第18話臨時メンテナンス、聞かれたくない質問

 日本時間十九時、ゲーム時間十八時だ。まだ全然日が明るい、夕方は二十一時なので、またクローネシュタット近郊では兎に絡まられそうだ。


「本日緊急メンテナンスを行います。日本時間二十一時、ゲーム時間二十二時に強制ログアウトされます。

 一番近い村までの帰還ボタンが表示されるので、安全な場所でログアウトをお願いします」

 なんだと、せっかくログインしたのに、こんな事なら夕方にもう少ししていれば良かった。確かに帰還ボタンが出ているが、お使いクエの途中だしクローネシュタットに戻ろう。


 街から離れる時に、茂みの中から大きな蛙が出てきた。先手必勝! 槍を突き刺す。蛙は前にジャンプし懐に入った。槍を引き戻すよりも早く蛙の口が動き、霧の様なものを吹き出した。

 サイドステップが発動したが、広範囲なので霧を受けてしまう。大したダメージはないようだ。威嚇系の攻撃なのかも知れない。

 槍を少しだけ短く持ち、軽く突く。蛙がジャンプするが手元に槍が戻っているので再度突き出す。十文字槍の横の刃が当たり、蛙が横にずれた。槍を横に振り、落ちたカエルに横の刃を刺す。

 蛙がヒクヒクしているので、今度は渾身の力を込めて刺す……? 死んだように見えるがウインドウが表示されない。何度か刺すが表示されない。


 不死身なのか? と思っていると霧のようなものがあたりを包む。視界全体が緑がかり、HPが急激に減りはじめた。HPバーの横にドクロと骨が×に交差したようなアイコンが表示されている。

 振り向くと蛙が二体いて、舌が中段と下段に同時に伸びてきた。サイドステップでかわす。蛙が左右に分かれた所で脱兎を発動させたが、HPがなくなったためその場に倒れた。


「フロッシュを倒しました。経験値百二十を得ました」

 英語じゃないな、このゲーム基本ドイツ語ベースっぽいんだけど、他の言語が入り混じっているから訳が分からん。


「最寄りの村に戻りますか? はい いいえ ※注意:LV十までは死んでもデメリットはありません」

 また死んでしまった”はい”を選択して、エールラーケからクローネシュタットに移動しなおす。


「脱兎」――――「脱兎」――――「脱兎」――――……

 しかし、この十文字槍は移動する際は邪魔だ。長いので変な持ち方をするとぶつかりそうになる。よって前に槍先を構える形で移動している。


 脱兎と休憩をしながら帰る。街道を見ると複数のプレイヤーパーティが戦闘をしている。しかし、その動きが気持ち悪い。六人が一糸乱れぬ動きで敵に近づき戦って、終わったら同様にまったく同じ動きで連なって動いている。

 他のPTを見ても、同様に全く同じ動きで敵に向かって行ってる。角のある兎から魔法攻撃を受けて先頭のプレイヤーが死んだが、他のプレイヤーの動きは変わらず、相手に迫って集団で攻撃している。

 いやー何あれ、新興宗教かしら。余所見をしながら脱兎していたら、目の前の藪を抜けると角のある兎が直ぐそばに見えた。

 ドカッ! 兎を槍で突き飛ばす。物凄い勢いで兎が吹っ飛ばされて、兎の角が木に刺さってヒクヒクいる。チャンスなのでそのまま十回位攻撃すると。


「アルミラージを倒しました。経験値三百八十が入りました」

 なにこれ! 経験値高! どれだけ強い敵だったんだ。剥ぎ取りナイフを刺してみた。兎の肉百個、兎の皮百個、アルミラージの角になった。

 しかし何で避けなかったんだ? 今までだって当たりそうな時はさけてたのに……。そういえば、街を出るときに避けるモーションを外したAIに変更したな。なるほどそのせいか。でもこれ使えるんじゃないか?

