右手を後ろにかざして」


 ナオミの指示通り、ショウが後方へ右手をかざすとナオミのウサテレは右手の上に乗っかった。


「私のウサテレは夢の中の物質を反転反発させる能力があるの。関口くんの[反転]の能力を同時に使って、落下速度を上げるわ」

「……分かった。かなり無茶苦茶だけどやってみるよ」

「……関口くん」

「なに?」

「また会えたのに……また離ればなれになっちゃうのね」

「……」


 笑顔を作りながら、どことなく寂しそうな表情を浮かべるナオミ。それを見たショウは優しく微笑む。


「大丈夫。きっと、また会えるよ」


 空中にいた一人と一羽の距離は弾けたように離れていく。ショウは凄まじい勢いで水晶のエリと南方の方へと向かっていった。


『クソッタレがあああああ!!』


 南方は動物達を呼ぶ暇もなくなり構えを取った。


「いっけえええええ!!」


 ショウは白い剣を南方の頭に向けて構え、ミサイルのように落下する。

 そして――

 大きな衝撃はと共に剣を南方に突き立てた。


「……」

『……』


 二人は互いを見合わせる。

 剣は南方の作り出した見えない衝撃を貫通し、彼が自分を守るように構えた二本の刃も貫いていた。

 だが……


『……ふふふ……ふははははは!! 残念だったな! もう少しで俺に届いたのによ!』


 剣の切っ先は後数センチの所で、南方の額に届かなかった。


『よく頑張ったよお前は! でもな、努力とか根性とか友情とかでどうにもならないことがあるんだよ! それが現実なんだ! いくら雑魚が集まっても所詮は雑魚! 何をやったって無駄なんだ!』

「……そうだね。現実はとても残酷だ……無理な時は本当に無理だってことも沢山あるよ」


 ショウは右手を上に掲げる。


「それでも……どんなに無理でも……僕達は前に進まなきゃいけない時があるんだ。それも現実なんだよ」


 彼の右手には[剛腕]の文字が浮かび上がり、強く握り拳を作った。


『お、お前!? そ、それは!?』

「絶対に無理で、とても残酷な真実があっても……それでも僕は!」


 右手を勢いよく白い剣の塚に向けて、釘を打ち込むように拳を叩きつける。


「妹の為に!! 無理矢理押し通すんだ!!」


 またしても、大きな衝撃が辺りに広がった。



*◇♠♡♣○



『ぎゃああああああああああああ!?』


 額に剣の刺さった南方は一歩二歩と後ずさる。

 皆がまたいつでも戦えるように身構えていると、南方はエリの入った水晶にもたれ込む。


『やりやがったな!! 殺す!! 絶対に殺す!! お前等絶対に皆殺しにしてやるよ!!』


 南方の体から黒いウジのような物体が沸き上がってくる。そのウジは彼の体にまとわりついていく。


「うげ!? まだやんのかよアイツ! しつけーなぁ」


 皆が沈黙する中、思わずカイトが呆れ半分に驚く。だが、ウジのまとわりついた南方の様子は少しおかしかった。


『な、なんだ!? お、おい!? 止めろ! やめろおおおおお!!』


 突然南方は叫びだし、足をばたつかせもがき始める。

 よく見ると、黒いウジ達は徐々に南方を黒い地面へと引きずり込んでいく。南方も地面にめり込んでいくにつれて、余裕がなくなっていくのが見て取れる。


『いやだあああああああ!? 消えたくない!? 俺は生きたいんだあああ!! ああああああぁぁぁぁぁ……!?』


 最後に顔ごと地面に埋もれていき黒いウジはウネリながら消えていった。


「……あれは」


 その様子を見ていたショウは、最後まで凝視し続けるとふとウジがある形になるのが見えた。それは一瞬だけであった二人の人の顔だったように思える。その顔を見たショウは思わず呟いた。


