第30話 好きになる

「じゃあ着替えてくるから待ってて!」

 と私にタオルを投げて来る拓海。タオルを受け取るとフワッと拓海の匂いがする。

「樹里! もういいねえ!」

 果歩よくないよ。どんどんと拓海に惹かれて行く自分がわかる……よくないよ。

「果歩なんてずっと変わらないじゃない!」

 ずっと見てきた。羨ましい目で。今も変わらない。果歩達とは違う、この関係は作り物だから。惹かれて行く自分を止められないバカな私。



 私の予想通りにそのままカラオケに行って晩御飯も食べて帰る事になった。お母さんから先にお金もらっておいて良かった、晩ご飯代。次はカラオケってバスケあれだけしといてみんな元気だな。着替えて来たらなんかみんなスッキリした顔して出てきてたし。そして、またカラオケで熱唱できる。どんな日々を送ったらその体力がつくんだろう。そして、拓海も。

 元気いっぱいのバスケ部に動いてない女子チーム。果歩と私だけがバスケを観ていた女子ではない。他のバスケ部の彼女連れはあと三人いる。みんなで盛り上がって、時間とお金が大丈夫なメンバーで夕食へと向かう。女子チームは時間の都合が難しく果歩と私以外は彼氏を連れて帰って行った。

 果歩は私をダシに時間を確保してる。その間に私も親に言い訳するフリをしといた。って! あの日に拓海と母に怒られたのはなんだったの? 母め自分の都合で怒ったりするな! 全く……まあこういう時間が持てるのも拓海がいるからなんだけど。だけど、普通は逆だよね。男の子といる方が心配だってなるのに。まあ、私達の場合は家で拓海と二人きりとどっちがって話になるんだけど。

 バスケにカラオケ、また普段と違う拓海を見て胸のトキメキがとまらない。ああ、もう知らないよ。無理だよ。止められない。このまま夏休みになったら私どうなるんだろう。


 ***


 次の日、前の日の疲れからやっぱり寝坊をする私を起こす拓海。拓海は私をどうやって起こしてるのかな? なぜこのタイミングで目覚めるんだろうか。

 学校では一通りの終業式の行事が終わった。果歩ともしばらくお別れ。どうやら毎日の部活時間を果歩の為に空けてくれてるらしく、音符どころかハートが私に突き刺さりかねない勢いで報告された。

「樹里は安田君いるもんねえ!」

 嬉しそうに言ってる。いなかったら気を使ってたのか? だろうな……。去年までそうだったもんな。

 拓海はいるよ。そうずっといる……んだろうか?

 終業式が終わり拓海と帰って来て家について自分の部屋に入り考える。拓海……なぜか夏休みを楽しみにしてる。もしかして夏休みの間に引き取る人がいるの? そういう話が出ているんだろうか……夏休み……。


 ***


 そんな私の不安をよそに受験勉強だと私の部屋に乱入する拓海や、朝も夏休みなんで気の抜けた私を相変わらず近距離な起こし方をする拓海。というか、起こされてるのかな? 目覚めると目の前にいるんだけど。

 指の傷もずいぶんよくなったので、ご飯はそろそろ作れるようになったけど、拓海は交代でご飯を作ってくれる。優しい拓海や、乱入する拓海や、至近距離な拓海。そんな拓海を見て私の想いは膨らみ続ける。それに歯止めをかけようとする私。必死で抵抗してるけど……無理だよ。こんなのズルい。好きになるよ。でも、やたらと何かを楽しみにしてる拓海……それを聞きたいのに聞くに聞けない私……。

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