 遠くを歩いているアルミラージに向かって脱兎を発動する。相手は戦闘体勢に入っていない状態で槍を喰らって、気がついたときには吹っ飛ばされて、地面に刺さったり、木に刺さったり、岩にぶつかったりして、ヒクヒクしている。

 難なく止めを刺す事が出来る。その辺を普通に走るとアルミラージが出てくるので、一旦脱兎で離れて、再度脱兎で戻って吹っ飛ばす。これは楽だな。

 最初のと合わせて十三匹のアルミラージを倒して、アルミラージの角三本、肉と皮を千三百個。それと兎の涙大粒を手に入れた。


兎の涙大粒……兎から極々希に出る。透明の石の大粒。宝石としての価値が有る。レア度:七


アルミラージの角……獰猛なアルミラージの角。膨大な魔力が宿る。転職アイテムの一つ


 転職も気になるが、メンテナンス時間の前にお使いは終わらせておきたい、脱兎で街に帰る。街に入り商会に報告したところで、


「お、二日で達成ですね。流石のえーすさんでも、エールラーケとの往復は時間が普通に掛かるのですね」

 むむむ、エールラーケなんて本気を出せば五往復だってしてみせるさ。計算してないから達成出来るか分からないけど。今度はどうやってドヤ顔しようか考えながら街に出る。


 西門ギルド出張所でクエストの報告を行い、九千マールを入手する。持ち物の価格だけ確認してみるが、安い値段のものは省略。


・兎の涙:百万マール


・兎の涙大粒:千万マール


・アルミラージの角:三個*百万マール



 大粒凄いな。今後も沢山集めれば大金持ちになりそう。転職も気になっていたので、ギルド内のNPC女性に転職について質問をしてみた。


・戦闘職は、転職アイテムで転職が可能。


・一次転職はLV十から神殿で行う。


・魔法使いであれば、以下の三種の職に別れる。

 ヒーラー:癒し、バッファー:各種補助、ウィザード:攻撃


 まあ魔法も使えないしレベルも低いしまだ関係ないかな。LVUPの窓口でLV四にアップした。LV五は一万必要とのこと。


 もうそろそろメンテナンスだし、ログアウトドアからログアウトする。




 翌朝、日本時間九時、ゲームにログイン……できません。


「サーバがダウンしております。申し訳ございません」

 まだメンテナンス終わってなかったのか、一体運営は何をしているんだ!ホームページを見てみるか。


「お詫び。この度は大変申し訳ございません。緊急メンテナンスを実施中です……」


話をまとめると

・お叱り、ご意見、ご要望を数多く頂いている。


・チートと呼ばれている不正行為が複数件見つかった。


・RMTと思われる不正な取引が多数見つかった。


・BOTと呼ばれる人が操作していないキャラが狩を続けているケースが多数見つかった。少ない敵を人が狩る前に全て倒されてしまう。[このゲームでは全自動狩りは禁止]


・ゲームの接続人数が多く、ゲームを出来ない人がまだ多くいる。


・想定していた数倍の人数がプレイしたため、ゲームバランスが崩れている。

 :敵が少なく狩りが出来ない。


 :相場の変動が想定以上に早い。


 :LVが先行したユーザのみ、空いている狩場でプレイができ格差が広がっている。


・各種問題解決のために、サービスを継続しながらの実施は困難と判断。強制的にゲームを終了しメンテナンスの実施。ログの解析を行い、規約違反者には罰則規定に沿った対応を行う。


・今回のご迷惑に対して、更なるお詫びを検討中。


・返金手続きについても受付中。


 などなど、相当運営はてんてこ舞のようだな。返金まで始めたのか、これは誰かの首が飛んでるかも知れないな、可哀想に。しかしゲームがちょっと出来ないくらいで怒るなんて大人げないなあ。


・ゲーム再開は、日本時間×月×日の日曜日十五時を予定しております。


 ふざけるな! ほぼ三日じゃないか! まったく、仕事に対する責任感が足らないんじゃないか! 俺が行って仕事の何たるかをちょっと教えるべきかな。いや、もう俺が取り仕切るべきか?



