第37話砦攻略戦

 木曜日、日本時間二十時、ゲーム時間二十時、いよいよ砦攻略だ。リンスドルフから総数八百人の大軍で出発する。


 本隊として槍三百二十人をマリアマリア・テレジア、弓隊ニ百人と総指揮をハンガク、その他百人をパートが指揮している。そして砦近辺で火矢を打ち込む別動隊として、精鋭槍隊六十人と弓六十人ずつを前田と謙信がそれぞれ東側と西側に別れて防衛指揮を執る、その他六十人の指揮と別動隊総指揮を私が行う。


 ゲーム時間二十時半、北側に布陣し北側の敵を殲滅する。百二十m位の場所で一旦全員で防衛し、弓隊は継続して、見張り櫓の敵を倒し続ける。


 別動隊が前に進み、砦の前で陣取る。消える時間などは気にせず、魔法使いが壁を作り始める。


「「「アースワーク」」」「「「アースワーク」」」

 どんどん土壁が作成されていく。一番外側周辺から順にマキビシを撒く、先日特売で買った金属屑をハンガクに取上げられた結果だ。初心者でも簡単に、しかも大量に生産出来るので、初心者達の鍛冶のスキル上げに役立ったそうだ。そのまま撒くより効果が高い。


 前田と謙信の隊列の間で、キャンプファイヤーを始める。別動隊全員が何かしらの方法で放火を開始する。

「いくぞー。三、二、一、放てー!どんどん自由にー」

 壁の至近距離から、弓隊が火矢を打ち込む。槍隊や魔法使いも燃えた薪をどんどんと投げ込む。二分間位投げ込んでいると相手から矢の反撃が来るが、壁から二十mくらい離れたところに降り注ぐ。


 本体が砦から五十m付近まで近づき、そこからも数百の火矢が飛んできた。今日は全員弓を持っている。本体の攻撃は同じ場所からは二回までだ。


「本隊、五十m後退ー、後退ー」

 ハンガク達が一旦距離を開けて防衛体制を再度取り始めたところで、


「南門から北に向かって、左右から、オークライダーが数十匹ずつ、その後からオークが百~二百くらい向かってます」

 “村の子供A”が報告してくる。他にも数人から同様の連絡がくる。北側だと南側からの出撃情報がつかめないので外部支援者からの情報提供を募ったところ、十数人が立候補してくれた。


「防衛準備ー、私の直轄は引き続き火を放ってー」

 防衛は前田と謙信に任せて引き続き放火する。


「東側構えー。弓は花装備を許可するので、見えたら自由に全力で撃退して」

「西側も構えてー。こちらも全力。花装備つかってー、自由射撃で」

 前田、謙信が防衛の指示をだす。西側をみると壁を走り抜けてくるオークライダーが見える。足が速いためか、いったん北に膨らみ、南下しながらこちらに迫ってくる。

 ビュビュビュ、ドスドスドス、こちらに向かってくる最中に北から降り注ぐ矢と槍がオークライダーを地面に縫い付ける、本体からの支援攻撃だ。こちらに向かってくる生き残った敵も満身創痍なので簡単に葬る。


 どうやら、壁付近で火矢を打ち込んでいるメンバー向けに特別編成された部隊だったようだな。あれくらいなら撃退が可能だ。

 よし、再度薪に火をつける。コンタクトに借りたフイゴで風を送り、火の回りを早くさせる。火が付いた薪や火弓の準備が出来たところで、再度火を放つ。本体からも火矢が放たれている。



「砦に接近していく人が居ます。今度は通常のイベントオークが出ます。多分万単位だと思うので、気をつけてください。さっきの狼の毛並みってどうでしたか? え? なんでモフってないの!」

 “モフモフ”を含む数人から警告が来た。北に来るのは一割程度。更にここに来るのはもっと減るだろうから、千~数千てところだろうか。



「全員防衛全力で!薬草、ポーションなどは各自で、死なない事優先ね」

 オークが迫ってくる。土壁を乗り越えようとしてマキビシを踏み、そこで歩みが止まる。立ち止まったオークは後ろから押されて壁に挟まれて消える。それでもどんどんと壁を乗り越えようとしてくる。オークの体には無数の矢が刺さるがそれでも近づいてくる。槍で突いたり、上から叩き付けたりして凌ぐ。


