第12話 『無敵? 最弱?』

 なんとか村までは行かせてもらえるまでこぎつけた阿須波コンビはゲンナ、トライル含め四人で雑談をしながら村へ向かっていた。


 「―――でね~その時ゲンナがー…―――」

 「なにそれゲン君凄いね! トラちゃんも大丈夫だったの?」

 「ゲン…ホントに大丈夫なのか?」

 「大丈夫に決まってんだろ! 人間みたいに弱くねーからな」

 「もうゲンナったら…すぐそういう事言うー…」


 雑談をし続けている間に随分親しくなったらしく、神生に至っては『ゲン君』、『トラちゃん』、霊彦は『ゲン』、『トラ』と呼ぶほどに親しくなっていた。


 ゲンナはまだ「人間より強い」といった内容の事を言っているが今までの感覚になれているから言っているだけで敵対意識があって言っているというわけではないだろう、希望的予測だけどね。


 正直こんなことは学生生活をしていれば普通にあることだ…というより中高の方が言葉遣いは荒い、がそれのほとんどに悪意はない、ただ愛称として言っているだけなのだ。


 まぁそんな話は置いといて、どうやら思っていたよりも村は遠いようだ。子供が二人でいるので近いのかと思ったらこっちの方にしか生えていない木を切るためにここまで来ていたようだ、聞く所によると村までは一時間以上かかるらしい。ただ歩くならまだしも狩衣と巫女装束の二人にはキツかった。しかしここで遅れて機嫌を損なわせて放置されても困るので必死についていく二人。そんな状況で四人が歩いているといきなり近くで爆音が鳴り響いた。


 ――ズッッッダァァァァァァァン!!――

 

 正体不明の音に驚き辺りを見渡す四人は直後、一箇所を見つめて呆然としていた。その先にあったものは…

 

 「グルガグギャガァァァルル……」


 取り込まれるような黒色で、体長は約三メートル、形はライオンの様な、…例えるならば巨大なライオンにヘドロをかけたような姿をした、悪臭を漂わす『何か』がたたずんでいた。


 「……なあ、あれもなんかの種族?」


 鼻をつまみながらゲンナにそう聞く霊彦にゲンナはまるで世界の終わりでも見るような顔をして質問に答えることなく呟いた。


 「……そんな……あいつがこんなとこに居る筈が…」

 「そ、んな……ありえ…… !? に、逃げなきゃ!」


 先程までの暖かな雰囲気など感じさせない二人の様子にこの状況がどんなものであるか、事の重大さを察した地球組二人はホーガ二人についてヘドロ生物から逃げていった。


 しかしホーガ組二人は霊彦達に速さを合わせ得意とする脚力を十分に発揮することができず状況以上に焦っていた。


 猛獣のような存在であるとは思っていたものの、どこかそれ以上に怖がっているように見えるゲンナ達に疑問を覚えた霊彦はあれの正体について走りながら聞いた、そしてゲンナが言うにはあれは『獣魔獣バン』といい、魔力の塊のような存在なのだという、しかもたちが悪いことに撃退するにはかなり強力な物理攻撃か、圧倒的な魔力で潰すしかないのだという。そう、いまの自分達には打つ手がないのだ。


 そしてこの説明があだとなった、ただでさえバンは早いのに自分たちは話をしながら重い服をひこずって走っていたのだ、撒けれるわけがない。もうすでにすぐ後ろまでバンは迫っていた。そして霊彦達からは全く想像できず、ゲンナ達は理解は出来ても生まれて始めてみる光景に声が出ないでいた。その光景というのはバンの事で、口と思わしき場所の前に不完全な黒い球体を発生させ、その方向を霊彦の方へと向けた。


 ゲンナは霊彦を守ろうと、腕を引っ張ろうとしたが時すでに遅し、ヘドロのような球は霊彦へ直撃した。


 それと同時にさっきの雄叫びと同じくらいの大きさの爆発音が鳴り響く。爆風で舞い上がった砂埃が晴れてゲンナが周りを素早く見回すと辺り一帯の木が折れるか大きな損傷を受けており、その威力が如何に大きかったのかがわかる。


