第1話「伝説の続き」後篇


「なんだ?!」


 ゴブルの操者も驚いている。

 地面が、それも校庭の地面が光ったのだ。驚くも無理もなかった。

 地面が割れ、青い巨人……

 いや、青き魔動機が地中から姿を現す。

 青に白の二色が機体を彩り、鋼鉄の鎧を纏う騎士のような姿をしている。

 すると、青き魔動機は拳を突き出し、ゴブルを殴り飛ばすと機体が飛び、地面に叩きつけられる。


「なんだよあの魔動機!?」

「まさか、オリジン……?!」

「バカ言え、こんな学校にオリジンなんかいる訳ねぇだろ!」


 操者が混乱している時、青き魔動機は腰を降ろし膝立ちの態勢になった。

 見上げたアレクの目と青き魔導機の光り輝く二つの目が合う。

 まるで「お前が乗れ」と、そう語りかけているようであった。

 操縦席へと繋がる腹の隔壁が開き、アレクは迷わず青き魔動機の元へ走る。

 足や膝を足場に、アレクは操縦席へたどり着く。

 魔動機は基本10m前後の全高であり操者が乗り込む時は立ち膝の態勢であれば、よじ登ってでも、操縦席に乗り込む事ができる。

 人一人が乗れるだけの広さしか無い操縦席を見渡すが、無人。

 さっきまで動いていただけに不自然であったが、そんな事を考えている暇はない。

 操縦席に座り、隔壁が閉じる。

 閉鎖された空間となり、なんとか見えるような暗さであったが、モニターに光が灯る。


「アーク……ブレード……それが名前か」


 モニターに書かれた文字を読み上げた。

 どこかで聞いたような名前であったが、思い出せずにいた。

 すると、すぐにモニターに外の様子が映し出される。

 その光景には、ファース学園の校庭とそこにいる二体のゴブルの姿があった。

 殴り飛ばされたゴブルはなんとか立ち上がったようだが、警戒しているのか攻撃はしてこなかった。

 アークブレードは立ち上がり、ゴブルの方へ目を向ける。


「この野郎ッ!叩きのめしてやる!!」


 ゴブルは棍棒も持っておらず、素手で襲いかかり、鋼鉄の拳がアークブレードへと向かっていく。


「どうすれば…こうか!」


 アレクの頭の中に初めて乗る魔動機の操縦法が分かっていく。

 まるで身にしみるほどに操縦していたような感覚であった。

 両手の届く所にある、操縦桿の働きをする光る球体を手に取り、動かす。

 すると、ゴブルの拳をアークブレードは左手で受け止めていた。

 拳の動きを見切っていたかのような素早い動きであった。

 アレクはゴブルの右手を強く握り、右腕を引きちぎるようなイメージを浮かべ、光る球体を動かす。

  魔動機は人から出る魔力を介して、操者の思考を読み取って動くように出来ていおり、アークブレードはアレクのイメージ通りに右手を掴み、横にゴブルの右腕を伸ばし、引きちぎった。

 右腕が胴体からちぎれ、投げ飛ばされた。


「う、うわぁぁぁ!助けてくれぇ!」


 拳を掴み、右腕を引きちぎるまでの動作に一瞬の隙もなく、ゴブルの操者は悲鳴を上げる。

 後方で一部始終を見ていたもう一体の操者は恐怖しているのか、助けには行かず、仲間を見捨て東の方へと後退していく。


「頼む、命は!命だけはぁ!」


 アレクの耳に操者の命乞いは聞こえた。

 だが、助けてとも言える暇も与えずリックを殺したこいつをアレクは許せなかった。

 リックは殺されたのに、こいつの命を助けるなどあまりにも都合が良すぎる。

 困った人を見過ごせない性分である彼でも許せなかった。

 アークブレードは左腰の鞘から両刃の剣を抜き、ゴブルへ斬りかかる。

 まずは縦に振り左腕を斬り下ろし、次は横に振りゴブルの身体を支える両脚を斬り、文字通り手も足も出なくなったゴブルは地面へ倒れた。


「たのむ……たすけてくれぇ……」


 操者の涙ぐんだ情けない声が聞こえる。

 だが、アレクの気が変わる事は全く無い。

 アークブレードは剣を逆手に持ち、ゴブルの操縦席がある腹を目掛け突き刺し、剣を抜き取ると剣先に操者の血が付いている事にアレクは気付いた。

 アレクは冷静に今の状況を振り返った。

 相手はリックの仇であり、自分も殺そうとしていた相手だった。

 彼も兵士だ。武器を持っている以上は死んでも、殺されても、文句は言えない。

 だが、アレクの心の中では人を殺してしまったという罪悪感が芽生えていた。

 エレシスタでは殺人は重罪である。

 当然アレクが人を殺した事などまず無かった。

 複雑な気持ちを抱いていた時、一体の魔動機が近づいてくる事に気付く。

 背中のスラスターを吹かせ、アークブレードの目の前で静止した。

 明るい黄緑色をしており、両手に銃を持っており、その魔動機はアークブレードに向け、銃口を向ける。


「ゼイオンの魔動機をやったのはキミね?悪いけど付いて来て貰うわ」


 通信が聞こえる。

 恐らくはあの魔動機の操者からだろう。

 声はアレクと同い年くらいの女性の声であった。


(初めて見るタイプの魔動機……もしかしてオリジン……?)


 女性の操者、リン・フェールラルトは考える。

 あの魔動機は千年前の"大戦"当時に作られ、現代の魔動機の始祖、原点となった強力な機体群、オリジンではないかと。

 こうして、アレクとアークブレードの果てしない戦いは始まった。

 その先に何があるかなど、当時のアレクには知る由もない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る