 それでも、槍を掻い潜って接近してきた。

「旋風」「旋風」

 近づいてくるオーク達を槍のスキルで吹っ飛ばす。正面の百八十度が攻撃範囲なので、防衛するときは効率が良い。ちなみに、味方の体や砦の外壁を突き抜けて効果が発揮されるのは、ゲームだから大目に見る。


 ゲーム時間二十一時過ぎ、夕焼けになってきた、火矢がより綺麗に見えてくる。何度目かの敵の襲撃を撃退する。そろそろ土壁が消える頃だな。再度、土壁を作成する指示を出す。


「えーす。砦内から煙が複数見え始めました。効果が出てきたようです」

 ハンガクから状況報告が来た。みんなの士気があがる。さあ、どんどん火を放つよ。



 ゲーム時間二十二時、ゲーム内は夜になった。継続して火矢を打ち込みまくる。外部支援者からも砦の中が燃えている旨の報告が多数来ている。大分いい感じになったんじゃないかな。



「お邪魔プレイヤーが砦に近づきますが、矢が飛んできません。敵も出ません」

 “村の子供A”から、なかなかいい感じの報告が来た。そういえば、こちら側にも矢が飛んできていない。ん? でも門が開かないと中に入れないんじゃないか? ハンガクに相談する。


「うーん。確かに門が開かないと打つ手が無いですが……。もう少し攻撃を継続してみましょう」

 ハンガク達も距離を五十mくらいまで近づいて、全員で火矢を撃ちまくる。砦から出る火の勢いが増す。他のプレイヤーもイベントオークが出なくなったので砦の周辺に集まり始めた。


 火の手は上がっているが門は閉じたままだ。うーん、何とか中に入れないかな。周囲のプレイヤーが砦の外壁を叩き始める。きこりが前面に出て斧を叩き込んでいる。私は考え事をしながら、兎組の面々を見渡す……。


 余っている槍衾用の槍を一本貰い、砦の外壁のすぐ手前にアースワークで土壁を作る。兎組の皆にお願いして、壁から北に向かって助走するための距離を確保してもらった。


「脱兎二」ボソッ

 小さく呟き、全速力より速い速度で、兎組が整列して作ってくれた道の間を走り抜け、土壁の根元に槍を突き刺す。槍が大きくしなり、槍が元に戻ろうとする力で私の体を持ち上げる。足の方が先に高く上がり、背中から外壁に向かう。


 槍から手を離して、そのまま回転し、ふわっとした感じで外壁の上に、外壁の先端が腹から見える。いてててて、外壁の先端で串刺しになった。



「最寄りの村に戻りますか? はい いいえ ※注意:LV十までは死んでもデメリットはありません」

 うーん失敗。


「何やってるんですかw」「ハハハ」「期待を裏切りませんね」

 周りから冷やかしが入る。いや、もしかしたら上手く行くかなって思ったんでね。すみません。リンスドルフで休憩することにします。どうやらその後は、棒高跳び大会になっているようで数人死に戻っている。パートも戻ってきて料理を始めている。淡々としている感じもあるんだけど、意外と積極的なんだよなパートは。でも隊長クラスが全員死に戻ったら制御できなくなるよな。


「前田、ハンガク、謙信、マリア、隊長クラスは死に戻ったら体制が維持できなくなるから、棒高跳び禁止ね」

 謙信がブーブー言ってたけどしたかないよね。しばらく飛んでいると、鍛冶屋組数人が外壁にはしごをかけて、中に降り始めたそうだ。即席で作れるのかはしご、敵に邪魔されないならそれが正解だよね。正面の門を開けて他のプレイヤーを呼び込む。兎組もはしごを使って北側から中にどんどん入っていく。


 周囲のプレイヤーが砦の周辺を囲っているので最前線までは辿り着けないだろうし、これはもう出番なしかな。ぼおーっと燃え上がる砦を見ながら、パートが作ってれた兎肉のシチューをご馳走になった。

