第7話「共存への道」後篇


 地面にレンガが敷き詰められているルガーの街を一機のナイトがスラスターで前進する。

 スラスターを切りガシンと重々しい音を立てながら地面を踏み、ナイトはガゼルの乗るゼルガインに立ち向かう。

 剣先をゼルガインに向けるも、ゼルガインの大剣に腕が斬られ、丸腰となったナイトは頭部から胴体に目掛けて斬りつけられる。

 街である事を考慮し、魔動石に負荷を掛けずに撃破したのだ。


「クッ、レーゼ!先に行け!ここは俺が引き受ける!」

「すまない、ガゼル……!」

「おっさん、死ぬなよ!」


 ヴァーガインがゼルガインのいる後方に頭を向ける。

 ガゼルの強さは弟子であるライズが一番よく知っている。

 だが、どこか不安であった。


「ライズ、お前は俺よりも自分の身を心配しろ。なんとしてでもレーゼを守るんだぞ……」

「分かったぜ、おっさん!」

「ガゼル、また後で落ち合おう」


 ライズとレーゼはガゼルに通信を送り、ゼルガインを残しそのまま直進していった。

 追手のナイトを全部倒したと思った所に、異常に高い魔力反応を探知する。


「来たかアークブレード、アレク・ノーレ……!」


 建物の間をスラスターで駆け、アークブレードは正面から向かってくる。

 市街地では障害物が多いためアークブレードのような近接戦に強い魔動機が有利となり、先行させたのだろう。

 ゼルガインは大剣を両手に構え、迎え撃つ。

 アークブレードが縦に剣を振ると、ゼルガインも剣を横に振り、アークブレードを弾き飛ばす。

 パワーに押され弾き飛ばされたが、アークブレードはなんかと姿勢を制御し着地する。


「どうして、俺とアンタが戦うんですかッ!どうしてッ!なんでッ!」

「魔動機に乗りながら迷うのかッ!やはりお前もまだ甘いようだな、アレク・ノーレ!」


 ゼルガインはアークブレードに向けて大剣で突く。

 アレクは操縦桿を動かし、地面を蹴り跳躍しゼルガインを飛び越えてゼルガインの背後に立ち、剣を縦に振り背を斬る。

 斬り裂かれた背中の跡からは、内部の機械が見えていた。


「まだだッ!まだ俺は負けてはいないッ!」


 ゼルガインは重装甲型の魔動機だ。機動性の高いアークブレードに攻撃を当てる事が難しい。

 その事にガゼルは気付き、ゼルガインは両手で握っていた大剣を捨て、最大限の速さで振り向き殴り掛かる。

 鋼鉄の右拳が刻一刻とアークブレードに向かってくる。


「アレク!このままではやられるぞ!」

「わかってる!」


 マギラがアレクへ忠告する。

 このままではやられるのはアレクも分かっていた。

 ゼルガインのパワーはアークブレードを上回っていてもおかしくはない。

 拳が当たれば致命傷となる。

 相手は敵とはいえ一度は分かり合えたかもしれないガゼルだ。

 殺すを躊躇っていた。

 だが、このままではアレク自身が殺される。

 迷いが生まれ、反応が遅れたが、アークブレードは剣を両手に握りゼルガインの胴体を目掛けて突き刺す。

 拳よりも先に剣先がゼルガインへ届き、左腕の付け根に剣が突き刺さる。

 殴り掛かった拳はアークブレードの頭にぶつかり、左目が潰れモニターの左視界が途絶える。

 アークブレードは突き刺した剣を抜き、一歩下がる。

 胴体に突き刺さればこれはガゼルも無事ではないだろう。


「ふんっ、流石だな……アレク・ノーレ……」


 ゼルガインからガゼルの弱々しい声が聞こえる。

 自分がガゼルを討ったんだ。

 だが、ヴァグリオの時以上に後ろめたさをアレクは感じていた。


「師匠ーーーーッ!!」


 ライズの泣き声とともに、ヴァーガインが翼を広げ向かってくる。

 恐らく助けに来たのだろう。

 ヴァーガインはゼルガインの前に立ち塞がっているアークブレードを蹴り飛ばし、建物に激突させる。


「馬鹿弟子が……レーゼを守れと言っただろ……」

「師匠!アンタもいないとダメだろッ!」


 ヴァーガインはゼルガインの肩を持ち、空を飛び撤退していく。

 ガゼルの命が消えそうになり、ライズは泣きながら取り乱す。

 師匠が死にそうになっているのだ。取り乱すのも必然であった。


「ようやく……師匠と言ったなライズ……」


 今までおっさんと呼んでいたライズが師匠と呼んだ。

 その事にガゼルは安心し、身体から力が抜けていく。

 そして、ゼルガインから魔力が消えた。

 それはガゼルの死を意味していた。


「し、師匠ぉ……」


 ポタポタとライズの目から涙が落ちていく。

 泣き止もうと思っても、泣き止まないず涙が絶えず流れる。

 操縦席のモニターの右側から夕陽が見える。

 いつもならば見もしない夕陽が、今のライズにはとても眩しかった。


「アレク・ノーレ……お前はオレが必ず殺す……オレがッ!」

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