 まあ少し落ち着こう、私としたことが。うーん。このゲームが出来ない時間は自分に取って必要な時間だ。

 理由は……私はゲームに関する知識が少ない。そして周りの人は色々と知っている。差がある。

 ゲームが出来ないのは皆同じ、この時間を使って私は勉強する事が出来る。周りとの差を減らす事が出来る。よし。


 さて、気になることと言えば、蛙と、規約やBOT、RMT、チートの話だな。蛙は後でいいか。

 規約違反というか悪いことをする気がなかったし、よく見ずに同意してたな。どんな事が書いてあるのか確認するか。それとBOT、チート、RMTも調べておくべきだな。他のVRゲームとかの情報も確認しよう。


 なるほど、自分が操作していないのに、勝手に狩りや何かをするのがBOTか。

 ゲーム内通貨マールを日本円や$などの現実世界のお金で売り買いするのがRMT。BOTの稼ぎがマールになり、そのマールがRMTの原資になっているようだ。

 ゲームを改変する、サーバ上のデータを弄ったりするのがチートね。

 AIカスタマイズも、気を付けないと規約に触れる可能性があるのか。でも他のゲームでもAIカスタマイズは一般的な行為みたいだし、区分はどこにあるんだろうか?



 他のゲームも含めた状況、

・VRゲームは手動操作ではなくAI制御が当然になっている。


・人によってカスタマイズしたい部分が変わるため、それら全てを制作側が用意出来ない。


・AIカスタマイズは一般的な話、WIKIや掲示板などにカスタマイズしたAIが公開されている。


・作成したAI全てをチェックする事は現実的に不可能。何か問題があった場合は、後から規約に準じた罰則が行われる。


・BOTの利用はゲームによって異なる。自動狩りOKのゲームもある。



 このゲームの場合は、

・プレイヤーがログインしてキャラを操作している事、何にも考えないで寝ているような状態で自動でするのはNG。寝てしまった場合は強制ログアウトになり、キャラクターはその場に放置される。

フィールドなら敵に襲われて死亡する可能性がある。


・戦闘で攻撃を当たりやすくしたり、避けるのをアシストするのはOK。


・生産はAIに任せてOK[当然起きてること]。


 などなど、なるほど。今のところ逸脱はしていないようだ。


 このゲームの禁止事項やチートと呼ばれる内容は、

・サーバ側に高負荷を与えるような行為[DDOS攻撃他]


・ゲームサーバ側の情報やゲームプログラム改変行為全般

 自身のパラメータ改変、経験値取得倍増、アイテムドロップ率アップ、アイテムデータの複製や改ざん、……


 などなど、こちらも私は該当していないようだ。しかし、自分がログインしないでゲームして楽しいのだろうか? わからん。

 そういえば、集団で全く同じ動きをしていたプレイヤーを見かけたけど、もしかしてあれがBOTだったのだろうか? 全自動で動いているというならそれっぽい気がするな。



 さて、次は蛙のことでもかんガエルか、なんつって。さてあの霧は多分毒だろうな。最初に影響を受けなかったのは、称号による影響で軽減もあったのだろうが、何らかの状態異常になるのは、確率があるのだろう。百%毒になるとか嫌だよね。

 つまり今までの敵でも毒を持っている敵がいたのかも知れない。戦った中ではちょっと思い当たらないな。毒を受けたような感じがしない。見かけた中では、蜘蛛、蛇、あたりが怪しいな。

