第12話 同居人

 え? そこには細身の尚也によく似た男の子が立っていた。本当によく似ている……。


「え? あ、葵君だよね? 」

「ああ。そうだけど。岡城太郎君だよね? 中に入って」

「あ、ああ。うん」


 ん? 城太郎君何に疑問を持ってるの……チラチラと私を見ている……あ、私?


「あの私、遥です。桜井遥」

「ええ! 男じゃないの!?」


 もう一人いた。この紛らわしい名前ではめられた人が。



 というわけで男女の間違いについての話を終えた私と葵君と、それを聞いても納得できそうにない城太郎君。


「ちょっと電話してくる」


 と城太郎は席を立つ。


「じゃあ、城太郎君の部屋に案内するよ」


 と言って葵君と城太郎君の二人は奥へと消えて行く。前に聞いた城太郎君の部屋を思い浮かべる。そこは洋室だった。ちなみに葵君も洋室。私だけ和室になっている。洋室といっても日本家屋にある洋室で、マンションの洋室とはずいぶんと雰囲気が違っている。

 私は居間で葵君を待つ。城太郎君ってお父さんが話の窓口だったよね。今日は平日。どこに電話してるんだろう。まあ、苦情の一つも言いたいよね。言ったし。あの時、私も葵君も実家にかけてる。でも、諦めた。こんな時期だからね。それに、私はこの家が気に入ってたし。




 葵君の足音がして姿が見えた。


「やっぱり言いたいんだろうな。文句」

「私も母親に電話したもんね」

「それにしても、城太郎君も同じだったとは驚いた。親父も案外、気にしないんだな」

「それか葵君のお父さんも私のこと男だと思ってるとか? 」


 ありえる。葵君が間違えるように葵君のお母さんは私の話をしてたんだ。葵君のお父さんも間違えても不思議じゃない。


「あーそれかも。男ばっかりだと思ってるんだろうな」

「男ばっかりってなんか合宿みたいだね」

「本当だな」


 合宿と男ばっかりな生活を想像してたら足音が聞こえて来た。城太郎君だ。荒々しい足音。まだ納得はしてないみたいだね。

 居間に城太郎君が入って来た。その場に座ると同時に


「どうする? 」


 葵君はストレートに城太郎君に聞いた。


「ああ、さっきは、その……ごめん。男ばっかりだって聞いてたっていうか思ってたから……だけど、そのお世話になります」

「ああ」


 居心地悪そうな城太郎君と爽やかにそれに答える葵君。


 と、そこにまた


 ピンポーン


 とインターフォンが鳴り響いた。


「あ、荷物かな? 」

「俺のかも? 」


 とりあえず三人で玄関に行くと私の荷物が届いていた。ちょうど三箱だったのでそのまま三人で受け取った。葵君と城太郎君にも手伝ってもらって私の部屋に荷物を入れる。


「じゃあ、私荷物出すね」

「ああ、頑張って」


 ちょっと皮肉な笑顔を浮かべる葵君。


「あ、じゃあ」


 と、まだまだ私の存在に違和感ありありな城太郎君。

 二人とも私の荷物を置いて出て行った。



 私は荷物は触らずに机の前に座る。そっと机の引き出しを開ける。そこには尚也がいた。今朝、駅まで送ってくれて、別れたばかりなのに、写真を見ると思い出す。ギュッと胸を掴まれる感覚を。引き出しをそのまま閉じる。携帯を見つめて、そのまま机の上に置く。もう少しだけ考えたい。いいよね? 尚也。

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