第30話「夜の闇」


 太陽が沈んだ、闇の世界。

 古来より人は夜を恐れ、心理的にも人は夜になると不安定になると言われる。

 魔術や魔動機が誕生するよりもずっと昔。人々が争い、奪い合い始めた古代から、夜襲という戦法は存在していた。

 視界が優れない夜で敵に狙われ、襲われる恐怖。それは想像に難しくない。夜は奇襲に最適な時間帯とも言える。


「ヤツらは機械、だが夜に攻撃されれば……!各機、行くぞ!」


 だから今、指揮官の命令のもと、エレシスタ軍はガーディアンズに占拠されたミュードを取り戻さんと、夜襲を仕掛ける。

 このまま彼らの好きにはさせない。一刻も早くミュードを解放させなければ。

 そんな焦りが、今回の作戦を行う要因となっていた。

 エレシスタ軍とガーディアンズの夜戦が始まる。

 ガーディアンズといえども、夜に攻撃されれば隙が生まれるだろう。エレシスタ軍人の殆どはそう考えた。

 しかし、機械であるガーディアンズに昼も夜も関係がなかった。

 彼らは、「もしも夜に攻撃されたら」という状況を想定した戦術というプログラムを身に付けており、人のように夜闇に怯え恐怖する事なく、ただ戦うだけだからだ。

 夜襲を仕掛けてきたエレシスタ軍を、ガーディアンズは落ち着いて対処する。

 エルクのヴォルフブレードが、ルークが、ポーンがエレシスタ軍のナイトを撃破していく。


「敵は一機だ!三機で攻撃すれば!」


 隊長機である重装甲のヘビーナイトが指示を出し、部下である二機のナイトと共にヴォルフブレードに立ち向かう。

 まずは一機のナイトが剣を振りかざすが、ヴォルフブレードの攻撃の方が速く、逆手で持った剣が胴体を切り裂く。

 そして次はもう一機のナイトを標的に定め、襲いかかる。

 目の前で仲間を殺した敵に恐怖し、ナイトは立ち尽くしたままヴォルフブレードの餌食となった。


「うわあああッ!」


 最後に残された隊長であるヘビーナイトの操者は恐怖を含みながら叫び、両手で剣を持って突き進む。

 怯えている敵など、エルクの相手ではなかった。

 エルクはヴォルフブレードを動かさず、限界までヘビーナイトを引きつける。

 今だ。間合いに入ったヘビーナイトの両手を切り落とす。

 両手とその手に握られた剣は宙を舞う。

 ただえさえ、ヴォルフブレードを前に恐怖していたヘビーナイトの操者はさらに戦意を削がれる事となる。

 もう、敵は無力だ。

 このまま見逃してやってもいいかもしれない。

 しかし、今のエルクはガーディアンズの一員。

 争いのない世界を作るために、歯向かう人間は全員殺すしかない。

 エルクは与えられた命令に従い、腹にあるヘビーナイトの操縦席に剣を突き刺す。

 この状況で操者が生きている可能性など無に等しい。

 エルクの勝利は揺るぎなかった。


***


 夜襲は失敗し、またしてもエレシスタ軍の敗北という形で戦いは終わった。

 大破したナイトから炎が上がり、夜の明かりとなっている。


「所詮は人間、この結果も必然だな」


 ナイトの残骸を見て、ルークは勝ち誇る。

 ラルク達に負けた事など、都合よく綺麗に忘れたような発言であった。


「フン、そんな事を言ってるとまたやられるぞ、その人間にな」


 エルクはいやみったらしく、ルークに言う。

 ガーディアンズの仲間をしているが、エルク・レグリスは人間だ。

 所詮は人間だと、馬鹿にする発言をされるのを見過ごせなかった。


「ほう、貴様は人間共の肩を持つのか?」


 ルークも、いやみったらしくエルクに尋ねる。

 自分に不完全という烙印を押した人間を嫌うルークは、同じ人間であるエルクに不信感を抱いていた。

 しかし、ヴォルフブレードとエルクを実戦投入したのはキングの判断によるもの。

 王であるキングは絶対だ。

 キングの意に従い、ルークは不本意ながらエルクと共に戦っている。

 だから、ガーディアンズの毒となるのであれば、すぐにもキングに突きだそうとルークは考えていた。


「そうじゃない。人間は窮地に追い込まれた時にこそ限界を超えた力を出す。だから、油断をすればまたやられるぞ?」


 ああ、やはりコイツは、人間は気に食わん。

 何故キングとクイーンは彼を仲間に引き入れたのだ?

 彼しか操れないヴォルフブレードは強力な魔動機だ。

 だが、それだけの為に人間という不確定で、不安定な要素をガーディアンズに組み込むのか?

 ルークもキングに絶対的な忠誠を誓っている。

 しかし、エルクについてはやはり納得できない。

 一刻も早く、エルクはガーディアンズの利益になる存在ではない。

 寧ろ、害となる存在なのだと証明し、キングに突き出したくて仕方なかった。


(俺の弟だと言うのならば、這い上がってこいラルク……その程度だというなら、俺はお前を……)


 ガーディアンズ仲間となり、こちら側に付くというのならばそれもいいだろう。

 だが、敵となるなら容赦せず、また半端は許せない。

 人間の為に戦うというのであれば、全力で自分に掛かってこい。

 ガーディアンズのエルクではなく、兄エルク・レグリスとしてそうあって欲しいと考えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る