第27話 欲が出てくる

 お昼休み。

 ああ、さみしいなあ。これだけで心が沈む。防水のテープは私が学校に持ってきた。そろそろ貼り直しするかと思ってテープを出していると、

「お! 安田君が来てるよ!」

「え?」

 てっきりもうこの時間には来ないのかと思ってた。

「樹里! 張り替えるぞ!」

 ああ、持って来いってことね。この防水のテープ!


「自分で貼れるよ!」

「無理だろ?」

 拓海、勝手に決めつけるな。でも、来てくれてる……う、嬉しい。やっぱり出来ないことにしておこう。

「うーん」

「ほら行くぞ!」

 え? どこに? ここでも貼り替えくらいは出来るよ。


 ここですか。好きだねココ。確かに涼しいし、先生に説教されないんだけど……今テープを貼り直してもらってるんだけど…家で二人でいる時にされるより……恥ずかしい。なんでだろう。二人きりの方が落ち着ける? ドキドキは家の方が、二人きりで家にいる方が……んー? 一緒?

 毎日ほとんどの時間を一緒にいるのにコロコロ変わるからだろうか、いろんな表情の拓海を見てはドキドキしてる私がいる。それが日常になってるのに、ドキドキは止まらない。

 通り過ぎてく生徒達が最初の頃より気にならないのは気のせい? そしてイチャイチャしてる両隣とさして変わらないような気がしてくるよ。拓海が真剣な眼差しで貼ってくれてる。全面的にテープなんで難しいみたい。やっぱり一人じゃ貼れないかな? やっぱり自分で貼れないんだと自分に言い訳を作ってる。


 *


 そうして過ぎてく拓海との二人の時間。増えれば増えるほど苦しくなるんじゃないかって怯えながらも、この時を楽しんでいる。拓海に好きと言えないまま、さよなら言う時をイメージし続ける。その時がいつ来てもいいように。離れてしまってもちゃんと立っていられるように。


 ***


 あの日から毎日ココにいる。傷のテープを貼り替えもらってなにやらダラダラっと話をしている。そういえば……。

「ココに一週間いるね」

 早いなあ、もうそんなに経つんだ。

「え? あ、ああ。」

 なんで一瞬、拓海は驚いたんだろう。

 今日は金曜日そして、月曜日は……。

「月曜日は終業式だね。そしたら夏休みがはじまるね」

「ああ!」

 なんでかすっごい嬉しそうな拓海がいるこの通路にあるベンチ。来週から夏休みなのにまだ涼しい。不思議な場所。冬って地獄? なんて話で盛り上がってる。相変わらずの私達。夏休みは学校が家になるだけだよね。

 ……付き合ってるフリなんだから休みに出かけることはないんだよね。あの日は吉田君からの誘いだったんだし……。


 ***


 土曜日の朝にはもう完全に油断していた。目覚めたら至近距離にいる拓海。あの今日は休みだけど……あ、朝ごはんか。

「おはよう」

「おはよ。ごめん。着替えてすぐに食べるから」

「樹里! これ! 見に行こう!」

 携帯画面を見せつける。そこには映画のポスターっぽいのが、洋画……まあいいか。デートみたい……デートだ!!

「うん。でも先にご飯」


 この前買った服を着ている拓海。なんか私でエンジョイしてる? なんで?


 映画を観てお昼を食べて映画の話で盛り上がる。そして、またぶらぶらと歩いてる。わー、本当にデートだよ。

 疲れたらお茶して、ああ、どうしようこんなことしたことなかった。これが全てニセモノだなんて嫌だよ。欲が出てくる。ドンドンと私から溢れ出てくる。

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