 ガッチガチの黒パンをシチューにつけながら食べる。そうしないと固くて食えないんだよねえ、なんでこんなにパンが硬いんだろうなまったく。この前パン屋に寄ったら三日前のパンだって、だから固いんじゃないのか、毎日作ればいいのにな。

 だいたいさ、小麦で作ればいいのにライ麦か何かで作ってるみたいなんだよねぇ。味も酸っぱいんだよね。すっぱいパン、すっぱいぱん……、ん? 何にも考えてませんよ。



 突然爆音が聞こえた。砦の上に大きな火の付いた木材が、あたり一面に飛んでいった。その後小さい明かりが空に舞い上がっている。何が起きたんだ?


「えーす、母屋が壊れて中からボスが出てきました。正面のプレイヤーを蹴散らしながら南に向かっています。私たちは後ろから攻撃を始めます」

 ついにボス戦か、とりあえず今いるメンバーで再編成を始める。しばらくするとプレイヤーがどんどん死に戻ってきた。


「なんだよあれあんなの倒せるわけ無いじゃん」

「一撃で死んだんだけど」

「いったいHP幾つあるんだよ、あれ数十万以上あるんじゃないのか」

「てか自己回復とかありえないんだけど」

 かなり厳しい戦いのようだ。


「いや、ソフトクリームとアップルクーヘンは美味しかった」

「うっそ、いいな。俺はきりたんぽと牛乳だったよ」

「まじ? わたしはずんだ餅だったけど、甘くて美味しかった」

 一体何の話をしているんだろう。


 ボスは砦から少しずつだが前に歩いてきている。あれ、このまま来るとリンスドルフがやばいんじゃないのか? 

 兎組の面々も死に戻ってくるので、パートや料理人達が兎肉炒め薬膳を振舞っている。話を聞いたところ、ボス“シェウムキーファー”は、外壁の丸太と同じ位だったので約五mで、太ったオッサンで日本人ぽい顔、無精ヒゲを少し伸ばしたような感じのヒゲを生やしていた。

 砦の外壁の丸太を振りまわす攻撃をし、一番危険なのは上から叩きつける攻撃だ。その一撃で即死するほどのダメージが入って死ぬ人が多いらしい。

 更にその丸太をそこから横に一回転するので、ボスの周囲五m付近にいるプレイヤー全員に範囲ダメージが入る。叩きつける一撃に比べればダメージが少ないがそれでも馬鹿に出来ないダメージだそうだ。

 人が多すぎて逃げる場所もないので、叩きつける攻撃が来たら諦めるしかなさそうだな。しかし、さっきの食べ物の話は何なんだろう。


「しばらく戦っていたところ、片膝を付いて少しうな垂れたので、ダメージが蓄積されたと思うんですが、ポシェットから食べ物を出して食べたら、また元気になって攻撃してきました。

 そしてその食べ物をプレイヤーにも差し出してくるんです。ボスが食べている間は攻撃されませんが、食べ終わると攻撃を再開してきます」

 死に戻った兎組のメンバーがずんだ餅を食べながら話してくる。何それ貰えるの? 一口おすそ分けをいただいたが、甘くて美味しかった。しかも一個でHPが百回復するらしい。そのずんだ餅を数十個いっぺんに口に入れて、飲み込んでいるようなスピードで食べ終えて、更に何度も何度もおかわりするらしい。

 何だその化物は、攻撃力というより食欲の方がすごいわ。しかし、このままではリンスドルフが危ないな、百人程度集まったので再編成をしてボスの方に向かう。



「えーす。兎組は最前線まで出ずに遠距離攻撃でボスに集中攻撃でダメージを蓄積させています。そうする事でボスの休憩頻度が高くなったような気がします。ちなみに花成分などの状態異常は効いていないようです」

 流石ハンガクだな。遠距離攻撃でダメージを蓄積させて、ポシェット内にある回復アイテムが全て尽きれば倒せるかもしれない。こちらも隊列を組み、弓が届く範囲まで来たので矢で攻撃する。


