第9話 うわさ話は怖いです

 朝、今日は何とか間に合いそう。

 門を通過し癖でテニスコートを見る。何人か朝練が終わったんだろう、コートから出てくる。

 ん、どうしよう? 涼はもう行ってしまったのかもしれない、待っててもな……戸惑ってると佐々木部長が見えた。最後なんだろう鍵をかけてる。私は涼がいないことがわかってホッとして、歩き出した。


「おい、小林」


 佐々木部長にあっという間に並ばれる。


「はい?」

「お前佐伯と付き合うことはどうこう言わないが、他の部員の気が散るようなことはするなよ」


 ようはいちゃつくなって事だな。しないし、そんな恥ずかしい事!!


「しないです。描き終われば美術部に戻りますから」


 まだ、描く絵の下絵すら出来てないんだけどね。

 出来上がったら……ああ、そうなると寂しいなあ。


「小林、もしかして親善試合もくる気か?」


 あ、そんなこと考えてもいなかったけど、白熱した試合なら見たい! それに涼も出るし!


「行ってもいいんですか?」

「他の学生も応援にくるからな。お前だけを止める理由がない。絵を描きにか?」

「え!? あ、はい」


 あ、涼の応援の方か!?


「コートに近い方がいいんなだよな?」

「あ、ええ。できれば」

「わかった」


 と、言い置いて佐々木先輩はスタスタと先に行ってしまった。

 優しいのかなんなのか不思議な人。



「ねえ! 佐々木先輩と何を話してたのよ!」

 莉子さん話が早いです。今は二限目、どんな早さで噂が回ってくるの。


「親善試合の観戦について。絵を描きに来るかってこと!」


 もう、なにを期待してるんだ。あ、明らかにガックリした表情。


「莉子、何の話だと?」

「えー。佐伯君に取られたから取り返しにっていう三角関係?」


 莉子、ドラマの見過ぎ。


「ない」

「凛がなくても向こうはあるかも?」


 あくまで楽しい展開期待し過ぎの莉子。


「ない」

「だよねえ」


 なんでその噂話が流れるんだろ? 不思議なので噂話に詳しすぎの莉子聞き返す。


「なんで佐々木部長がって話になるの? 親しくしてないんだけど」


 確かにテニス部で話をするのは部長だけだけど、それは部長だからだし。


「えー、佐々木先輩が、凛が絵を描きに行ったその日に彼女と別れたから。佐々木先輩が好きな子できたからって理由で。ね、その日だよ!」


 ね、じゃないよ。その日に決意する?……いや、私はしたけど。その日にテニスコート入れるようにしたけど。


「偶然でしょ?」


 全くそんな理由で。噂話は怖いよ。



 お昼休みになった。お弁当を出してたら莉子が指差す。ん? と出入り口を見るとお弁当持った涼がいた。お弁当を持って彼のもとに向かう。


「今日も屋上?」

「ん。暑い?」

「ううん。気持ちいいもんね。あの場所」


 が、行って見ると先客が、昨日はだれもいなかったのに全のベンチが埋まってる。なんかみんないちゃついてるのは気のせい?


「ダメだ。あと……どっかある?」

「んー。あ、中庭に確かベンチがあったような」


 中庭に移動した。

よかったここは空いてた。お弁当広げていただきます。


「ここも、気持ちいいね。夏は無理だろうけど」

「屋上混雑してたな。昨日はたまたまラッキーだったんだな」

「そうだねー」


 教室以外で食べたことないんでその辺の事情はわからないけど、きっとそうなんだろう。

 昨日は緊張でほぼ会話なしだったけど、今日は話せる。緊張してない訳じゃないけどやっぱり気持ちがちがう。

 涼は話せば話す程、最初のイメージから変わっていく。ぶっきら棒な感じはまったくない。

 そういうと、前の学校でレギュラーで揉めたから、なめられたくなくてワザとそういう風に振舞っていたらしい。でも、レギュラー争奪戦の後は先輩達は徐々に認めてくれて、今ではすっかりいいおもちゃのような扱いらしい。

 ふふ、可愛い。



 昼が終わり教室に帰ると、またまた、莉子が来る。

 また新情報か?


「凛達の効果でみんな屋上に殺到だって」


 情報早いよ莉子。って何その私達の効果って?


「なによそれ?」

「告りに屋上へ誘ってるらしいよ」


 な、なんですって。みんな情報早いよ。

 だから、いちゃついてたのか。変なこと流行らないでよ。



 美術の時間に先生に呼び出された。あ、やっぱり下心でお願いしたのはまずかったのかな?

 スケッチブックも持ってくるように言われた。ああ、せめて描いてて良かった。スケッチブックが真っ白だったら……どうなることか。



 美術部にはちらほら部員がいた。まだ入って間もない上に私はテニス部にずっと行ってるし他の部員も外に出ている人が多いみたいなんで、ほとんど誰だか知らない状態だ。っていうか、私に気にせず黙々と描いてるし。


「おお、小林! 待たせたな」


 ん? 何か怒りモードじゃない?


「スケッチブックは?」

「あ、はい」


 すかさずスケッチブックを差し出す。これしか証明がない。あ、動機の不純には変わりないんだけど。

 先生はスケッチブックをパラパラめくる。ん? ダメ?


「ん。苦労してるな。だけど、上達してる。うん。このまま描いてみたらいいと思うが、どうだ?」

「あ、はい。描いてみたいです」


 涼をと言いたくてこらえる。それにしても最初の頃はランダムに描いてて良かった。後半は涼ばかりだけど顔を書いてないし、ジャージだから誰かはわからない。これからもそうした方がいいかな。動機がバレバレになる。どうやら先生には噂話は伝わってないみたい。


「じゃあ、暑くなってくるから気をつけてな」


「はい。じゃあ、失礼しました」


 と、美術部を後にする。ん? 暑くなるってそんなに長くなるって決定だよね。でも、確かに今のままじゃ作品にはならないもんな。ってことで、いざテニスコートへ。

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