夏季は楽園に

朔夜

夏季は楽園に

Paradise!! 小さな楽園の中で


キャスト

桃咲夏季(主人公。)女

飛坂春華(夏季の友人。)女

佐々木冬夜(楽園へ行ったことがある。)男

仲間秋乃(楽園の人間。)女

クロメ(楽園へ人間を導く)女

シロメ(クロメの邪魔をする)女

楽園の人間(秋乃を除く)×4



机と椅子に夏季、春華が座る


夏季「んーっ!(伸びをする)あー……疲れたぁ」

春華「ちょっと夏季、まだ1時間目終わったばかりじゃない」

夏季「そうなんだけどさぁ…」

春華「夏季は国立医科大学行くんでしょ?だったら勉強しなきゃダメじゃない!」

夏季「…勉強はやってるよ(うんざりしたように)」

春華「(立ち上がって)私は絶対弁護士になるんだ!だからそのための勉強なら嫌にならない!むしろ楽しいくらいだわ!」

夏季「ふーん……」

春華「夏季だって医者になりたいんでしょ?」

夏季「う、うん……」

春華「だったら勉強しなきゃ!じゃないと夢が叶えられない!」

夏季「夢、ね……」

キーンコーンカーンコーン(チャイムの音)

春華「あ!いけない!授業が始まるわ!」


幕引き

幕の前に夏季登場(この間に机、椅子を片付ける)


夏季「……別に医者になんてなりたくない。そもそもお母さんとお父さんに言われてることだし…私はそんな大層な仕事出来ない……人の命を預かるなんて……絶対出来ない。私は……なりたいものは別にあるのに…きっとお母さんとお父さんは聞いてくれない。もう……いや!」


夏季、舞台裏に戻る。幕開け

夜の公園で歩く夏季


夏季「はぁ……もう嫌だなぁ…」


夏季、舞台中央で立ち止まる


夏季「好きで勉強してるわけじゃないし……春華はどうしてあんなに楽しく勉強できるのだろう」


夏季、そのまましゃがみこむ


夏季「あーあ……いっそのこと、死んで天国に行った方が、楽だったりして……ははっ」


クロメ「(声だけで)あははっ!そんなの勿体ないよ!」


夏季「えっ!?だ、誰!?」


夏季、驚いて立ち上がる

クロメ、舞台袖から登場


クロメ「こんにちは!桃咲夏季ちゃん?」


夏季「ど、どうして私の名前を知ってるの?」


クロメ「まあそれは置いといて!」


夏季「え、ちょ、気になる!」


クロメ「死ぬなんて勿体ないよ!」


夏季「人の話聞いてる!?」


クロメ「人生まだまだこれからさ!そんなに生きたくないのかい?」


夏季「(諦めたように)…生きてても、いい事なんてないと思うけど……」


クロメ「なぜ?」


夏季「…親に言われて嫌々勉強したり、なりたくもないもの目指したり……もう、疲れたんだよ」


クロメ「(手を差し出しながら)ふーん?そっか!じゃあさ!私が連れていってあげるよ!」


夏季「連れていってあげるって……どこに?」


クロメ「楽園さ!」


夏季「楽園?それは何?」


クロメ「そのままの意味さ!楽しい場所だよ!みんなみーんな楽しい楽しいって言ってるんだ!私はそこの案内人みたいなものだよ!」


夏季「…でも、どうせそれが終わってしまったら、また私は勉強漬けの生活に戻ってしまう。そもそも私に自由な時間なんてほとんどないわ!学校に行って授業を受けて!その後は夜の9時まで塾で勉強!家に帰ったら家庭教師と日付が変わるまで勉強!楽園に行く暇なんてないわっ!」


