第1話「伝説の続き」中篇

 

「お前たち!ツバークの方でゼイオンの魔動機が暴れているらしい!早く逃げるんだ!」


 教師が教室にいるアレクとリックに慌てて声を掛けた。

 教師も戦闘に巻き込まれた経験など無いからか、ひどく動揺している。

 魔動機とは魔力で動く人型兵器であり、エレシスタとゼイオンの主力兵器であった。

 二人は教師の後を小走りでついていき、階段を降り出口へと向かっていく。

 廊下で何人もの生徒と会い、同じ方向へと向かい逃げていたが、誰も彼もが冷静さを失っていた。

 男子生徒は苛立ち、女子生徒は泣き始め、戦いに巻き込まれる恐怖に苦しんでいる。

 アレクは何か一言でも声を掛けて落ち着かせることが出来たらと考えていたが、今この状況で落ち着かせるような事を言える自信がなかった。

 教師の後ろを付いてきたアレクとリックと数名の生徒は出口を出て、校庭に向かった。校庭にはすでに教師の指示で数十人の生徒と教師が集まっていたが、明らかに生徒の殆どが集まっているような人数には見えない。

 まだ何人か校舎に残っており、逃げ遅れている。誰もがその事に気付いた。


「俺、逃げ遅れてる人たちを探しに来ます!」

「おい、アレク!一人じゃマズイ!」

「わかった。それじゃあ、先生も一緒に行こう。リックくんはここに残っててくれ。」


 アレクと教師は校舎に向け再び向かっていく。


「気をつけろよー!」


 リックの声を聞き振り向いた瞬間、何かが飛んでくるのが見えた。

 それは人が持てないほどの大きさの大きな棍棒であった。

 棍棒は土埃を上げて地面に激突し、校庭にいた生徒が落下する棍棒に下敷きになる。

 さらにその衝撃で校庭にいた生徒と教師、そしてリックが宙に舞った。

 リックの身体は地面に落ち、指一つ動かない。


「リック!!」

「待つんだアレクくん!」


 教師の忠告を無視して、アレクはリックの元へと走っていく。

 身体の疲れはあったが、そんな事を気にしている場合ではなかった。

 自分の友人が生きてるのか死んでいるのかそれすらも分からない状況なのだ。

 リックの元へと来たアレクは見るだけで痛く感じる右腕を握る。


「おい!!リック!!しっかりしろよ!!」


 その声に応えるようにリックがなんとか目を開ける。


「わりぃ、アレク……おれはもうだめだ……」

「何に言ってんだよリック!!死ぬな!!死ぬんじゃねぇ!!」


 わがままを言う子供のように、アレクは涙を流しながら叫ぶ。

 命が尽きようとしている事はアレクでも分かっている。

 それでも、このままなんとか生き残るという可能性を捨てきれずにいた。

 後悔したくない、その一心でひたすらに、必死に、叫ぶ。


「おれはだめかもしれねぇけど、おまえならだれかたすけられるぜ……アレ……ク……」


 糸の切れた操り人形のように、リックの身体から力が抜けていくのをアレクは感じる。

 さっきまで談笑していた友人が今、目の前で息を引き取った。

 アレクの脳裏に両親が目の前で死ぬ所を見た記憶が浮かぶ。

 後悔しない為に手を伸ばし、最善を尽くしたつもりだった。

 だが、それでも友人一人も助ける事が出来なかった。


「うわぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 アレクは自身の無力さに嘆き、叫ぶ。結局自分自身が出来る事は大した事がないのか。

 ショックのあまり、その場に座り込んでいると、ドシンドシンと大きな音が段々と近づいてくるのに気付く。

 ゼイオンの量産主力魔動機、ゴブルであった。緑色をした二体のゴブルがこちらに近づいてくる。一機は武器を持っていなかったが、もう一機は棍棒を右手に持っていた。


「へへへっ、見ろよ!俺の投げた棍棒に何人か当たったぜ!」

「ざまぁねぇぜ、エレシスタ人!」


 拡声機能で校庭にアレクにも、ゴブルの操者二人の笑い声が聞こえる。

 もしかしてわざと聞こえるようにしているのかと邪推した。

 何故こんな奴らにリックや他の生徒が殺されなきゃならない。

 彼らが何をしたというのだろうか。

 アレクは二体の魔動機に怒り、憎んだ。

 力が、力があればリックの仇が取れる。

 力を渇望した。

 リックの仇が取れるような力を。

 今、この状況を変えれる程の力を。


「おっまだ生き残りがいるみてぇだなぁ?」

「今からお前もあの世に送ってやるよぉ!」

「アレクくん!早く逃げるんだ!」


 教師の声が聞こえる。

 力を欲しても、今この状況はどうにもならず、逃げる他なかった。

 リックを殺したような奴らから怯えて逃げるのか。

 怯え、屈して、負けを認め、弱さも認め、惨めに逃げるのか。

 アレクはそんな事が許せなかった。

 ここで逃げるのが最善であり、最も後悔しない選択だというのはアレク自身が分かっている。

 それでも、今の自分がその選択に納得がいかなかった。

 思う所はあるが決心し、立ち上がったその瞬間、校庭の地面が青白く光る。

 何故地面が光っているのか。

 そもそも、"何が"光っているのか、アレクは見当もつかなかった。

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