第6話 失恋話をする

 家に帰って買って来た食材を冷蔵庫しまうのも作る人にまかせて、私は自分の部屋に入る。

 はあー。どうしよう。あの時、家で話をすると言ってしまった。そして、家に帰って来ちゃった。どう話すの、私? 私の恋だった……だけど一方通行だったのか、なんなのかわからない私の恋の話……。


 コンコン


 拓海君はもう痺れを切らしたか。早いな、来るのが。

「待って! 今、着替えてるの」

 心の準備が出来ていない。思わず嘘が口から出ていた。悩んでいてまだ制服のままなのに。

「ああ、わかった。じゃあ、着替えたら部屋に来て」

「うん」

 ええ! あの部屋で彼の話をするの? 着替えてるなんて嘘ついて、時間を稼いだバツだね。


 急いで着替えて彼の、拓海君の部屋に行く。すぐ隣の部屋。ノックするの久しぶりだなこのドアを。


 コンコン


「どうぞ」

 ドアを開ける。拓海君はベットに腰掛けている。あの日の彼、類のように。なんとなく私はその横に座る。そう、あの日の私のように。

「で、あの時に話せない程の理由って何?」

「この部屋」

「は?」

「この部屋に二年前までいた人が原因」

「二年前って……俺の前にこの部屋にいたっていう大学生で……一年以上いたっていう?」

 拓海君、よく覚えてるな。

「そう、来た時には私は中学生で彼は大学生だった。でも一年たって、私が高校生になったけど、彼は大学生のまま。なんか近づけた気がした。でも、彼は自立のメドがたって、ここを去る事になったの。そう聞いて私は焦った。で、ここにこうやって、並んで座って、告白したの」

 類に好きだと言った。離れたくないと。ここにいて欲しいんだと、泣いて頼んだ。抱きつきもした。でも、彼は、類は去って行った。

「で?」

 で? って、この先も話すの? わかってよ!! それから私は恋してないのに。彼氏がいない理由なのにわかってよ。

「で、彼は私を拒否はしなかった……二週間は。二週間後にこの部屋を、この家を去ってった」

 同情だったんだろうか。拒否する態度はなかった。だけど、それもこの部屋にいる間だけだった。

「出て行った後も連絡とってたんだろ?」

「私の一方通行でね。それだって、いつも忙しいって言われて終わり。折り返しの電話もメールの返信もない。だから……」

 ああ、終わっとけば良かったそこで。気づけと、今の私なら思う。自分で話をしてて。

「だから?」

 拓海君はこの話にどこまでも食いつくな。こんな話を聞いてどうするつもりなの? 人の傷口ほじくり返して。

「だから、夜まで彼の家の前で帰ってくるの待ってた。そしたら、帰って来た。女の子と」

 そう。私と一緒にいた時、この部屋にいた時にも、類には彼女がいたんだろうか? いろいろ考えて苦しんだ。苦しんだ自分を思い返して、また苦しんでをずっと繰り返してる。だから、ずっと、その時から恋ができないでいる。

「で? そいつに聞いたの?」

 そんなに私が図太い神経を持ってるように見えるのかな?

「何にも、何にも聞かずにその場から走って逃げた」

「そいつから連絡は?」

「全くなかったよ。全くね。一言の言い訳も何もなかった」

 そう私を引き止めておきたい理由が、類にはなかったんだ。ただの一言も。

「ふーん」

 はあー。こんな話をふーん。で流す?

「今、彼は大学生?」

 何の確認?

「そう四回生だけど……それが何か?」

「いや。ふーん」

 また、ふーん、って。

「もういいでしょ。じゃあ。宿題するし」

「ああ」


 *


 なんだったのよ。人の傷口ほじくり返して。私は拓海の傷口ほじくり返さないようにって、気をつけてるのに!!

 宿題に全く身が入らないよ。ダメージが大きいよ。ただでさえ拓海が来ていろいろと思い出して苦しかったのに。なんとか無理矢理、宿題を終わらせた。いつもより時間かかったのかな?


 コンコン


「飯だよ」

「わかった。すぐに行くよ」

 もうご飯の時間なの? と、時計を見ると早いよ。昨日よりもずっと。拓海君は早くに宿題終わったのか。私とは違って。


 *


 食事が終わった。拓海君、やっぱり日常的にご飯を自分で作ってたな。美味しかった。でも、聞けない……いくら自分の傷口ほじくり返されても、傷の度合いが違うだろうから。

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