クロメ「ありゃりゃ、相当たまってるね?でも大丈夫!楽園は今からでもすぐに行けるんだ!」


夏季「今からでも?」


クロメ「そう!それにね?夏季。楽園は、1度行ったらもう帰らなくていいんだよ!」


夏季「えっ!?」


クロメ、夏季に少しづつ近づいていく。


クロメ「…楽園は本当に楽しいところ、すべての人間が、楽しいところ。楽しすぎて帰りたがる人は1人もいない。」


夏季「……(考える素振り)」


クロメ「願った事が全部叶う。食べ物だって苦労しない。どれだけ食べても太らない。望めばずっと生きていられる。」


クロメ、舞台前へ移動。観客へ向けてセリフ


クロメ「欲しいゲームだって、発売前の漫画だって、人気アーティストのCDだって、人気ブランドの洋服だって、どんな物でも手に入る!面倒な学校にだって行かなくていい!自分だけの楽園で自分だけの時間を過ごせる!最高の楽園!(夏季の方を向いて)さあ行こうよ!私の手を取って!」


夏季、少し迷い手を取ろうとする


シロメ「(声だけで)ダメ!その手を取ってはいけないよ!」


舞台袖からシロメ登場


シロメ「夏季ちゃん、ダメだよ!その手を取ってはいけない!」


夏季「えっ!?だ、誰!?」


夏季、手を引っ込めシロメを見る

クロメ、シロメを睨みつけるように


クロメ「…随分早いね?シロメ」


シロメ「それはこっちのセリフ!夏季ちゃん!こっちに来て!ダメだよ!」


夏季「えっ?ど、どういうこと!?」


クロメ「仕方ないな、今日は一旦引こうかな?シロメ、今度は邪魔しないでよね。……夏季、楽園は夏季を待ってるよ」


クロメのスポットライトが消える。クロメ、退場


シロメ「はぁよかった!間に合った!」


夏季「あの……」


シロメ「夏季ちゃん!大丈夫だった?」


夏季「だ、大丈夫だけど……どういう事だかわからないんだけど!楽園って何!?てかそもそもクロメって何者!?あなたは誰!?」


シロメ「そ、そんな一気に質問しないで?私はシロメ。夏季ちゃんを助けに来たんだよ」


夏季「私を……?」


シロメ「うん、楽園はクロメが言っていた通り楽しいところ。どんな願いでも叶ってしまう楽しいところ。クロメは人間をそこへ連れていこうとしている。」


夏季「どうして?クロメはどうして楽園へ人間を連れていくの?」


シロメ「クロメは人間を幸せにしたいって言っていたけど……それは嘘。」


夏季「嘘?」


シロメ「えぇ、クロメは人間が嫌いだから。楽園はクロメが作った庭よ。クロメの庭。そこに人間を引き込んでいる。そして、クロメに引き込まれて帰ってきた人間は……誰もいないわ」


夏季「そうなんだ……」


シロメ「だから夏季ちゃんも、クロメに着いて行っちゃダメだよ!」


夏季「え、あ、うん……」


シロメ「ありがとう……夏季ちゃん、そろそろ帰った方がいいよ。きっと心配してる。またね」


シロメと夏季のスポットライトが消える。二人退場


幕引き


幕の前に夏季登場。

(その間に机、椅子準備)


夏季「あーびっくりした。いきなり出てくるんだもん。クロメとかシロメとか……でもわかんないな。楽園は人間を幸せにしてくれるところなんでしょ?どんな願いでも叶えてくれて、楽しい事しかなくて……じゃあどうして行ってはいけないんだろう。いけない!授業が始まる!」


