第5話 屋上でのランチタイム
「うーん。冷たいか微妙だけど、食べるよね? エクレア?」
「うん。いただきます」
と私は手を差し出す。
私の手にエクレア乗せながら佐伯君は言う。
「僕に教科書を貸した後に廊下を走ってたけど……」
エクレア袋を開けてさっきの謎解きをする。
「佐伯君の隣D組にもさらに階段を挟んだ隣のB組にも今日地学はあった。なかったのはうちのクラスだけ。なのに、佐伯君はわざわざ一番遠いそして今日地学のない私のクラスに借りにきた。時間割はクラスを覗けばすぐに見えて確認できる。なのに、なぜA組に借りに来たの?」
「小林凛が教科書を置きっぱなしにしてると思ったから」
「え!?」
「朝すれ違った時。鞄が軽すぎると思ったから、時間割を見て、置きっぱなしにしてることを思い出して、地学を借りること思いついたんだ」
朝ってあの時声をかけたから。
「クラスに行ったら君寝てるから、違う子が教科書を持ってきたら困ると思って焦ったよ」
あ、あの時私、爆睡してた。
「そう」
「予想してたんだろ? だから確認した」
「うん。あ、エクレア、美味しいよ」
佐伯君は笑ってエクレアの袋を開ける。
「あ、やっぱりもう少し冷えてる方が美味しいな」
「うん。でも、美味しい」
う、私は困ってる。佐伯君の策略なのはわかったんだけど、この先はどうすればいいの?
「お昼も? この状況も? 佐伯君の策略?」
「そう。エクレアも」
いや、エクレアは私です。ああ、どう反応していいかわかんない。
「小林ってさあ、佐々木部長が好きなの?」
「へ!?」
どういう誤解。
「違う。好きなのは佐伯君」
あ、言っちゃったよ。こういう告白なんて予定にない。食べ終わったエクレア袋を握りしめて言っちゃたよ。
「僕も小林が好きだよ」
「う、うそ。だって全然……」
「小林だって全然そんなそぶり無かっただろ?」
あ、うん。そうだ。全く話かけもしなかった。
「ここチョコついてる」
佐伯君は私の頬からそして唇へ指先を滑らす。私すっかり凍りついていた。
もしかして私騙されてるの? あの無愛想な佐伯君が。ああ、ありえない!? 夢? 夢かも?
「小林?」
「あ、うん」
夢ではなかった。手は離れたんで、ようやく動ける。無駄に飲み物飲んでいるけど。ああ、どうしよう。
「なあ、何でテニス部で絵を描いてるの?」
「あ、あれは。その」
「てっきり、あれで部長のこと好きなんだと、思ってた」
「え!?」
何か誤解が誤解を生んでいる?
「小林、僕が行く前にもうすでにそこにいたから」
「あれはあなたに、佐伯君に会うためにしたの。はじめて会った日に追いかけたんだけど見失っちゃって。テニスラケット背負ってるし、学校の制服だったから、テニス部にいれば会えると思ったの」
うう、恥ずかしい告白。
「はじめて会った日って」
「桜が舞い散ってた、あなたが津島先輩と試合した日」
「ああ」
佐伯君は笑ってる。もう、なんなのよ。笑え……るかもしれないけど笑わなくてもいいでしょ!?
「ごめん。僕もその時に君を見てたよ」
「嘘、不機嫌な顔してた」
「不機嫌だったから。佐々木部長に追い出されてその日は部に来るなって」
そりゃあ不機嫌な顔するね。佐々木部長、言いそう。
「だったら」
「僕が見た君は桜を見てたよ」
あ、タイミングが違ってるんだ。私が佐伯君を見た瞬間と、佐伯君が私を見たのと。
「タイミング違い?」
「そうみたいだね」
「ふーん」
う、これってどうなるの? はっきり言いあったよね。好きだって。
「小林がテニス部来てるのは僕に会うためにか」
あの、心の中で言ってよ。そういう言葉は! 恥ずかしいよ。
「地学がないクラスにわざわざ借りにきた人が言う?」
「小林って自覚ないんだな?」
「なんの?」
「いや、いいよ。わかってないなら」
何のこと? と聞こうとしてスッと背中に腕を回されて言葉がでない。な、どういう展開?
ドキドキの止まらない私に佐伯君は告げる。
「じゃあ、僕と付き合って」
う、顔がー。耳元でそう言う言葉。いつもと性格違うってば。
「ダメ?」
佐伯君が体の向きを変えようとする。私の顔を見ようと……
「あ、はい。わかった」
思わず抱きついてその動きを阻止して、返事を返す。
「じゃあ、これからは凛って呼ぶから」
「え!? あ、うん」
「じゃあ、僕も涼って」
「うん。涼」
う、この急展開。桜の神様ありがとう! そんな神様聞いたことないけど。
「あのさ」
「うん?」
「いつまでこのまま?」
あっ! 彼に、涼に抱きついたままだった。
慌てて涼から離れたら見えた。あ、階段のとこに人だかりができてる。
「あ、見えちゃった?」
「うん。バッチリ」
「じゃあ、向こうもバッチリだね」
ああ、みんなにもバッチリ見えてるよ。何の策略?
「あの、もしかしてお芝居?」
傷が浅いうちに聞いとかないと遊ばれた?
「違うよ。これで事実が伝わるだろ? 余計な心配がへるから」
余計な心配って何?
と聞こうとすると弁当箱持って立ち上がった。
「そろそろ授業だよ。行こう。凛!」
慌てて弁当箱を持って立ち上がる。階段を見るともう誰もいなくなってる。蜘蛛の子散らすとはこのことかって勢いでみんな散って行ったみたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます