先にいただいてます

学校の最寄駅近くのカフェで紅茶を飲みつつホットドックを食べる。

うまい。

隣では嘉木が巨大なパフェを食べている。

見ているだけで甘ったるいのでそっと視線を外す。

そして。

正面では直哉がこれまた巨大なパンケーキを食べていた。

泣いたら腹が減ったかららしい。


放課後に図書室で友達と勉強をしていたら嘉木から電話が来た。

『笹井君? 降田君を引き取ってほしいんだけど』

「はあ?」

『彼女と別れたって号泣してる』

「はあ?」

『1組の教室にいるから』

そして電話は切れた。

いろいろと意味が解らなかったけど、友達に声をかけて1組の教室に行った。

たしかに直哉が泣いてるし、嘉木はどうでもよさそうな顔でそれを見ている。

「直哉?」

「啓介」

「相内さんと別れたのか」

「嘉木さんに聞いた?」

「うん」

「ねえ、ここじゃいつ人が来るかわからないから移動しない?」

それもそうだ、ということでカフェに移動し今に至る。

とりあえずそれぞれ好きなものを頼んで黙々と食べる。

しかしいつまでもこうしていても仕方ない。

「で、なんで直哉は相内さんと別れたんだ?」

「もともと京子ちゃんが俺のこと好きじゃないのは知ってただろ。

そこに加えて他に好きな男がいてさ。もうダメだった」

「早くねえか」

「しょうがねえよ」

直哉はぷいっとそっぽを向く。

まあ、そういうのはしょうがないときは本当にしょうがないしどうしようもないから、部外者である俺がどうこう言えたことじゃないんだけどな。

でもなんで1組で泣いてたんだ。

「嘉木と直哉って仲良かったっけ?」

「ううん、全然」

「じゃあなんで一緒にいたんだ?」

「2年の階の廊下で降田君が泣いてて、人目につきすぎるから誰もいない1組の教室に連れていっただけ」

そういうことか。

たしかに2組の教室だと寿直と硯さんがいちゃいちゃしてて入りづらいだろうしな。

嘉木の行動は正しいと思う。

しかしここまで動揺するとは、直哉はよほど相内さんのこと好きなんだな。

「そんなに好きなら別れなきゃよかったんじゃねえの」

「啓介にはわからねえよ。好きな人が他に好きな人がいるって辛いんだぞ」

「その辺りは相内さんが良くないからなんとも言えないけど。

相内さんからしたら直哉はいきなりきていきなり去っていった感じなんだろうなってさ」

「それは否定できない」

直哉はまた泣きそうな顔をする。

そんな顔させたかったわけじゃないんだけどな。

嘉木は横で素知らぬ顔をしているしどうしたもんやら。

「悪い、俺が言いすぎた。直哉を責めてるわけじゃないよ。

すまんが俺には気の利いたことは言えない。

だからかわりにここは奢ってやろう。嘉木が」

「ちょっと」

「じゃあケーキ盛り合わせと紅茶お代わりとフライドポテト頼む」

「ちょっと!!」

怒る嘉木を無視してあれこれ頼む直哉。

男子高校生とは常に空腹を抱えた生き物なのだ。

3分の1くらいは出してやるからそう怒るな。

「で、降田君は部活動するの」

「どうするって?」

「やめたりするの」

「しねえよ。それくらいでやめられるわけねえだろうが。

明日はちゃんと参加する。さすがに今今はきついんだけどさ」

そりゃそうだ。

逆に女子はそのくらいで部活をやめたりするのだろうか。

人間関係こじらすとややこしいからやめたい気持ちはわからんではないが、軽率な気もする。

それはたぶん俺が直哉が陸上競技を好きなことを知っているからだろう。

直哉は相変わらずちょっと泣きそうな顔で飲み食いしている。

嘉木はどうでもよさそうな顔をしているが、それなりに気を遣っているのだろう。

ちょっと見直した。

俺はこれ以上口をきくと余計なことを言いそうだから黙っていよう。

あとは、直哉が言いたくなったら言ってくれ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る