舞台裏へ走り去る。

幕開け

机に座る夏季と春華と冬夜


夏季「はぁ……」


春華「どうしたの?夏希!ため息なんかついちゃって」


夏季「いやちょっとね?あはは(棒読み)」


春華「ふーん、なんか悩みがあったらいいなよね!友達なんだから!」


夏季「ありがとう……ねえ春華」


春華「なあに?夏季」


夏季「…もしさ、もしもだよ?」


春華「う、うん」


夏季「もしも、どんな願いでも叶えてくれて、ずっと幸せに生きられる場所があったら……どうする?」


春華「え?なんでも?」


夏季「うん、天国みたいな…楽園みたいな……」


冬夜、椅子を派手に倒し立つ。

夏季、春華、それに驚く


冬夜「ら、楽園!?桃咲!今楽園って言ったのか!?」


冬夜、夏季の肩を掴む


夏季「そ、そうだけど……」


冬夜「ちょっと来て!」


夏季「え、ちょっと!?」


冬夜、夏季を連れて舞台前へ


冬夜「桃咲、楽園に行くのか!?」


夏季「え!?冬夜楽園を知ってるの?!」


冬夜「俺は……楽園に行ったことがある」


夏希「えぇっ!?で、でもシロメは帰ってきた人はいないって!」


冬夜「シロメにも会ったのか……あぁ、俺は楽園を見ただけだからな」


夏季「……見た、だけ?」


冬夜「そうだ。俺は願いは一つも叶えていない。ただ見ただけだ。だから帰ってこれた。」


夏季「楽園はどんなところ?」


冬夜「…幸せそうだった。みんな、欲しいものを好きなだけ手に入れて、好きなことして、楽しそうだったよ。」


夏季「冬夜は何故帰ってきたの?幸せそうだったんでしょ?だったら残れば良かったのに……」


冬夜「俺は嫌だったんだ。楽園が」


夏季「え?何故?」


キーンコーンカーンコーン(チャイムの音)


春華「夏季ー!授業始まるよ!」


冬夜「……(黙って席へ戻る)」


夏季「あ、うん!今行く!」


幕引き

幕の前に夏季登場

(この間に机、椅子を片付ける)


夏季「冬夜はどうして楽園が嫌だったんだろう?願いも叶って楽しそうなのに。そこにいる人も幸せだったんでしょう?だったらいいじゃない!不幸な人生を送りたい人なんていない!私は……私は楽園に……行きたい」


夏季退場


幕開け

夏季、舞台袖から登場


夏季「……クロメ!クロメいるんでしょう?」


夏季、舞台を歩き回る

クロメ、舞台袖から登場


クロメ「こんばんはー!夏季!君から呼んでくれるなんて嬉しいよ」


夏季「クロメ!私、楽園に行きたい!」


クロメ「楽園に?」


夏季「そう!あなたの言う楽園に!もう散々なの!勉強も!医者になるのも!親に言われるがままに生きるのも!もうたくさんなの!だからあなたの楽園に行きたい!そこで!私の!私だけの楽園で生きてやる!」


クロメ「そうだよね!勉強だってしたくない!親に言われた進路にも進みたくない!自分の好きな事だけして生きていたいよね!わかるよ!その気持ち!(手を差し出す)」


夏季「私を……楽園に連れてって!(クロメの手を取ろうとする)」


シロメ「夏季ちゃん!」


夏季「シロメ!」


クロメ「シロメ!邪魔しないでよ!夏季は自分の意思で楽園に行きたいと言ったの!シロメは夏季の邪魔をするの!?」


シロメ「そうよ!楽園はダメ!絶対にダメ!人間は楽園なんて場所に行ってはいけないの!」


夏季「……シロメ!私は、自分の意思でクロメに楽園に連れていってもらうの!それに、どうして楽園がいけないの!?」


シロメ「人間にとって楽園は毒でしかないからよ!お願い!夏季!クロメの手を取らないで!」


夏季「毒!?そんなわけない!シロメだって言ってたじゃない!クロメに連れていかれて戻ってきた人はいないって!それは楽園が楽しい事を意味してるんじゃないの!?」


シロメ「それは……!」


夏季「みんな楽しいから戻ってこないんでしょ?それならいいじゃない!」


夏季、クロメの手を取る

夏季、クロメのスポットライトが消える。二人、退場


シロメ「夏季!……夏季いいいい!!!!!!」


シロメ、崩れ落ちる

シロメにスポットライト集中


シロメ「どうしよう、どうしよう……!これ以上クロメの犠牲者を増やしちゃいけない!私じゃ……私だけじゃ、無理だ。


シロメ、思い立ったように立ち上がり退場

スポットライトOFF

(この間に秋乃、楽園の人間登場。)


スポットライトON


秋乃、楽園の人間、楽しそうに笑う。(座ったり寝そべったりしながら)