 でも毒状態になったら、直ぐに毒消しを飲めたら便利そうだな。今度考えよう。


 そういえばアルミラージの攻撃は即死攻撃だったのかな? いや、あれは大ダメージって感じがした。死ぬ感覚慣れしている私が言うんだからあってるだろう。


 敵が複数居ることに気がつかなかったのは、まずかったな。周囲が開けている場所なら気が付けるが、藪や林の中は危険だ。油断せず、周囲に気を配るくらいしか今のところ思いつかない。

 街道を脱兎で移動するのは公になってからだろうな、というか、いまのAIで街道出たら、NPCを殺しかねない。


 あとは、蛙の飛び込みか。今までの敵の突進は直進が多かったが、蛙は山なりって感じだったな。変化球を始めてみて戸惑ったという感じかな。でも蛙の動きは分かったし、戦闘中に対処出来たから、多分大丈夫だろう。



 金曜日の夜、日本時間十九時。 お、孫娘からCONNECTが来てるぞ。何かな


「ゲーム出来ません>< サーバメンテナンス中だって」

 許すまじ。鎌倉の大仏が、中に人を閉じ込めたまま走り出して怒りにくるレベルだよ。お、また書き込みが、


「そういえばお爺ちゃん。ゲームやってみた(^ω^)?」

 あああ、ついに来てしまった。孫と同じVRゲームをしていて、死にすぎて変な称号を持っている人が、聞いて欲しくない質問ランキング第三位に入るような一言が。

 いや冗談を言ってる場合ではないな。今のキャラでは会いたくなかった、だって“兎の餌”と“兎のふん”ですよ。“脱兎”はいいとしても。

 今の運営状態では、とてもキャラ再作成なんて出来る状態じゃなさそうだし。このキャラ結構いい物持ってるし、脱兎失いたくないし。

 嘘は付きたくない、でも今までやってた事言ってなかったのも嘘と思われるかもしれない。どうしよう。もうここは男らしく、正々堂々と話そう。話す? うーん。


 決めました話します。経験上、真実に勝る嘘など無かった。じゃないと孫娘とゲーム出来ないかも知れない。書き込みをする。


「実は初日からゲームをしていました。一緒にゲーム出来たらと良いな思って。でも下手過ぎて、変な称号を貰ってしまって。そんなキャラクターじゃ一緒にしたら迷惑になるかも知れないから、ちょっと言い出せなったんだ。ごめんね」

 直ぐに返信があった。


「え? そうなの? そんなの気にしなくて全然いいのに。じゃあ再開したら一緒にやろうよ。

 教えてあげるよゲームのやり方ヽ(*´∀`)ノ」

 キターーーーーー。神様ありがとう。そして娘よ、孫娘を産んでくれてありがとう。もう死んでもいいかもしれない。いや死にたくない。あ、書き込みがある。


「どんなキャラでやってるの? 私は戦士できこりで、獣人熊の女性キャラで、名前はチョコミントです」

 熊の女性型か、あんまり気にしてなかったから覚えてないな、というか獣人多すぎるんだよ。そうそう、返信しないとな。


「魔法使いで薬師、人間男性で、名前は“えーす”です」


「え(;゜Д゜)!!? お爺ちゃん。えーすさんだったの? 兎お爺さんの? うそΣ(゜д゜lll)!!!!」

 ああ、やってしまったかもしれない。社交辞令を信じた私が馬鹿だったのか。直ぐに書き込みがある。


「やったー!(n‘∀‘)ηお爺ちゃんかなりの有名人だよ。かなり否定的な人がいたけど、今では掲示板とかでも好意的な話で話題になってるし、注目されているよ」


 私のどの辺に好感度があるのか理解出来ないけど、それでも肩の荷が一つ降りた気がする。メンテナンスがあってよかった。


「あ、でもいまフレンドの人とPTを組んでやっているから、直ぐには一緒に戦えないかも(´;ω;`)出来るようになったら連絡するね(。◕‿◕。)」

 なんだかなー、今日のこの、良い感じになったり、落ちたりの繰り返しは。でもこれで晴れて一緒にゲームができるかも知れない。

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