第8話 いつまで一緒?

 さっきから気になってたんだけど。涼は私の真横にいる。で、話ながら歩いてるんだけど…なんで同じ方角?


「あのさあ、方角あってるの? 送ってくれてるの?」


 送ってくれてるにしては曲がり角に迷いがない。


「ああ、方向一緒だよ。何度か後ろ帰ってたから」


 あ、テニス部が終わるまで私もいる。涼の足なら余裕で私に追いつく。って、


「なんで追いついたのに声もかけずに後ろにいるのよ!」

「あ、ごめん。だから、部長だって思ってたから、声かけづらいよ」

「じゃあ、なんで今日は? あんな手の混んだ事までして」

「朝、朝だよ。声をはじめてかけてくれたし、肩に触れたろ?」


 あ、思い出した。通り過ぎる時に彼に声をかけたとわかるように、肩をポンと触った。いや、触れたかったのかも、そばまで行ったから勢いで触ったんだ。


「あれで?」

「ああ。まあ自信があった訳じゃないけど、お弁当持ってただけで、一緒にお弁当持ってきてくれたし、屋上で一緒に食べるのも何も言わなかったから、これはいけるかもって思って」


 素直について行ったけど、そういえば彼以外の人に同じことされてもついては行かない。


「この!策略家!」

「まあ、凛ちゃんから抱きついてくれるとまでは思ってなかったけど」

「あ、あれは」


 顔が接近するのを防ぐ為だったけど。もちろん誰か他の人ならしない。


「ねえ、テニス中学からやってたんだよね?」


 恥ずかしいので話を変えてみた。


「ん? ああ、もっと前だよ。父親に教えられてたんだ。他の人より長くやってるからね。前の高校で最初からレギュラー確定だったんだけど、揉めにもめてレギュラー外れるかって話になってたんだ」

「え? すんなりレギュラーじゃないの?」


 てっきりそうだと思ってた。


「先生がレギュラーにしたけど先輩に抗議されてね。だから、こっち来て球拾い覚悟しては来てたんだけど、ついラケット家に置いて来れなくて」

「佐々木部長厳しいけど、公平なんだね」

「ああ」


 レギュラー争奪戦の時に、勝てばいいと言っていた。勝てないなら自分が劣っていると認められる。先生に無条件でレギュラーだと告げられても納得できないが、これなら納得するしかない。


 と、私の家の前に到着。涼の家はこの先?


「あの……」


「僕の家がどこか気になる?」

「あ、うん」


 そう、ここまで一緒? と思いました。学校からここまでかなりの距離があるんだけど。


鴻池こうのいけ神社」

「ん?」

「僕、俺の家鴻池神社なの。家を親父が継いだって言っただろ?」

「ああ」


 鴻池神社はこのすぐ先にある。疑ってごめんなさい。


「疑ってた? 僕がつけてたとか?」

「いや、あの。少し」

「まあ、僕もビックリしたけど。凛がここに入ってって」


 神社継がしたくて大げさに芝居をしたんだ。涼が入学したてなのに。


「なに、笑ってるんだよ?」

「ん? いろんな偶然だなー。って思っただけ」

「まあな」

「じゃあ、明日ね!」

「ああ、明日」


 私の家の前の道は直線だ、その先に鴻池神社はある。

 別れたけれど見ずにはいられなかった。いや、疑っているわけじゃじゃないよ。彼を見ていたくって。あ、私って案外乙女なんだな。あの後ろ姿を遠くからずっと見ることになるって思ってたのに。私の横にずっといてくれるんだ、これから先。

 人の出会いなんて偶然の重なりだな。彼がこの学校に来たのもあの日のあの場所に私と彼がいたのも、そして今日彼に朝声をかけたのも全て偶然だったのに。


「凛なにしてるの?」


 声の方を見る、買い物帰りお母さんだった。ヤバっ!


「あー、景色見てたの。今度は何を描こうかと思って」


 苦しい言い訳してみた。他に何も思いつかなかった、玄関の前で立ち止まってる理由を。しかも道を見てるし。


「そう、もうそんなに焦って描くの?」


 母にはこれで通じたようだった。良かった。



 しきりにニヤニヤをしてしまう自分を隠せず、自分の部屋にこもる。はあー。

 今まで好きになったと思っていた人はいたけど、付き合うとなんか違ってると思えてきて上手くいかない。というかあっという間に解消してしまっていた。

 今日は違っていた。確かに涼はクラブのあいだと私の前では態度が違ってる。けれどその違いも私には心地いいものだった。変なの。

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