クロメ、夏季を連れて登場


夏季「どこ……ここ」


クロメ「どこって楽園さ!君が望んだんじゃないか!」


夏季、舞台を歩き回る


夏季「凄い!ここが楽園?なんて綺麗な場所なの!わぁー!」


秋乃「(起き上がりながら)あ、君新入り?」


夏季「わっ!びっくりした……こんにちは!あなたはここの人?」


秋乃「そうよ、私は仲間秋乃よ。君は?」


夏季「私は桃咲夏季!よろしくね!」


秋乃「えぇ、よろしく。夏季は何故楽園に来たの?」


夏季「…勉強が嫌になって、ね……お母さん達も私に医者になれってうるさいから、だから」


秋乃「(夏季の言葉を遮るように)わかったわ、辛かったことを訊いてしまってごめんなさいね。でも、ここではもう苦しむこともないわ?ここは苦しいこと、悲しいことなんて一切無い。楽しい事しか無い場所よ。」


夏季「ええ!私もクロメにそれを聞いてここに来たの!」


クロメ「夏季は向こうでとても辛かったみたいだからさ!仲良くしてやってよ!秋乃も、みんなも!」


楽園の人間A「もちろんだよ、よろしくな夏季」


楽園の人間B「夏季は何がしたいんだ?」


楽園の人間C「何でもいいよ」


楽園の人間D「ここでは何でも叶うからね」


秋乃「夏季は何が欲しいの?」


夏季「え、えぇと……」


クロメ「なんでもいいんだよ、夏季。君がしたかったこと、欲しかった物、なりたかったもの、それは何?私が何でも叶えてあげる!願い事に制限は無い!好きなだけ叶えるといい!さあ!何がいい?夏季!」


夏季「(ウキウキしたように)わ、私は!カラオケに行ってみたい!いつも勉強ばかりで行けなかったから!」


クロメ「ああいいよ!欲しいものは何??」


夏季「えぇっと、あ!ゲーム!いつも学校でみんながやってて面白そうだったんだ!ゲームが欲しい!」


クロメ「いいねぇ!!じゃあ君がなりたかったものは何?」


夏季「私は!……私が、なりたい、のは……」


クロメ「どうしたんだい?夏季?遠慮なんかしなくていい、君の夢をここの皆は馬鹿にしたりしないよ?」


夏季「……私がなりたいものは」


シロメ「夏季ちゃん!」


夏季「えっ」


クロメ「し、シロメ!?なんでここに!」


シロメ「夏季ちゃん!きみが欲しいのは本当にそんなもの?」


夏季「えっ……」


クロメ「シロメ!!!!何を言ってるの!夏季はカラオケに行きたい!ゲームがしたい!自分でそう言ったの!!!夏季を疑う気!?」


シロメ「違う!!!!!夏季ちゃんは、本当にカラオケに行きたいの!?ゲームがしたいの!?」


夏季「そ、そうだよ!みんなが楽しそうだったから!私だって!みんなみたいに普通の女子高生やっていたい!」


クロメ「ほら!ほらほらほら、ほら!!!!夏季だってこう言ってるじゃん!シロメは夏季の幸せを邪魔するの!?」


シロメ「違う!!私が訊いてるのはそれじゃない!確かに夏季はカラオケに行きたいし、ゲームもしたいかもしれない!でも!……それはきっと、1人でじゃないよね?」


舞台袖から春華、冬夜登場


夏季「あっ……」


クロメ「なんで!?私はこの2人を呼んでないのに!」


春華「夏季!戻ってきて!」


冬夜「桃咲!」


夏季「なんで……なんで!?現実にいたって苦しいだけじゃない!どうして2人は……どうしてっ」


春華「…夏季、私ね、本当は弁護士なんかなりたくないんだ」


夏季「えっ?」


春華「私、小さい時から漫画家になるのが夢なの。でもお父さんが弁護士になれっていうから、私、ずっと演じてた。弁護士になるのが夢の、飛坂春華を演じてた。」


夏季「はる、か?」


春華「お父さんの期待を裏切りたくなかったからね……でも、やっぱり演じるのがきつくなってきちゃって……どうして私は夢を目指せないんだろうって、いつも考えてた。そんな時にね?夏季が聞いてきたんだよ。もしも、どんな願いでも叶えてくれて、ずっと幸せに生きられる場所があったらどうする?って」


