第11話 同居
見慣れた景色が見えなくなった頃メールが来た。尚也かな? 携帯を見ると見知らぬアドレスだった。だけど、件名に胸が躍った。
件名『葵です』
慌ててメールを開くと
『おばさんからメアド聞いてメールしてます。勝手にごめん。迎えに行くよ。何時に着きそうかな? 』
と書いてあった。慌ててメールを打ち返す。この前と同じ時間に出てよかった。
こんな些細なことにも胸躍らせるのは本当に私は葵君の事を……。
駅の改札を出ると葵君がいた。
「遥! 」
「葵君わざわざありがとう」
「荷物持つよ」
と、もう私の手から今度は、前よりも少し重くなった荷物を持ってくれる。尚也のように。
「いいの? ありがとう」
「その為に来たんだし気にしないで」
「あ、うん」
そして、実家に帰ってすぐに風邪をひいて寝込んでいたとか、まだもう一人は来てなくて昼過ぎに来るんだとか話をしながら家へと向かう。もう一人ってどんな人だろう。名前は岡城太郎というらしい。わかりやすい。間違いなく男の子だね。
そして、聞きたい事を聞いてみる。好きだと確信する前に聞いておいた方がいいだろう。
「葵君って彼女はいるの? 」
「え? 」
「あー、の、友達みんな遠距離だとか嘆いてる子が多かったんだけど、葵君って高校通えるから遠距離じゃないなーとか思って。それにお母さんが葵君モテるって言ってたし」
く、苦しい。苦しい、言い訳だよ。後半は事実だけど。
「あー、あれかな? 」
「あれ? 」
なんの話? そして渾身の私の質問の答えになってないんだけど。
「あ、俺がモテるって母さんが思ってるのって、なんか付け回されて家にも来るし、母さんが勝手に家に上げないように話したんだよ。その子の事を」
「あ、もしかして、それで家変えたとか? 」
「いや、家は別だよ。その子にバシッと好きじゃないし、今後も好きにはなれないって言ったら来なくなった。まあ、言ってすぐに家を変えたんだけどね」
バシッとのわりには逃げてない? 来なくなったんじゃないような……。
「そうなんだ」
で、答えは? とは聞けないよ。あー、あんな無理矢理な質問したのに。
「あ、で、彼女はいないから。いないから付け回されてたんだよなあ。きっと」
「そう。そうなんだ」
ホッとする。葵君は彼女なしか。
あれ? ホッとした? やっぱり好きなんじゃないの? 私は葵君のことを……。
家について荷物を部屋に入れて、居間で一休み。残りの荷物は昼過ぎに届く事になっている。それまでは荷物に追われることはない。いや、押し入れには予備軍がいるけれど対峙する気にはなれない。すっかりくつろいでる私は庭を見る。
「あ、チューリップ」
そんな形や見栄えがいいわけじゃないけど庭に咲くチューリップはなんだかとっても可愛い。
「なんか毎年そのまま植えっぱなしだったみたいで綺麗じゃないけど」
「ううん。可愛いよ。ところどころ生えててなんかたくましさも感じるよ」
そこからは庭の話になる。お祖父さんなので手入れが大変な花は手を出さなかったようでチューリップのように植えっぱなしな花ばかりみたいだと、葵君は楽しそうに話をしている。葵君、花好きなのかな? そして、猫の話へと変わっていった。餌付けしていた様子はなくてただ庭の日当たりのいい場所で日向ぼっこをして帰って行くだけなんだとか。猫も好きなの?
「花のことすごい調べてるし、猫も観察してるね」
思わず声に出して言ってしまった。
「あー、その暇なんだよね。チューリップ見つけたのもひまわりでも植えようと思って掘り返したら、球根があって気づいたんだ。猫はなにしに来てるのか気になって、見かけたら様子を見てただけだよ」
と、恥ずかしそうに答えてくれた。
お昼は二人でスパゲッティーを作って食べた。簡単なトマト味。
食後も家が古いので思った以上に手がかかるので葵君のお母さんにいろいろと注意されてるとか家の話で過ぎて行く。
と、そこへ
ピンポーン
とインターフォンが鳴り響いた。
「お、来たみたいだな」
葵君は立ち上がる。私も一緒について行く。同居人になる人だもの、もちろんどんな人か見たい。
玄関を葵君が開ける。
ガラガラ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます