5.可憐

 学校内に緑が多いことを自慢の一つとしている星颯学園に、耳を塞ぎたくなるほどに蝉の大合唱が響き渡る季節がやってきた。

『HEAVEN準備室』の周りだって、もちろんその例外ではない。

 暑い夏は、もうすぐそこまで近づいていた。

 

 私が渉とサヨナラしてからは一ヶ月。

『HEAVEN』の一員として、生徒会選挙に向かって動き始めてからは、三週間。

 放課後、『HEAVEN準備室』に通うのだって、すっかり習慣になった。

 

 ひとしきりみんなで話しあったり、今後の活動について取り決めしたりしたら、帰りはその日来ている同じ方向の仲間と一緒に帰る。

 私は帰り道、可憐さんと諒と一緒になることが多かった。

 

 可憐さんは初めて会った時こそ、メイクの濃さとフェロモン全開の雰囲気に正直引いてしまったが、よく話してみると私とよく気があった。

 好きな映画。

 好きな歌手。

 好きな本と二人で盛り上がり、準備室ではよく諒に怒鳴られてばかりいる。

 

「お前たちが揃ってると、全然仕事が進まない!」

 でも可憐さんがしゅんとした顔になって、綺麗な顔を少し曇らせて謝ると、諒はあっさりと引いてしまうのだ。

 

「ごめんなさいねぇ……」

「まあ、別にいいけど……」

 

 私に対する時とはあまりにも違いすぎるその態度に、なんだか引っかかるものを感じた。

(なんだろう……この反応……?)

 

 私はあまりその手のカンがいいほうではない。

 そう自負しているのだが、なんだか今回ばかりは閃いたような気がする。

 

(諒って、ひょっとして可憐さんのことを……?)

 そう思うと、まるで鬼の首でも取ったみたいで、私はひどく嬉しくなった。

 

(ふふふっ……いいこと知っちゃったわ……!)

 つまらないとばかり思っていた高校生活一年三ヶ月目にして、初めて手に入れた面白すぎるネタだった。

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