第22話 紙飛行機に乗せて

「ねえ、桃李。今度の休み海に連れてって」


「え!? 海? もう冬だぞ」


「泳ぎに行くんじゃなくて見たいの。そうだなあ。こう崖の上から眺められるようなとこ」


「……いいけど。なんかあったのか?」


 心配そうに私を覗き込む桃李。


「何にもただ見たくなったの。ここ、本当に気持ちいいねえ」


 お昼のいつもの場所。思い出の場所。桃李との思い出が増えていく。そう、学校いっぱいに増やすんだ。桃李が卒業しても、桃李と続けて行くために。思い出の場所をいっぱいにしておくんだ。桜の花が舞い散っても平気なように。




 電車に乗り継いでやって来た海!! 私の希望通り一面下に海が見渡せる。


「気持ちいいねえ!!」


「ああ! 寒いけどな」


 場所が場所なので、風が吹きまくってて寒い。私はカバンからスケッチブックを取り出しページをめくる。あった。ずっと見てなかった。読み返す必要なんてもうない。もう涼の言葉は私には必要ない。だから、ここに来た。そのページを破る。そして、紙飛行機を折る。折り紙や普通の紙と違って分厚いから慎重に折る。出来た!


「凛、お前それ」


「飛ばすの! えい!」


 紙飛行機は海の風を受けて思っていた以上に飛んだ。バイバイ涼。


「これの為かよ」


 桃李は、しゃがんでスケッチブックを見てる。そこにはたくさんの涼がいる。


「スケッチはいいのか?」

「うん。スケッチはいいの。それは私の作品だもの。でも、さっきのは違う。もう必要ないから」

「今までは必要だった?」


 桃李が上目遣いに聞いてくる。


「必要じゃなかったけど、見れなかった。今は見ても心が震えないで、紙飛行機を折れた。飛ばしたかったの海の向こうにいるあいつに。返したかったの。まあ、気分だけどね」

「ふーん」


 桃李はスケッチブックを持って立ち上がり、パンパンはたいてスケッチブックの砂を落とす。


「ほい」


 と、私に渡す。私はそれを受け取り桃李に抱きつく。


「な、なんだよ」

「連れきてくれてありがとう」

「ああ、いいよ。ってか寒い。気がすんだなら店かどっか入ろう」

「ねえ。妬いた?」


 桃李の顔を覗き込む。


「妬いてない。なんで妬くんだよ」

「じゃあ、いいよ。少しは妬いてもいいのにな」

「妬いて欲しいのかよ」

「欲しい。少しは」


 桃李から離れ腕に抱きつく。


「ああ、もう。妬きました。今頃、佐伯の手紙って、なんだよ。その為にわざわざ、ここまで来たのかよって思いました」

「うん。ごめん。ありがとう。じゃあ、今からは桃李との時間だから!」

「あのな凛、ここは冬の海だぞ。遊べるとこなんかない!」

「えー!」

「えー! じゃない」


 とか何とかいって冬の海辺で少し遊び、近くの店であったまったり。意外に楽しかったけどな。桃李といるからかな。





 凛へ


 突然こんな風に別れも言わずにいなくなってごめん。

 俺はもっと強くなりたかったんだ。両親に話をして母さんと留学することに決めた。

 あの日負けて、自分自身を知って、もっともっと強くなる為の場所を探したんだ。

 凛に何も言わずにいたのは、凛が悲しむ姿を見たくなくて、いつものようにこのまま別れたかったんだ。

 凛のことは佐々木先輩にまかせたよ。

 じゃあ、凛元気で。あの日の凛を忘れないよ。凛と過ごした日々も。


 涼より

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スケッチブックに描くもの 日向ナツ @pupurin

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