 嫌な予想を確信に近い形でしてしまい、霊彦のいた場所を見たゲンナだったがそこには呆然と立ち尽くす霊彦が立っていた。何故重症どころか軽傷も負ってないのか気になったゲンナだったが直ぐに考えるのを止め、三人を守るような形でバンの前に立ちふさがった。


 「ゲンナ!?」

 

 猛獣より遥かに化物じみている……むしろ化物そのものといえるバンの前に立つ幼馴染の姿を見て叫ぶトライル、そしてその叫び声で正気に戻った霊彦は自分達を守るようにバンの前に立ちふさがるゲンナの姿を見た。


 「!? ゲン! 逃げろ!!」

 「俺はいいから! トライルを連れて逃げろ!」

 「でもお前が―――」

 「いいから!!」


 どうやらゲンナはトライルを……三人が逃げられるように囮となるようである。その必死で、怒気を孕んだその言葉に二人は、そしてトライルはそれ以上言い返す事ができなかった。


 しかし……


 「あ……」

 「え…あ……あ……」

 「おい!! 神生! トラ!」


 腰を抜かしてしまい立てれない神生とトライルに叫んで呼びかける霊彦、それはこの場がどれだけ混乱しているのかを表していた。


 そんな状況を知ってか知らずかバンを蹴りダメージを与えようとするゲンナ、しかし傷どころか顔色一つ変えないバンに、わかっていたとは言え絶望に近い顔になるゲンナ、それもその筈である。実はホーガは羊脚族というだけあって人間より遥かに脚力は強く、中には蹴って木を折れる者もいる程である。そのホーガ唯一の自慢とも言える脚の力が全く通用しなかったのだ。


 そんな状況でバンが待ってくれる筈がなかった。


 「グゥルググギィヤァァァァァァ!!」


 咆哮をあげ、ゲンナの方向を向くバン、その口には先程とは比べ物にならない大きさの黒い塊が浮かんでいた。


 「あ……」


 状況がわからず……否、理解しても動けない状態でゲンナは固まっていた。それに気づいた霊彦が今度はゲンナを守ろうとバンの前へ立ちふさがる。


 「!? おい!お前は逃げてろ!」

 「人を見殺しにして逃げれるか!」


 その言葉にゲンナは驚き、口を開けたまま黙ってしまった。でもこの状況じゃむむしろ好都合だった。


 「……おい、かかってこいよ」


 別に正義のヒーローを気取ろうとした訳じゃない。どうせ一人を犠牲にして逃げてもすぐ追いつかれるだろうと思ったから、『ある希望的観測』に賭けての行動だ。


 …獣の挑発の仕方なんて声だしとくだけでよかったかも。


 動けない三人は無視し、霊彦はバンへ呼びかける、するとそれに答えるようにまた咆哮をあげると、目にも止まらぬ速さで黒いボールのようなものを飛ばしてきた。何かが飛んできた、と無意識に近い形では理解できた霊彦だったが理解できたのはそこまで、そのまま黒い球は霊彦に当たった……


 「タマッッ!」

 

 直撃した後にやっと正気を取り戻し、阿須波の元へと行こうとした神生の目には、信じられない光景が広がっていた。


 「……何だ、全く痛くねぇじゃねぇか」

 「「「!!??」」」


 いい意味で予想が裏切られた三人であったが何故無傷なのか理解する事が出来ずただ唖然とする三人をよそにバンを見つめる霊彦、その目はまるで獣のそれだった。


 「グ…ギ…グルギギ……」


 その目…なのかは分からないが先程までとは全く異なるバンの態度に驚く三人、そして当の霊彦は…


 「あ゛? 日本語も喋れりゃあせんのんか?」


 その一言で立場は完全に一転、バンは敗者が勝者を見るような目で睨むように見たあと、その場を去っていった…


 その場にいた三人はただただ唖然としていた。











 霊彦も例外ではないが。


 

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