第30話

刑務所の重い扉が開き、中から鷹田が出てきた。鷹田は振り返り、扉がしまる前に、扉の中に深々と頭を下げた。中にいる刑務官も、鷹田にならって会釈し、扉を閉めた。

あの事件から、もう2年。今日で、鷹田の社会的贖罪が終わった。

裁判で鷹田は、『懲役1年、執行猶予2年』と、鷹田が思っていたよりも軽微な判決を受けた。

国選弁護士はやる気の無い人ばかりだから、二百円の品物の万引きでも数年の懲役を受ける事になる。そんな話を鷹田は、以前誰かから聞いていたので、懲役5年ぐらいの実刑を覚悟していたが、鷹田の担当になった弁護士は、鷹田が思っていたよりもしっかり弁護をしてくれたおかげで軽い懲罰になった。こうして鷹田は日常に戻った。判決を受けた後、鷹田は事件を担当した雁刑事の紹介で、町工場の工員として就職が決めた。

それから2年間は、何も起こらず何も起こさずに過ごしてきた。人付き合いは苦手だったが、それなりにコミュニケーションを取って、適度の距離感を作り保った。世間には、相変わらず斜に構えていたが、それを周囲に悟らせないように過ごした。こうして鷹田は、日々の時間を凪の如く経過させた。そして2年近くたった頃、鷹田のもとに一通の手紙が届いた。封筒には、差出人の名前の代わりのように、『検閲済』の文字が押されてたので、すぐ誰からか判った。


あの事件の関係者で、無罪になった郭公、執行猶予が付いた鷹田と鵜兎沼を除けば、その他の人は、大なり小なり実刑判決を受けた。

一番重い判決を下されたのは鶏冠井で、懲役5年。強盗未遂に加えて、長年行った横領がそう判決させた。鶏冠井は、すぐに控訴したが棄却され、あっさり収監された。

その次に重い判決を下されたのは雛形で、懲役2年6ヶ月。振り込め詐欺の罪が加えられて、そうなった。しかし彼の場合は、控訴が認められて、現在も係争中であった為、その身柄は拘置所にあった。

その次が鳳支店長で、懲役1年。彼は、人に向けて発砲しようとしたのが裁判官の心情を悪くしたようで、強盗事件での罪は鷹田と同じだが、執行猶予はつかなかった。そして刑期中に彼は、己の人生に絶望した内容の遺書を残し、首吊り自殺した。

逆に、あの事件で一番軽い判決を下されたのが郭公の条件付きの無罪で、郭公に、保護観察がつけられた。郭公も、一時とはいえ強盗を手伝った為、逮捕・起訴されたが、鷹田達強盗犯四人の証言以外に証拠が無かった事が、彼の強盗事件関与を裏付けには弱かった為、法の大原則である『疑わしきは、罰せず』に基づき、この判決となった。

次に軽い判決を下されたのが鵜兎沼で、懲役6ヶ月執行猶予1年を下された。しかし彼女は執行猶予中、両親によって家に閉じ込められ、一人で外出など中々させてもらえず、執行猶予が終えた後は、海外に移住させられる予定だった。しかし彼女は、外出先で器物を壊し、その欠片で他人を傷つけた。それも、父親の前で行った。結果、彼女の執行猶予は取り消され、元々あった懲役に器物破損と傷害罪の分が加わり、合計9ヶ月の懲役刑となって収監された。

だが、今日鷹田が刑務所に面会したのは、強盗事件から半年後、横領罪で懲役3年となった鳩山だった。

鷹田は鳩山の逮捕を知った時、すぐに真相を確認する為、自分を逮捕した雁刑事に会って話を聞いた。

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