「父さん? 母さん?」


 何となく、ショウにはそう見えたのだった。

 ウジが完全に消え去った所で、いきなりエリの入った水晶が光り始める。


「うわっ!?」


 ショウは思わず目を閉じ、光が収まるのを待つ。すると、目の前にあった水晶は消え今まで見てきた光の扉が現れる。


「終わった……のか?」


 すぐさま扉に触れようとした時、足下の地面に


「え?」


 ショウが足下をみると、そこにはウサテレが放ったであろうピザが突き刺さっていた。

 そして、突然爆発し始める。


「うわ!?」


 爆発に巻き込まれないように後方へ退く。

 それと同時に、後方に居たデーブが大声を上げる。


「ウサテレ! アルティメットモード!!」


 彼の掛け声と同時にウサテレ一同が一カ所に集う。そして、光を放った。


「こ、今度はなんだ!?」


 驚き続けるショウだが、やがて光が収まる。

 そこには人と同じ高さはあろう狼のような姿。所々に青い炎を纏。頭部にはお馴染みのブラウン管を搭載。野獣のような吐息を漏らす見るからに危険そうな生物が現れた。


「さあ、ジャップボーイ! 審判の時間だ! そこから一歩でも動けば、この俺様の開発したウサテレ・アルティメットモードでお前のことを破壊デストロイする!」

「え!? ブラウンさん!? いったい何を!?」


 ショウが驚いていると、画面の向こう側も慌ただしくなる。画面内を写したカメラが動かされ、部屋の片隅を映し出された。

 そこには、手錠で手元を拘束されたモエカ、カイト、ナオミ、そしてコウタロウが居た。


「ブラウンさん! ユリエさん! これはいったいどういうことなんだ! 話が違うぞ!」


 モエカに続くように少年少女等の抗議は殺到する。

 しかし、そこへ黒服にグラサンをかけた男が現れ、片手には拳銃を構えていた。


「拳銃……本物?」

「ああん!? テメェ、チャカをチラツかせた所で俺達がビビると思ってんのか? あんこらあん?」

「おおおお! やれやれ! コウタロウの兄ちゃんやっちまえ!」


 怯えるナオミ。メンチを飛ばすコウタロウ。車椅子に乗りながら応援するカイトが一頻り映し出される。それを見たショウに緊張が走る。


「デーブさん……これはどういうことですか?」

「それは私から話すわ」


 今度は画面内にユリエが出てくる。彼女はいつにも増して真剣な表情を浮かべていた。


「水瀬ショウ君……貴方のこと調べさせてもらったわ。そして、それが分かった上で私達が選ぶ最良の道を提示することになったわ」

「……いったい、どういう意味ですか?」

「……そうね。まず、現状を全て教える必要があるわね。貴方がそれを聞く為の権利も出来たわ」


 そうユリエが言うと画面内を写したカメラを彼女は持ち上げる。画面が揺れながら、ゆっくりと部屋の中を移動していく。すると、大掛かりな機械を取り付けられたベッドへとユリエは赴いた。

 鈍く艶めく表面に、所々ボタンや緑色のランプが点滅した機械。その機械に取り付けられた純白のベッド。

 そして、そこに一人の少女が横になっていた。


「……」


 ショウは息をするのも忘れ、写し出された映像を直視する。

 そこにはいつもの黒いツインテールを下ろし、白い包帯を目に巻いて眠っている水瀬エリの姿があった。

 パジャマ姿の彼女の体には人工呼吸や点滴、また心電図や大きな機械からコードを伸ばされたヘルメットのようなものに電極などが装着され、まるで何かの実験を受けた被験者のように見えた。


「水瀬君、見える? これが私達が言っていたドリーム・コネクターの姿。そして今私達が抱えた問題……貴方が居る世界の現状よ」

「これは……エリ……ちゃん」

「そう……この子は水瀬エリ……半年前に上野公園連続通り魔事件で両親と視力を失った。そして……事件から一ヶ月後には目を覚まさなくなったの」


 食い入るようにショウは、ウサテレの映像を見続ける。


「過度なストレスが原因で目覚めなくなってしまった……っていうのが我々の推測。どんな外部的刺激を与えても彼女は目覚めなくなってしまったのよ。現代の医学では彼女を起こす術がなく、分かったことは彼女の脳波から夢を見続けているということ。そのことが切っ掛けとなって夢を研究する私達のチームに運ばれたの。そして、私達は彼女の夢の中を覗き驚かされたわ」


 黙り続けるショウを気にせず、ユリエは話を続ける。


「彼女の夢の世界はとても大きく、とてもリアリティがあった。まるでファンタジーのようであって……本当に存在するような、もう一つの世界として形作られていた。今までの収集したこともなかったようなデータを沢山取れたわ。そして……貴方もよ」


 ユリエの言葉に、ショウは更に目を背ける。

 その様子を見たユリエは、彼を心配するようにゆっくりと語りかける。


「……私達ドリーム・コネクターズは、水瀬エリちゃんのことについて深く調べたわ。身寄りがいなくて調べるのが大変だったけれど……こうして、エリちゃんのことを知る人物達も集めることが出来た……そして、ある事実を知ったわ。それは……」


 一度彼女は息を整え、そして彼を真っ直ぐ見る。



「水瀬ショウなんて人物はこの世界に実在していない」

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