運命を感じちゃってください

放課後の教室で宿題をしているといつものとおりいいんちょうがやってきた。

おれの前の席にドカッと座ってノートやら教科書やらを引っ張り出す。

そのガサツな態度は、普段からは想像もつかないほどだ。

「ねえねえ、いいんちょう、連絡先教えて」

「やだ」

にべもなかった。

まさかの一蹴。

「そんなことより新崎君。宿題出して」

からのカツアゲである。

怖いよいいんちょう。もうちょっとおれに優しくしてもいいんじゃないですかねーーー?

とはいえ、いいんちょうがそんな生易しい女の子ではないことは百も承知なので宿題を渡す。

「どうぞ」

「ありがと」

「そういえばいいんちょう」

「なにかな新崎君」

「今日はくるの早いんだね」

そういうといいんちょうは嫌そうな顔をした。

別に『そんなにおれに会いたかった?』とか言ってるわけじゃないんだから、そんな顔しなくたって。

でもいいんちょうが嫌そうな顔をしたのは別に理由があったらしい。

「だって今日は絡んでくる人がいないから」

「あーー」

「どういう意味かわかるでしょ」

それはつまりそういうことだ。

でもそれはいいんちょうにとっていいことだと思うけど、なんでそんな嫌そうなの。

まさか喜んでた?

「あれくらい自分でなんとかしたかったな」

「いいんちょうはお転婆だなあ」

「今どきお転婆とか言わないでしょ」

そう言ってようやくいいんちょうは表情を崩した。

うん、やっぱり女の子はそういうかわいい顔の方がいい。

「いいんちょうはまだおれで憂さ晴らし続けるの?」

「それもそうね。止めよっかなあ」

「止めなくていいよ」

いいんちょうがきょとんとした顔をする。

そんなの当然でしょ。

彼女も気づいていると思っていたんだけど。

おれがこの時間をどれだけ大事に思っているかを。

「新崎君は私にいいように使われていたいの?」

「どういう形でもいいから一緒にいたい」

「なにそれ、プロポーズみたい」

「似たようなものだよ」

「うーーん、そうだねえ」

彼女は腕を組んで考え始める。

まさか結婚してもいいかどうか考えてくれているんだろうか。

おれはてっきり先ほどのようににべもなく切り捨てられると思っていたんだけど。

「結婚はさておきさあ」

「うん」

「付き合うかどうかもさておきさあ」

それもさておかれちゃうんだ。

「もう少し宿題見せてよ。ここ最近ずっと自分で宿題やってなかったから、今更やるの面倒」

「いいよ」

「いいんだ」

いいに決まってるじゃない。

この時間があとどれほどかはわからなくても続くなら、なんだっていいんだよ。

そりゃもちろんいつかはきちんと付き合いたいんだけどさ。

「じゃあ、いいんちょう。おれは卒業までにもう一度いいんちょうに告白するから、それまで考えておいて」

「ないけど」

「だからーー、今すぐじゃなくて!! そのうちちょっとくらい、いいかなって思うときが来るかもしれないじゃん」

「来ないと思うけど」

本当に容赦のないいいんちょうである。

だとしても、それくらいのことでおれは諦めないし、好きなものは好きなのでこれからも精進していく所存なのだ。

いつか、そのうち、なんて曖昧なものがやってくるとは思ってないけど。

それでもいいんちょうのことを易々と諦めるわけにはいかないのだ。

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