夏季「……」


春華「そんな夢の様な場所があったら逃げたいと思ったわ。でもね、私思うんだ。」


夏季「……うん」


春華「きっとそれは、何もしなくても、欲しいものが何でも手に入って、なりたいものにもなれて……本当に天国みたいな、それこそ楽園なんだなって。だけど私は、嘘の世界で嘘の自分を評価されたくない。」


夏季「嘘の、世界?」


春華「そう。だって、こんな楽園はあっちゃいけない。そして、そこにあるもので出来た私も、本当の自分を見失った、嘘の自分。私は嫌だ。」


クロメ「……あははっ!漫画家になれるかもしれないのに?君の夢なんでしょ?」


春華「私の夢は、大人気漫画家になること。楽園は、きっとそれを叶えてくれる!でも、私は自分の力でそれを掴み取る。変な力で嘘の大人気漫画家になんて、なりたくない!!」


夏季「……そっ、か」


クロメ「な、夏季!夏季は他に何が欲しい?漫画?テレビ?あ、洋服とか?どんな物でもあげるから!永遠の命でも!どんな物でも私が叶えてあげるから!夏季!!!!」


夏季「クロメ……」


冬夜「夏季!俺の話を聞いてくれ!」


クロメ「うるさいな!!!!邪魔するな!!!なんでだ!なんでシロメはいつも邪魔ばかり!」


冬夜「夏季!俺も前にクロメに言われたんだ!そんなに辛ければ楽園に来ないかと!」


夏季「……え?」


冬夜「その時の俺は、色々ストレスが溜まってて、クロメの誘いにのってしまったんだ。シロメが止めに来てくれていたけど、俺はお構い無しにクロメの手を取った。」


秋乃「あぁ、君はあの時の男の子か」


楽園の人間A「あぁ、いたね、そういえば。何もせずにすぐに帰ってしまったけど」


楽園の人間B「変わった子だなと思っていたよ」


楽園の人間D「あんな子来たっけ?」


楽園の人間C「君はまだ来ていなかったよ」


冬夜「あぁ、俺はここで秋乃たちを見て、楽園を出ることにしたんだ」


クロメ「…冬夜、君は私も覚えている。楽園に来れたというのに願いを叶えず出ていってしまった……冬夜も邪魔をするのか」


冬夜「クロメ、夏季、俺は誰かの手によって、自分の生き方を左右されたくない。俺は、自分の意思で、生きる。夢も叶えて、未来を掴み取る。」


クロメ「夏季はその自分の意思で楽園に来て生きることを選んだんだよ?何がいけないの?」


冬夜「だって、それじゃあ」


夏季「今までと変わらない」


クロメ「夏季……?」


夏季「お父さんとお母さんに生き方を決められるのも、楽園でクロメに手を借りて生きるのも、何も変わらない!だってどちらも自分の手で実現出来てない!」


シロメ「夏季ちゃん?」


クロメ「な、何を言ってるんだい?夏季」


夏季「私の夢は、きっと叶えられない。この楽園では、必ず。」


クロメ「楽園に叶えられない願いは無い!夏季!!」


秋乃「そうよ?私達は今まですべての願いをクロメと楽園に叶えてもらえたわ?叶えられない願いなんて、ないのよ」


夏季「…私の、私がなりたいのは!……心理カウンセラー」


春華「カウンセラー……?」


夏季「私みたいに、春華みたいに、何か悩んでいる人達の助けになりたい!私みたいな、夢を諦めてしまうような子がいないように!!1人で抱えて、1人で泣かない子がいないように!!1つのことを、皆で取り組めるように!!……自分の足で、手で、未来を、夢を!掴み取れるように!!」


クロメ「夏季……」


夏季「クロメ、ごめんなさい。やっぱり楽園には行けないよ。」


クロメ「夏季、なんで?楽園は、楽しいよ?」


夏季「うん、楽園は楽しそうなところだった。でもね、きっと楽園はダメなんだ。」


クロメ「……」


夏季「人間は歩かなくちゃいけないんだ。ゴールが立ち止まってても来るようなところに、人間はいちゃいけない。そうじゃないと人間は前に進めない。鳥のように何者にも阻まれない、自由な翼があるわけでもない、獣のように強い脚力とスピードがあるわけでもない。」


