出口どっち?

昼休みに嘉木と連絡先を交換しているところを直哉に見られた。

それはまあいいんだが、なにも言ってこないのが気になる。

直哉と一緒に相内さんもいたから絶対に根掘り葉掘り聞いてくると思ったんだけど。

なんてことを考えながら午後の授業を受けていたら、案の定放課後になって直哉が駆け寄ってきた。

「なんだよ」

「ははは、聞かれなくてもわかってるだろ? 嘉木さんのことだ」

「えーー、なんのはなし?」

直哉の声を聴いて寿直までやってくる。

本当に鬱陶しいなこいつらは。

「聞けよ寿直。昼休みに啓介が嘉木さんと連絡先を交換しててな。

ついに和解したらしいぞ」

「そうなの? 仲良くなったんだ?」

「なってねえよ。1日10分連絡していいかわりに学校では付きまとうなって言っただけだ」

寿直と直哉が残念そうな顔をしている。

悪かったな、つまんない解決で。

でも俺としては最大限譲歩したのだ。

嘉木だっていろいろな葛藤があった揚句に相内さんにもてあそばれた挙句俺のところに来たのだろう。

その心情を慮ると、あまりそっけない態度をとるのもかわいそうな気がした。

だからちょこっとだけ歩み寄ることにしたのである。

あくまでちょこっとだけ、な。

「ふーん、でもそっか。けいすけとかぎさん和解したんだ。

しかも連絡先の交換まで済ませたなんて……。

おれももうちょっと積極的に行こうかな」

「いや、寿直の積極性は道を間違えてるからな? ほんとあいつらになにしたんだ?」

「なんにもしてないよー」

そんな、てへっみたいな顔されても困る。

野郎の決めポーズなんてキモいだけなのだ。

どうせ委員長こと硯さんがらみのことだろうからなんにも言わねえけどさあ。

そんな傷だらけになってまで守りたい女の子ってどういうことだよ。

俺にはそんな相手はいねえ。

あー、でも姉貴がいじめられてたら立ち向かうのかな。

……そうだな、主にいじめた相手の人権擁護に立ち回らないと姉貴が捕まるな。

「しっかし、啓介は嘉木さんと連絡先交換してどんな話をするんだ?」

「そこまでは聞こえてなかったか。嘉木は授業や友達の話がしたいって言ってたな。

ま、普通に友達になりたいんだろ」

「ふうん。嘉木さんは啓介の友達になりたいのか。

彼女じゃなくて?」

「丁重にお断りだ」

「けいすけのかぎさんに対する態度はちっとも丁重じゃないけどね」

ほっとけ。

ていうか嘉木は別に俺と付き合いたいとか思わねえだろ。

あれだけ姉貴に対して鬱屈した思いがあるのに、またすぐに近づこうだなんて考えられない。

それにいい加減、俺と姉貴については切り離して考えてるだろうから、それはそれとしてただ友達になりたいだけなんじゃねえかな。

「なんにせよ俺にも嘉木にも恋愛感情なんてないだろ」

「かぎさんに聞いたの?」

「聞いてないけど」

「なら、そうとは限らねえだろ」

いやいやいや、お前ら自分たちが恋愛してるからって考え過ぎだろう。

世の中には男女の友情もあるのだ。

まあ、そこまで嘉木と友好的な関係になろうとは思っちゃいないんだがな。

連絡が来れば返事するし、来なければこちらからは連絡しない。それくらいでいいと思ってる。

「さっきも言ったけどさ、嘉木がどういうつもりであろうと、俺にはそんな気ないよ。

遊びたい盛りで一人の女に縛られるとか面倒だ」

「それだけ聞くと最低だな」

「この遊び人め」

「ちげえよ!!」

直哉は散々俺をからかってから、部活に行くと言って出ていった。

どうせ今の話を相内さんに話すのだろう。

別にいいんですけどね。相内さんが直接俺ところにやってこなくなっただけマシだ。

寿直は今日も宿題をしてから帰宅すると言って自席に戻った。

俺は知ってるんだぞ、そうやって硯さんと放課後デートをしていることを。

硯さんがどういうつもりで寿直と一緒にいるかまでは知らねえけどな。

願わくば寿直の恋が叶いますように、ってところだろうか。

さー、俺は帰ろう。帰ってなにがあるわけでもないが、あんまり残ってると嘉木に捕まるかもしれないからな。

あいつに関わるのは、この小さな画面だけで十分なのだ。

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