第8話「禁忌の魔術」中篇
そして数日後。
ゼイオン侵攻の為、テンハイス城にゾルディオンと共にクルスとローがやってきた。
テンハイス城の一室にて、第五小隊と五人で作戦会議を行っている。
「まずは私のゾルディオンが先行し、ドライハ城に先制攻撃をする。勿論兵を一匹も逃さない。壊滅的打撃を受けたこの状況で敵が攻撃をしてくる可能性は低いだろうが、その時は君達の出番だ」
ゾルディオンの整備を任されているローの見解の元、立てた作戦をクルスが説明する。
これは戦いなんかじゃない。一方的な攻撃による虐殺だ。アレクはそう強く感じだ。
レイもリンも渋い顔をしており、この作戦の残虐性に気付いていた。
これが本当にエレシスタを守るための戦いなのだろう……?
アレクはクルスへの疑心を強くしていた。
「フェールラルト卿、城塞内部の都市にいる市民も攻撃対象でしょうか?」
「無論だ。ゼイオン人である以上戦いの火種になる」
アレクの質問にそっけなく答える。
もうダメだ。
彼について行けない。
アレクはここで、そう強く確信した。
「ならば、俺はこの作戦には参加出来ません。俺は攻めてくるゼイオン軍からこの国を守るために今日まで戦ってきました。だから、そのゼイオン軍と同じ事は出来ません」
アレクはクルスを前に恐れず反対する。
彼はリックのように罪のない人々が殺さずに守る為に戦ってきた。
それなのに、自分が罪のない人々を殺す側に回るのは本末転倒だ。
「ダメだ。君はアークブレードに乗って戦って貰いたい」
「こんな戦いが続くなら俺はアークブレードを降ります。投獄でもなんでも好きにして下さい」
「アレク……」
守るためにアークブレードを使うアレクと、攻め入る為にアークブレードを使うクルスと、二人の意見は平行線で意見が合わない。
リンはアレクの気持ちがよく理解できた。
だが、実の兄であり国王代理でもある彼に対し反論する事を躊躇い言い出せずにいた。
「アレク・ノーレくん。キミはアークブレードに乗り戦い続けなければならない。何故ならキミはその為に生まれた……いや、作られたんですから」
「えっ……」
アレクはローの言っている言葉の意味が何一つ分からなかった。
生まれるならまだしも、作られるというのは人間を対象に言うにしては不自然であった。
「ローの言う通りだよ。君はアークブレードを動かす鍵なんだ」
クルスはローの言う事を肯定するが、それでも納得がいかない。
その言葉に現実味がないからだ。
「アークブレードには生体認証が付いていてね、特定の人間にしか動かせないんだ。だから、アークブレードを動かす為に君を作った。魔術でね」
「フェールラルト卿!嘘はやめて頂きたい!」
レイもクルスの言葉が嘘のようにしか聞こえないようであった。
だが、クルスの言っている事は真実である。
「嘘ではないさ。考えてもみたまえ、何故アレク君しかアークブレードは動かせないのかな?」
たしかに、アレクにしかアークブレードが動かせない理由は未だに分からない。
だが、生体認証やアレクが魔術で作られたという話が本当であれば辻褄が合う。
「アークブレードを動かせる人間のクローン、それが君なんだ。アレク・ノーレくん」
アレクの理解が追いつかない。
自分は人の子ではないのか?
疑問が頭の中を覆い尽くしていた。
「お、俺には両親が居ます!もう亡くなっているけど……だから!」
そうだ、自分には両親がいるだから魔術で作られたクローンなんかじゃない。そう自分に言い聞かせた。
しかし、段々とクルスとローの言葉が真実にも聞こえてきていた。
「そう、君には両親がいる。両親という役割を与えられた研究者がね。だが、君に家族なんていない。人間かも怪しい君にはね」
クルスは残酷な真実をアレクに突きつける。
もうアレクには何が真実で何が嘘なのか分からなくなっていた。
「あの二人はつまらない人間でした……情が湧いたのか、キミを研究所から逃がそうとしてね。だから、殺したました。私が!」
そういう事だったのか。
ローの発言で今までぼやけていた両親の死をアレクは知ってしまった。
自分の目の前で庇いそして殺される両親の記憶が段々鮮明に蘇る。
「じゃあ、ファース学園の校庭にアークブレードがあったのも……」
「生まれつき高い魔力を持つであろう君がアークブレードに対しどう反応するかの実験さ。リック君を亡くした悲しみにより生まれた高い魔力によりアークブレードに起動し実験は成功したという訳さ。まぁ、ゴブルがあそこに攻めてくるのは流石に想定外だったがね」
自分は単なる偶然の巡り合わせでアークブレードを動かす事が出来たのだと思っていた。
しかし、予め仕組まれていたんだ。まるで運命のように。
「だから、君は死ぬまでアークブレードに乗って戦い続けなければならない。それが君の生まれた意味なんだから」
「フェールラルト卿ッ!」
レイは激怒し、クルスの胸ぐらを掴む。レイにとってクルスは恩人である。
だが、アレクの真実の前ではそれすらどうでもいい。
アレクを実験動物のように扱う彼らに怒りを覚え、レイはショックを受けているアレクに代わって殴ろうといていた。
「すぐ怒り殴りかかるとは、混血とはいえ所詮はゼイオン人か……我が家の名を上げるためにゼイオン人の血が流れている君を受け入れたのだがな……」
クルスは冷酷にレイの頬を手で打つ。
貴族であるフェールラルト家がエレシスタ人とゼイオン人のハーフを引き取ったとなれば、良いアピールになるだろう。
実際それでクルス・フェールラルトの名が上がったのは事実であった。
だが、自分に従順でないのであれば必要ない。以前から嫌な顔見せずに接してきたが、所詮はゼイオン人と悟りクルスは切り捨てた。
この事に関しレイはショックであった。
恩人に見捨てられ名声の為に自分を利用していたのだと知ったからだ。
「これらの研究を進めたのは私ではない、ローだ。さらに言えば、オリジンの発掘と研究を進めたのは私とリンの父、テイス・フェールラルトだ」
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