第10話 『めでたしめでたし?』

ここは『異世界』だ、そう俺が確信したとき、神生も確信したようだ。真剣な顔でこっちを見てくる、まぁまだ俺に任せるようだがなこんちきしょう。


 まぁそのことも踏まえて全力でコイツらと敵対しねぇようにしないといけなくなった訳で、


 「えーっと…ちょっと話が噛み合ってないようなんで自己紹介しますね、俺

  の名前は森海 霊彦たまひこ、こいつの名前は山川 神生かなです」


 そう言って二人で軽く礼をする、すると彼らはひどく驚いた顔をしていた、流石に今のどこに驚く場所があったのかは予想できないが自己紹介を続ける。


 「俺達は朝までの東経135度、北緯35度に位置する島国、

  にいました、でまぁなんだかんだあってに行って着替えさせられて親父

  を待ってたら周りが見えなくなって床が消えて……気が付いたらこの森で寝てい

  ました。で、こいつと合流して人を探してたら……お二人に会いました」


 言った、言ってやった、とびきり丁寧に言ってやった。なんか言われっぱなしが悔しいからちょっとした嫌味で。するとまぁ案の定二人は固まっている、まぁそりゃあそうだろう、俺だって脚が羊で頭に角生えてる奴にいきなりこんな事言われたら固まるよ、うん


 「……証拠を見せましょうか?」


 俺がそう言うと二人は目を覚ましたようにビクッと肩を震わせると「ああ」と答えた。


 そう言われると俺はカバンの中を通学カバンの中をあさり始める、え? 通学カバンなんてなかっただろって? ありましたよ、ただ『祭具の入ってる大きなカバン』のインパクトが大きすぎてわざわざ説明してなかったけど異世界こっちに来る前に通学カバンも持ってたのであります、はい。


 そんな話は置いといて通学カバンから『日本製』と書かれた一冊の本と筆箱を取り出す。すると女の方が滅茶苦茶驚いた顔をしてこっちにきた。


 「本!? 貴方自分の本を持ってるの!?」

 「……え? あ、はい、教科書も入れていいなら日本人なら普通に一人数十冊

  程度は持ってますけど…」

 「「数十冊!?」」


 今度はふたりして驚く、何かこの国の文明レベルを想像できてしまった、自分の本を珍しがる、斧で木を切る・・・・・・短く考えても百年以上は前のレベルであろう。


 そんな考察をしながら俺は異世界から来たことを証明するために地図帳を広げる、そして初めのページの世界地図を二人に見せ日本を指差す。


 「これが俺達がさっきまでいた世界の地図でこの島国が日本、その隣にある大陸が

  さっき言ったユーラシア大陸です」


 俺が地図を見せると見入るようにじっと見ていたので一旦説明をやめる。


 「(精巧すぎる……どうやってこんな地図作ったんだ?)」

 「(色がついてる!? しかもどこもあせてない……)」


 二人が地図に見入ってるのを確認しその心境に追い打ちをかけるように筆箱を取り出し二人に見せる。


 こんな行動にでるのは相手の住んでる国の文明レベルが中世程度と過程した場合の話しだ。


 「これはカラーペンと言って一定の幅と濃さでそれぞれの色でかくことができま

  す。試しにかいてみますね」


 そう言って俺は社会のノートの後ろを破りそこにかいてみせる。しかし男の方はペンを見て驚いていたが女の方は少し見ているところがずれている。どうやら紙の方を見ているようだ。

 

 「えっと……どうかしましたか?」

 

 とりあえず話しかける、なるべく仲良くしたほうがいいからね、うん


 「この紙…凸凹してない、しかも等間隔で薄くて細い線が引かれている…こんな紙

  見たことがない……」


 ああ、そういうことか。確かに見た感じの彼女達の国の文明レベルの技術力ではこの紙は作れなさそうだ、地球でもほんの数十年前から使われているのだ。


 まぁ他にも色々見せたが同じような反応ばかりなので割愛させていただく、すまんな。


 そして十分後……


 「えーっと……俺達が異世界から来たって信じていただけましたか?」

 「完全に信じた訳ではないが…嘘をつくために本は高価すぎて作れないだろうから

  お前らの歴史が記された書を見る限りそのようだな……人間族以外存在せず争い

  の絶える事のない世界、か…」

 「……」


 痛いところをついてくる、しかし彼の言うとおりだった。地球では人間が文明を持った時から争いが絶えることがなく、紛争や戦争という規模も珍しいものではない。現に今だって続いている。


 しかしこんな話を続けるのも嫌なのでもう一度俺から質問することにした。


 「そういえば二人共名前はなんていうの?」


 そういえば名前を聞いてなかった、俺は名前も知らない奴と長話してたのか・・・・


 先に答えてくれたのは少年の方だった。


 「俺の名前は『ゲンナ・サイ・ダネ』、お前らと違ってゲンナが名前、サイが苗

  字、ダネは出身地だ。歳は十五、見ての通り木こりの仕事をしている」

 「仕事!? 十五歳で木こりの仕事だなんて…凄いね」

 「凄い? お前たちはしないのか?」

 「うん、日本じゃ義務教育って言って最低でも小学一年……6歳から中学三年生…

  えーっと15歳までは学校で教育を受けるのが義務なんだ」

 「学校15!?」

 「え? あ、うん」

 

 どうやらまた驚かせてしまったようである、やっぱりこの国では学校に言ってる人は少ないのだろうか。


 「あ、私の名前は『トライル・トナ・ダネ』、トライルって呼んで大丈夫」

 

 少女・・・・トライルはゲンナに比べて俺達に対してもうあまり警戒してないようである、よかった


 「あ、えっとゲンナ、トライル、ちょっとお願いしたいことがあるんだけどいいか

  な?」

 

 そう、本題はここからである。


 「なんだ?」

 「俺達この世界の住人じゃないから帰る家がないんだ、だから・・・・泊まらせて

  くれないかな?」


 本題はこれである、衣食住の全てが保証されていない今の俺達にとって『住』の確保は必須であった。

  

 しかし……『人間族』と言う時の表情や口調、そして話す内容から察するに人間のことをあまりいい目で見ていないようだ、それは彼らだけでなく村の人々も同じだろう。 


 「……お父さんに聞かないとわかんないけど私個人としてはいいよ」

 「おい! 相手は人間だぞ!?」

 「…ゲンナ、阿須波達はじゃないてわかったんでしょ? 

  それに霊彦も神生も私たちがからって馬鹿にしないしさげすみの目で

  見ることもない、無理に断る理由なんてないでしょ?」


 トライルがそう言うとゲンナは少し悩む顔をした後こう言った。


 「……まぁお前が良いって言うんだったらいいよ、じゃあ改めて……よろしくな、

  霊彦、神生」

 

 なんでこんなものを見せ付けられなくては・・・・・・あぁ、ついてない・・・。

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