9話「初クエスト」

 突然の声の方に振り向くと、流れるように綺麗な金髪。

 透明感のある艶やかな肌。

 ピンと左右に伸びきった耳。

 アリスとはまた違った魅力にあふれた少女が立っていた。


「え? ほんとにいいの? って……もしかしてエルフ?」

「ああ、あたしか。エルフだぞ。それが何か問題でもあるのか?」

「あ、いえいえ。ありがたくお借りします」


 俺とアリスが礼を言うと去って行った。

 その後ろ姿には見覚えのあるような剣が背負われていた。


「あら、よかったわね。リシュアちゃんはS級ランクの冒険者さんで、エレメンタルマスターなのよ」

「それって精霊とか召喚すんの?」

「ハジメは、ほんとに物知りだね」


 突如、冒険者ギルドの姉さんが顔をしかめる。


「昨日からリシュアちゃん。体調が優れないみたいで、お姉さんもちょっと心配してるのよ。何か力になれることがあったら協力してあげてね」

 

 冒険者ギルドでのクエスト依頼はいろいろある。

 近郊でさくっとやれそうな魔物退治を複数受ける。


「あらあら、こんなに沢山同時に受けて平気なの? 日時まで達成できなかったらペナルティもあるのよ」

「平気ですよ。こう見えても俺達、魔王を倒したんですから!」

「ハ、ハジメ!」


 あ、そうだった……。

 誰も知らないんだった。


「まあいいわ! やってごらんなさい!」




 ◇◇◇




 チュードオォォォオオオオオオオオオン!!!

 緑豊かな草原が爆炎に飲み込まれ焦土と化す。

 

「ガンガンいくぞっ! 狩って! 狩って! 狩りまくりだあああ!」


 チュードオォォォンゴゴゴゴゴゴゴゴーン!!!!


「アリスっ! そこの魔結晶、拾い忘れてるぞ!」


 俺とアリスは冒険者ギルドにて、魔物討伐依頼を受けた。

 そして只今火力にものを言わせ、乱獲中である。

 この世界の魔物は倒すと、基本的に魔力を帯びた結晶となる。

 その結晶は冒険者ギルドで換金することもできれば、魔道具などの作成の材料にもなるそうだ。

 俺が爆裂魔法をぶっ放し、アリスが地面に落ちる魔結晶を拾うという、単純作業を繰り返している。


「我が身に宿りし灼熱の赤き竜よ! 楔を解き放ち我が命ずる! きたりて咆哮、究極爆裂魔法アルティメットエクスプロージョン!!!」


 ゴブリン討伐依頼×15    完了!

 コボルト討伐依頼×15    完了!

 オーク討伐依頼×15     完了!


 おっし! 後はキラーラビットで終了だな。

 冒険者ギルドで発行して貰った銀色のプレートに、完了という文字が刻まれていく。

 まさに最強じゃん!

 これだけの高火力の魔法を連発すれば、MPがいずれ底をつくのが常識だが、まったくもってMPなど意識していない。

 連発してるにも関わらず、精神的な疲れを一切感じないからだ。

 

「まだまだ100発でも200発でも余裕でイケそうだぜ!」

「アリスはもうクタクタだよぉ~」


 桜色髪の美少女が頬を膨らまし、不満の声をあげる。

 

「なんだよ、もう疲れたのか? アリスは魔結晶を拾ってるだけじゃないか」

「違うんだってっ! ハジメが魔法使うとアリスの魔力が減るんだよー! そもそもハジメには魔力なんて、全然ないんだから!」

「なぁーに、訳わかんねーこと言ってんだよ。現にこうして魔法バンバン、撃ちまくってるだろ?」

「もう、だから違うんだって!」


 スライムに恐れをなした俺だったが、これこそが異世界トリップ。

 俺TUEEEEの極みだと実感していた。

  

「うげ! 何が起きた? 急に魔法が撃てなくなったぞ!」


 調子に乗ってた俺は単独で、キラーラビットの群れに飛び込んでいた。

 キラーラビットは大型犬ぐらいのサイズで、モフモフした白い体毛に兎のように長い耳。

 一見すると可愛げな魔物だが、その見た目とは裏腹に鋭い前歯で人を襲う、獰猛な魔物なのである。

 

「ひぇえぇええええええええええええええ!!!」


 逃げる俺に研ぎ澄ました前歯を光らせ、数匹のキラーラビットが容赦なく襲いかかる。


「あんなんで、かじられたら軽く死ねる! アリスっ! や、ヤバい…………死ぬぅううう!!! へるぷみー!」


 ぐっと覚悟を決めた瞬間、詠唱済みの魔法が放たれた。

 周囲は爆炎に飲み込まれ、俺も自らの爆裂魔法の爆風で吹っ飛んだ。


「……あ、あれ? なんでだ? 急に魔法が使えたぞ?」


 唖然としてる俺に、アリスがすかさず回復魔法を詠唱した。


「慈愛満ちたる聖なる福音よ……光となり生命の息吹なり…… 究極回復魔法アルティメットホーリネス!!!」

「た、助かった……」

「んっもう! なにやってるの! ハジメはアリスから離れたらスライムにも勝てない、ザコキャラなんだよ! 離れすぎると魔力の供給ができないんだから!」


 ――――え、何? 供給って?

 

「ほーんと無鉄砲でバカなんだからっ!」


 プイッとアリスはそっぽを向く。

 

「んだとぉ! この100歳越えのクソババァ!」

「あー、ひどいなっ! クソババァだなんて、アリスは100歳なんて超えてないんだよ! 実際は一万二千年と16歳なんだっ!」

「それって途方もなく、超越してるじゃねぇか!」

「うるさい! うるさい! だいたいハジメが魔王封印したって話。ぜーんぶゲームの妄想だったんじゃないかー! 騙されたアリスもバカだけど、実際はただのヒキニート。プププだよ」


 ヒキニートって言われたぞ!

 くっそ、ユイのやつ……好き放題言いやがったな。


「なんだよ! アリスだって全世界に黒歴史を垂れ流し、死ぬ思いまでして倒した魔王退治が全部チャラじゃないか! 誰の為にこんなクエストこなしてると思ってんだ!」

「うううっ……もう知らない知らない。ハジメのバカァァァァァァ!」


 アリスはその場にへばると泣きだした。

 あちゃーやってもうた。


「うう、俺が悪かった……アリスの信者が増えるまで頑張るからそう泣くなよ? ……って、お、おま! なに指の隙間からチラチラみてんだよ!」

「約束だよ」


 見事に一本食わされた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る