「全員弓で攻撃、矢は通常または火矢で、撃ちまくってー」

 他のプレイヤーも含めて、遠距離攻撃出来る人は遠くから打ちまくっている。ボスの体は矢や槍が刺さって剣山やヤマアラシのような状態になっている。火矢が刺さって体のあちこちが燃えているが、すこしずつ前進しながら、丸太を振りまわす。


 片膝をついたようで、何かを取り出してプレイヤーの前におき、自分も同じ食べ物を食べ始めたようだ。どうやら駄菓子らしい。なんで食べ物に駄菓子があるんだよ、世界観ぶち壊しじゃないか。まだきりたんぽや、ずんだ餅はいいよ、昔からあっただろうから。

 でも俺も欲しいなあ、駄菓子なんて何十年も買ってなかったから、今度買いに行こうっと。ん? どこで売ってるんだろう。



 ゲーム時間零時、まだボスは倒せていない、リンスドルフまで後五百mくらいだろうか。しかし、一体何種類の食べ物を用意しているんだろう。分かっている範囲で二十種類を超えたから、通常ポシェットなら、後十枠未満だろう、通常ポシェット枠ならいいんだけど。


 近接戦闘をする他のプレイヤー向けに、兎組が持っている薬草を大量に無償配布している。近距離攻撃しか出来ない人のためにボスの周辺には近づかない。兎組のメンバーは全員遠距離攻撃が出来るので、遠距離から攻撃したほうが効率が良い。死に戻っている暇があったら矢を一本でも多く撃ち込むべきだろう。

 近距離攻撃している人達が決死の覚悟で戦っているおかげで進撃速度も下がっている。今できることを全力で頑張る。

 しかし食いしん坊なボスだよな、甘いものが好きで、何でも食べそうな感じがする。……、そういえば、あれ誰か持っていないのかな。兎組の面々に確認をする。



 ゲーム時間一時、ボスはリンスドルフまで二百m、多分三十回目の回復を行っている。どうやらかき氷のようだ。大きなタライほどのかき氷をスコップで流し込んでいる。周囲のプレイヤーのかき氷は、通常サイズのようだ。フルーツが沢山載っていて美味しそうだ、私も欲しいので貰いに行っていいですか?


 しかし、今回はいつもと違っている。勢いよく食べていたが、直ぐに頭を抱えて食べる速度が止まった。頭がキンキンして大量に食べれないようだ。

 全プレイヤーが一斉に攻撃する、食べる速度が遅くて回復が追いつかないためか、ヒクヒクし始めた。ここしかチャンスが無いだろう、一気に近づいてボスのかき氷に蜂蜜をかける。ついでに通常サイズのかき氷を一つポシェットにしまう。


 ヒクヒクから復活したボスがかき氷を食べて、うおっ、味が変わったためか喜んで食べ始めて、また頭を抱えている。アホだなコイツは。

 かき氷を食べ終えて、立った瞬間に膝から崩れて両手を付いた。ボスのアイコンの横には毒の状態を示す、ドクロと骨が×に交差しているアイコンが表示されている。外側は鍛えられても内臓は鍛えられないようだ。

 周囲のプレイヤーが追撃を行っている、矢がどんどん刺さる、魔法使いが魔法で攻撃を加える、そしてついに、


「シェウムキーファーを倒しました。革新的なホテルが崩壊しました。


 全キャラクターに経験値千取得宝箱*二十個と、シェウムキーファーが持っていた食べ物のいずれか一種類百個をゲーム内ショップにて、0円で販売します。販売は次回メンテナンス後の×月○日を予定しています」

 大歓声があがった。みんなすごく喜んで、飛び上がったり、絶叫したりしている。兎組のみんなは燃え盛る砦に向けて火矢を放っているようだ。夜空に飛んでいく姿は凄く綺麗だった。


 倒したご褒美もなかなかの大盤振る舞いだな。しかしイベント終了後なのがちょっと残念だけど。でも食べ物が百個あれば他の人とシェアする事で、全種類食べれるんじゃないか? なかなか運営も考えるじゃないか、うふふ。



 それしても、あの砦はホテルだったのか、革新的すぎだろ!ビッシ!

 

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