第3話 湖に何かいる!

 静かな湖沼でバカンス!いやあ。優雅だね。ちょっと暑い(60度)と呼吸できないのが難点だね。

 バギーに乗って、10分。俺はカルデラの湖まで来ていた。


 地上に草一本生えておらず、荒涼とした大地に広大な湖が佇んでいる。 ホープには衛生がないので、湖は漣だっておらず、地球の湖と静寂さは比べ物にならない。

 地上に動く生き物を今のところ見ておらず、もちろん生物由来の虫や動物の声は一切ない。


 この広い大地に俺一人...今は生存確保のために必死になって動いているのでそれどころではないが、いざ生存可能となるとぼっちの辛さをジワジワ味わうことになるんだろう...ダメだ考えないようにしないと。

 さあて、いよいよ探査機で生命を発見していた湖だ。


 ラジコン潜水艦を湖に浮かべ、水の中へ沈めていく。湖の透明度は高温の割にはかなり透明で、赤茶けた湖の底が観察できる。

やはりいる...エビっぽい生物が赤色の藻の隙間からこちらを覗いている。

 エビっぽい生き物は大きさ2センチほどの小さな生物で、体が銀色の甲羅で覆われている。この甲羅はなんらかの金属でできているようだ。

色からして鉄かもしれない。

 鉄は錆びやすく、地球では深海に生息するある貝類以外、鉄を甲羅にもつ生物はいない。

 ホープではこんな浅瀬に、鉄っぽい甲殻をもった生物がいるとは実に興味深い。

 赤色ぽい藻もどうも鉄の成分が多く混じっているような気がする。光合成をして酸素を吐き出しているかは調査が必要。


 俺の生存には水が必要だが、酸素プラントの酸素生産量は船員全員を養えるだけの量を産出することが可能で、俺は大変遺憾なことに一人なので酸素は大量に余っていく。

 その余った酸素を科学合成につかい、水も生産しているというわけだ。もちろん宇宙船にはそういったプラントも積んでいたからこそできたことだ。


 なので、生命のいるこの湖に手を出すことなく俺は生活することが可能となっているのだ。

 実のところ、いま湖に来たところでできることは何もない。

じゃあ何で来たのかって?気分転換だよ...シルフと一応会話はできるけどAIだしなあ。


 湖の生物調査をするにはドームを増設する必要がある。隔離ドームを作成し、ドーム内の空気と湖の生物が接触しないようにする必要があるからだ。


チャポン


 不意に水のはねる音がした。ハッと湖のほうを見ると、視界に入るものはなかった。

 気のせいではないと思うんだけど、そう長く湖にいるわけにもいかないので一旦戻ることにした。


「シルフ。ドームの制作はどうなってる?」


「島田が遊んでる間に、植物ドームは完成。次のドーム建設を開始してるわよ」


「電力はどうだ?」


「あんた一人しかいないから、フル稼働させてるわよ」


 地味にトゲがあるなあこいつ。しかしシルフのおかげでたった10日で、消毒ドーム、居住ドーム、植物ドームの三つが完成している。多少トゲがあろうとも、しっかり働いてくれているので文句はいえん。


「シルフ。さっき湖の調査に行ってきたんだが、水のはねる音を聞いたんだ。ひょっとしたら大きな生物がいるかもしれない」


「バカンスだーとか浮かれて出発した割には、新しい発見してきたんだー。次のドームは生物調査ドームにしよっか?」


「そうだな。現地生物の調査も重要なことだしなあ。今のところ陸上では生き物を見かけていないから安全ではあるけれど、絶対ではないしなあ」


 一応湖にも観測レンズを何台か設置してきているので、何か出れば分かることだろう。


 昼から俺は、風呂の制作に勤しんでいる。もう10日も風呂に入っていないので、風呂に入りながら一杯といきたいところだが、残念ながらビールは飲料リストにはない。

 風呂を作ってくれとシルフに頼みはしたんだが、娯楽は後回しとあっさりと要望が突き返されたのだ。


 カーボンをつなぎ合わせどうにか風呂になる容器を作成でき、あとは水を引き込むだけだ!


 その夜、湖の映像を魚に風呂に入っていると、驚く光景が見て取れた。

湖から緑色の光が舞い上がり、ゆらゆらと光が揺れている。虫なのか甲殻類なのか、どんな生物がこれを行っているのかは不明だが、この淡い緑色の光は蛍を連想させる。

 地球の幻想的な風景に似た光景を見ることで、心は癒されたものの、急激に郷愁が胸を覆う。

あー、ほんとに俺...未踏の惑星に一人ぼっちなんだなあとシミジミ感じる。


 その日は、そんな気持ちをアルコールで誤魔化したかったけど、アルコールが無いためそれもできず、簡易ベットに寝ころがりふて寝した。


 この日から10日ほどは穏やかな日が続いたのだが、10日後、俺の生活は急展開を見せる。

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