第5話 元気クッキー


 翌日、クッキーの買い出しに中央市場へとハナは向かっていた。


「ハナァー!おはよー!」

 途中で呼び止められた。彼女の名は"ヒロ"、街のクエスト紹介所で働くハナの幼馴染み。


「ヒロちゃん、おはよ♪」

 すっかり元気になっていつもの笑顔が戻っていたハナ。


「今日も何件かお使いの依頼が来てるよ、やってく?」

「ううん、今日は自分の買い出し。クッキー焼くの」

「そっか、余ったら頂戴ね♪」

「余らなくてもあげるよー、それじゃ、またね!」

「またね!」

 彼女は偉い、無職のアタシと違ってちゃんと働いている。

 自分では両親がお役所勤めだから必然的にそうなったと言うけど、面倒見のいいヒロちゃんには打ってつけの仕事だと思う。


 中央市場はその名の通り、街の中心にあり、露天が軒を連ねていて活気に満ちている。

「えーっと…小麦粉、砂糖、バター、牛乳…」

 クッキーの材料を確認しながら次々と買い物を終わらせていく。クッキー作りはいつもやっているから材料選びも慣れたものだ。


 ワッ!

 と、小さな男の子が走ってきてハナにぶつかり転んでしまった。見ると膝を擦りむいてしまったようだ。

「あぁー!あぁー!」

 泣き始めてしまった男の子にハナは動揺することもなく、

『ヒール』

 傷口に手をかざし、青白い小さな光であっという間に擦り傷を治した。

「もう大丈夫だよ、ほら男の子が泣かないんだぞ♪」

「おねぇちゃん、ありがと!」

 また走ってどこかに行ってしまった…

(あれじゃ、いくらヒールしても足りないなぁw)


 そう、アタシは少しだけど回復系の魔法が使える。

 おとぎ話にある天使の力と言うものらしい。

 個人差はあるけど、人間のほとんどには天使の力が混じっていて、戦闘向けの能力だったり、アタシみたいに回復系の能力を持っていたり、その種類は無限にあると言われている。


 この能力が解ったのは中等学校時代の能力測定検査だった。

 回復系能力は発生率が低いらしく、その時は随分クラスメイトから羨ましがられたけど、効果は今のような浅い傷口が治せる程度のもので、すぐに皆からも忘れ去られてしまった。


 ちやほやされたときは聖職書や神官になって、冒険者の役に立つのもいいかも?!っと漠然と考えたりしたけど、今となっては隠し芸程度のお粗末な能力。


「仕事…見つけないとなぁ…」

 市場からの帰り道、ハナはまた昨日の事を思い出しながら、

「せっかくの回復系能力なのに…」

 小さな溜め息をついて、家へと帰っていった…。

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