第23話 揺れ動く心

 電車の中で城太郎からメールが届く。すぐに到着する時間をメールする。こんな時に限って葵はまだ家にいる。ボヤ騒動で志乃さんの信用が地に落ちてしまったから。城太郎は一人旅を早々に終えて実家に荷物をまとめに帰って、すぐに家に帰っているという。そして、宿題とバイトに明け暮れているようだった。私はもちろんはじめからその予定を聞いている。だけど尚也にはまるで三人一緒の時期に帰るかのように言っておいた。しばらく城太郎と二人だけになるなんて言い出せない。一週間ぐらいだし大丈夫だよね?


 駅に着くとすぐに城太郎の姿が飛び込んで来る。元は色白なのにこんがりと日焼けしている。ハングリーな旅に行ったって感じだ。たくましくも見える。

 電車から降りるとすぐにこちらにやってきた。


「遥! なんだあんまり日焼けしてないな」

「え? あー日焼けどめ塗ってるしね。それに外でなんかってしてないし」


 尚也とは尚也の家に行ったり暑いので屋内ばかりウロウロしてたな。尚也も色白だけど真っ白いままだったな。


「遥! 夏なんだぞ!」

「なんか暑苦しいよ。キャラが変わってる」


 城太郎は冷静沈着でクールなのに。一人旅でなにかあったの?


「そんな遥にはこれをプレゼントだ!」


 だから誰? そしてこれは……プールの入場券。いらないし!! 一人旅してきたからって私に一人プールを勧めるの?


「いや、一人でプールは入らないでしょ?」

「誰がプールに一人で行けと? 」

「城太郎も行くの?」

「ああ。バイト先でもらったんだよ」


 本気で一人でプールを勧めてきたのかと思っちゃったじゃない。キャラが戻って元の城太郎になった。


「そうかー。屋内プールじゃない!! いいね」


 日焼けどめを塗る手間もかからないし、水場だし、夏らしいことしてないからちょうどいい!!


「じゃあ決まりな。明後日とかいける? バイト休みなんだよなあ」

「あ、うん。私の予定はないも同然だから」


 バイトは夏休み明けから始まる。念のためにバイトはいれてなかった。良かった。


 懐かしいと思える家に帰ってきた。この感覚はなんなのだろう。


「私、水着探すね」

「お、持って来てるんだ」

「向こうでなかったから」

「ん? 向こうで行ったの?」

「水着ないからいいやーって入らなかったの」


 尚也とプールに行く話しがでたんだけど、本当に向こうで水着を探してなかった。が、尚也と関係した後だったんで行くのにためらいがあったのも事実。向こうに置いておかなくて良かったと胸をなでおろした。あったら、言い訳考えつかないで行くことになっていただろう。


「ふーん。じゃあ、頑張って探せよお」

「うん」


 荷物を私の部屋に置いて城太郎は去って行った。

 持って帰ってきた荷物を片付けて荷物が膨らむ前に水着を探す。えー? ええーー?? ない。なんでないの? 何処かに紛れてる?……ない。紛れてないのか……ただないのか……向こうでちゃんと探してなかったから? あっちにあるのかな?

 仕方ない荷物を片付ける。あ……またやってしまった。尚也の写真。なくさないように本に挟んでいたからそのまま持って来てしまった。また、いつもの場所に帰ってくる。机の引き出しのなか。なんかお帰りなさい尚也って感じ。

 水着どこなのよー!?


 コンコン


「遥ー、昼飯!」

「あ、うん」


 引き出しをそっと閉める。

 ドアを開けてみるといい匂い。城太郎は言葉に嘘はなくこの中で一番の料理上手だった。キッチンに匂いに誘われて行ってみると今日は和風パスタだった。


「美味しそう!!」

「まあ、あれだ帰って来てすぐは疲れてるだろう? 晩の料理当番、代わりにしてあげるよ」

「ありがとう。城太郎!」


「いただきます」

「おう。あ、水着見つかった?」

「それが……ないのよどこにも。どこなんだろう?」

「荷物に詰めた記憶あるのか? 向こうでも探したっていってただろう?」

「それが全然ないのよね。詰めた記憶というか水着を見た記憶も」

「それってないんじゃないのか?」

「やっぱり? 出てくるような気配が全くしないし」

「えー。まじかよ」

「あ、水着、明日買いに行くね。こんだけ探してもないんだから紛失したんだよ」

「水着は紛失しないと思うんだけど……」

「なに?」

「いや、あーじゃあ明日買って来て」

「うん」


 翌日城太郎がバイトに出かけてから私は買い物に出かけた。お昼は一人だし外食するつもりでいた。夜ご飯を作る当番は城太郎に回る。ラッキー! てことでお買い物。久しぶりの水着売り場。もう夏休みの終わりなので品揃えは悪かったけれど、半額セールをしていた。ラッキー! 選択肢は少ないけれど気に入った水着を見つけた。少し大胆なセパレートタイプの水着だけど選ぶ余地がなかったからしかたない。上からなにか羽織っておこう。どうせ本格的に泳ぐわけじゃないし。

 売り場の隅でこれまた半額にされたビーチボールや浮き輪が売っていた。そうだ。どうせ半額なんだし、泳げない私にはちょうどいいアイテム。


 買い物も終わりお昼のランチを一人でいただく。

 ふと尚也の言葉を思い出す。城太郎と言って抱きついていたって……まさかね。


 ついでだしお金に余裕もあったので服も買い揃える。夏服が安く買えたし良かった。


 家に帰るともう城太郎は帰っていた。晩の料理当番は城太郎だったから、疲れていたから助かった。城太郎の美味しい晩御飯食べながら明日の打ち合わせ。朝から出かけて向こうでお昼は食べて来る。それだと順番的に明日の晩の料理当番は城太郎になる。料理当番を毎晩押し付けるのはさすがに気が引ける。


「晩御飯は私が作るね」

「いや、食べて帰ろう」

「え?」

「プール入ったんだし、疲れてるだろう?」

「そう、そうだね」


 今日の買い物ですでに疲れているし、明日はプールだしね。まあ、泳ぐことはないけど疲れるよね。


「じゃあ、明日は九時に出るからちゃんと用意しておけよ」

「うん。わかった!」


 部屋に戻り水着を持って洗濯場所へと向かう。水着を一度手洗いして脱水機にかける。ほとんど乾いてる状態になった。明日には乾くだろう。うーんやっぱりちょっと大胆な水着かなあ。これを着て城太郎の前にいる……恥ずかしいなあ。


 部屋に戻りバックに荷物を詰める。上から羽織るパーカーも一緒に荷物に詰める。


 コンコン


「遥。俺の次でいいか風呂?」

「うん。お先にどうぞ!」

「じゃあ、出たら呼びに来るな」

「うん」


 城太郎がいなくて葵と二人でいることは多かった。でも、城太郎と二人きり……なんだ……ん? なんか意識してる私?


 お風呂に入りさっきの城太郎を思い描いた自分を思い出す。城太郎……。尚也に似てるからこんなにも気になるんじゃないの?


 私のばかー!

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