人前でイチャつく趣味はありません

朝、学校に行くと今日もけいすけがきていた。

なおやは見当たらないから部活に行っているのだろう。

「おはようけいすけ」

「おはよう寿直」

けいすけは挨拶を返しつつもスマートフォンをいじっている。

おれがけいすけの前に座って同じようにスマートフォンをいじっていると、けいすけは顔を上げずに言った。

「直哉別れたってさ」

「なにと?」

「相内さん」

「マジで」

それは大分相当かなりびっくりかもしれない。

だってなおや、あいうちさんのこと大分好きだったでしょ。

それこそ目に入れても痛くないくらいに。

なのに別れちゃうって、相当のことがあったんだと思うんだけど。

「なんか相内さんに他に好きな男がいたんだってさ」

「へえ。……へえ?」

それってそれって、もしかしてもしかしなくてもけいすけのことじゃ……。

あいうちさんはけいすけにそれなりに興味示してたよね?

けいすけのことけいすけせんぱいって呼んでたし。

しょうこせんぱいとの差別化かもしれないけど、にしてもちょっと近しいなとは思ってたんだけど。

うーーん、なおやもそれに気がついたってことかなあ。

この様子だとけいすけは気が付いていないよね。

「直哉がきたら自分から言うとは思うけど、そうしたら……まあどういう反応するかは寿直に任せるわ」

「わかった。教えてくれてありがと。

けいすけはあいうちさんの好きな人って誰か知ってるの?」

「いや、知らん。直哉もなにも言ってなかったし。

寿直は心当たりとかあんのか」

「どうかな」

たぶん黙ってた方がいいんだろう。

沈黙は金って言うし。

けいすけはいぶかしげに顔を上げたけどなにも言わなかった。

そういうことを察してくれるから本当に助かる。


しばらくしたら部活の朝練を終えた生徒やゆっくり通学してる生徒がやってきて教室内がにぎやかになった。

けいかも登校済みで自席で本を読んでいる。

さすがに昨日の今日なので目立つところで声をかけるのは控えた。

なおやもやってきて、

「はよ」

と、ぶっきらぼうに言う。

目が赤いし腫れているあたり、それなりに堪えたんだろう。

「おーはよ、なおや」

「おはよ。直哉、顔洗って来い」

「うるせよ」

なんて返しつつもちゃんと顔を洗いに行くなおや。

けどすぐに戻ってきておれとけいすけの隣に座った。

「あのさあ」

「うん」

「京子ちゃんと別れたんだよ」

「うん」

「驚かないのな」

「けいすけに聞いたから」

そうか、となおやは言って、ため息をついた。

「まだ好きなんだけど」

「うん」

「全然好きなんだけど」

「うん」

「けど一緒にはいられなくて」

「うん」

その後、延々となおやはぼやいていた。

返事をするのはおれだけで、けいすけは聞いているんだかいないんだかわからない。

たぶん昨日のうちに聞かされたんだろう。

なおやはめちゃくちゃ泣きそうな顔をしていた。

泣くんなら移動しようかと言ったけどそれは断られる。

もう十分泣いたからと。

でもなあ、現時点で泣きそうなんだから泣き足りてないんじゃないかなあ。

その辺はなおやの好きにしたらいいんだけどさ。

なおやの話を聞く過程で、やっぱりあいうちさんの好きな人はけいすけじゃないかなって思えたけど、やっぱり口にはできなかった。

それが誰に対する配慮なのかはわからない。

「寿直はさ」

「うん」

「硯さんと付き合ってるの」

「付き合ってない。最近やっと友達になった」

「それ昨日もどっかで聞いた」

誰のことやら。

聞き返すのはやめておいた。たぶん聞いても面白くないし。

しばらくするとチャイムが鳴って担任が入ってくる。

おれとなおやは席に戻った。

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