クロメ「人間には、何かあるのか」


夏季「何も無い。何も無いんだよ、クロメ。人間は何かを掴む手と、地を歩く足があるだけなんだ。速く進めない人間は、立ち止まってちゃいけないんだ。ゴールまで、真っ直ぐ、可能な限り足を前に出して、進んでいくしか出来ないんだ。」


クロメ「…それで?夏季は、どうしたいの?」


夏季「楽園には、いられない」


クロメ「…そっか!しょうがない!じゃあまた別の子にしよう!秋乃!また連れてくるから!」


秋乃「…あー、クロメ、私達、楽園出るよ」


クロメ「……えっ?」


秋乃「夏季の言葉を聞いて思ったんだ。私、ここにきて、ずっと叶えてもらってて、私が本当に欲しかった物もなりたかったものも、わからなくなっちゃった」


クロメ「……」


秋乃「だから、楽園を出て、探しに行きたい。自分を、夢を!」


楽園の人間A「私も!」


楽園の人間B「私も!」


楽園の人間C「私も!」


楽園の人間D「私も!」


クロメ「………人間は変わる。これだから嫌いなんだ」


シロメ「クロメ、楽園を開けて」


クロメ「わかってるよ、うるさいな……楽園から人間全員いなくなるなんて……」


クロメ、手を観客席へかざす。


クロメ「出口はあっちだよ」


春華「夏季!」


春華、夏季に抱きつく


夏季「わっ!春華!」


春華「よかった…」


冬夜「ほんとだよ、シロメがここへ連れてきてくれてよかったよ」


夏季「うん、ごめんね、ありがとう」


シロメ「さあ戻ろう!現実へ!」


夏季「…クロメは?」


シロメ「え?」


夏季「クロメは、どうするの?」


全員、クロメを見る


クロメ「…私は、ここを壊す」


クロメ以外全員「え?」


クロメ「人間がいない楽園なんてつまらないじゃない?」


春華「……一緒には来ないの?」


クロメ「そうだけど?どうして君達と一緒に行かなきゃいけないのさ」


冬夜「そうか……」


シロメ「行こう」


シロメ、夏季、春華、冬夜、秋乃、楽園の人間退場


クロメ、舞台中央に移動


クロメ「あーあ……結構集まってたのになぁ、人間。やっぱり壊すのやめてまた人間集めようかな!うん!それがいい!そしたらまたここも賑やかになるぞ!きっとまた楽しくなる!さーて!誰にしようかなぁ!うん、今は絶望してる人間はいないみたいだね、残念残念!でもいつか現れるさ!楽園に来るような人間が!あと、あと少し待てば……あと、あと少し………いつかって、いつだろうなぁ……」


クロメ、しゃがみこむ


クロメ「2人集めるだけでも10年以上かかったしなぁ……どのくらい待てば、私は1人じゃないのかな?……私は、いつになったら、誰かと一緒に……ずっと一緒に、いられるんだろうなぁ……」


夏季、舞台袖から飛び出してくる


夏季「私がいてあげる!」


クロメ「な、夏季!?」


夏季「私がクロメと一緒にいてあげる。楽園でじゃなくて、現実世界で!!!」


クロメ「なん、で?なんで一緒にいてくれるの?」


夏季「なんでって……クロメが、泣いてたから。目の前に、自分が助けられる人がいるかもしれないのに、私はそれを見過ごせない!」


クロメ「………ははっ!馬鹿だねぇ、夏季…私は君を楽園に引きずり込もうとしたんだよ?そんな私と一緒にいるの?また引きずり込まれちゃうかもよ?」


夏季「大丈夫、私はもう負けない」


クロメ「…何その理由……人間は変わるよね……だから人間ってのは……ははっ」


クロメ、立ち上がり、夏季の手を取る


クロメ「夏季、連れて行ってよ。私を、君の創る小さな『楽園』に」


夏季「もちろん、行こうクロメ。私の楽園へ」


クロメ「ありがとう、夏季」


夏季、クロメ、退場

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夏季は楽園に 朔夜 @karuta2

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