第2話 基礎は音取り

 堂守部長の説明はそこそこ長く、ストリートダンスの起源から始まった。なので、わかりやすく要点だけまとめるとこうだ。


 一、ジャンルはヒップホップ、ロック、ポップ、ジャズ、ハウス、クランプを学べる。(実際に踊ってくれたのでかなりわかりやすかった。ポップの人がやってたロボットが面白そうだ)


 二、部活の始めに柔軟と音取り、アイソレーションだけ全員でやる。後は自由。(柔軟しか聞いたことがない)


 三、部活として、毎年夏休みに行われるショーケース、冬休みに行われる大学対抗ダンスバトルの出場が義務付けられている。ダンスバトルは選抜四人らしい。一回生と四回生は辞退出来るが、基本は全員参加。(ちなみにショーケースとは、舞台の上で決められた振り付けを踊るショーをダンサーは『ショーケース』と呼ぶ)


 おかしいな。パンフレットにはブレイクダンスも書かれていたのに、名前が挙がらなかった。後で詳しく聞いてみよう。もし、ブレイクダンスが出来ないならショーやバトルなんて考えている場合ではない。


「では、質問は?」


 話しの途中だと思っていたら突然終わった。不意を突かれてしまった僕は、ブレイクダンスについてどう言い出そうか考え始めたが、少し遅かった。


「無いようなので、今日は基礎の音取りとアイソレーションを教える。その前に、まずは柔軟をしようか」


 自分の思い切りのなさに落胆しながら、他の人たちと同様に柔軟出来るだけのスペースを作った。洋楽を聴きながらの柔軟は、特に変わったところもない普通の柔軟だった。

 堂守部長が立ち上がると、周りの人たちも釣られるように立ち上がる。


「よし、柔軟はこれくらいにして音取りを教える。音取りは、カウントに合わせてダウン、アップやステップを踏んで行く。この曲を聞いてくれ」


 スピーカーから流れてくる音楽は昔から良くテレビで流れているJpopで、おそらく聞いたことのない人を探す方が難しいだろう。


「これは有名なJpopだが、ダンスミュージックを含めほとんどの音楽では8回カウントを取ると曲の区切り目が来るんだ」


 堂守部長は、少し頭でリズムを取ってからカウントを始めた。


「1.2.3.4.5.6.7.8。1.2.3.4.5.6.7.8.」

「ホントだ。1の部分でサビに入った」

「この1から8までを【1/8(ワンエイト)】。それをもう一回繰り返して【2/8(ツーエイト)】なんて呼ぶんだ。もちろん増えるごとにスリーエイト、フォーエイトと呼ぶ。練習はもちろん、振り付けでもよく使うから覚えておいてくれ」


 新入生達は各々でカウントを取り始めた。頭を振って合わせる人もいれば、小声で取っている人もいる。


「あの、うまくカウント出来ないんですけど......」

「リズム感の問題だから、初めからカウントできる子もいればできない子もいる。大丈夫だ。リズム感は鍛えることができるから地道に練習すればすぐに出来るようになるさ」

「私もカウント出来ないや......」


 二、三人ほど難色を示す。もちろん僕は出来ていない人だ。正確に言うと、わかる気がするのだが身体が違うタイミングで動く。みたいな感じである。


「さて、できない子は後で付きっきりで教えるから心配しなくていい。次に、このリズムに合わせてアップダウンを取る。見ててくれ」


 今度は藤巻先輩が前に立ち、堂守部長の指示に従って足を肩幅に開く。軽めのスクワットをするように身体を上下に動かせた。


「カウントした時に、上に身体を持っていくのがアップ。逆に下に持っていくのがダウン」


 真似をするように全員がダウンを取ったが、先程より難しい顔が増えていた。


「難しいや。藤巻さんみたいに出来ている気がしないし.....」

「さらに、ダウンの時に横にステップを入れる」


 突然の横移動に、みんなで慌てて付いていく。ここから、江川先輩と堂守部長も加わった。


「そしてダウンからアップへ入れ替えてみる」


 三人が全く同じタイミングで動きを変え、ぴったり息を合わせてアップからダウンへ。そして、ダウンからアップ。その間、ステップは全く止まらない。


「あ、あれ? あ、違う。ん......出来ない!」


 とうとう全員が付いていけなくなり、バラバラに動き始めた。もちろん、僕も出来ない。全く乱れない三人の先輩が恐ろしく感じた。


「どうだ? 見てる分には簡単にみえるだろうけど、複数の動きを同時にやってるから意外に出来ないんだ」


 おそらく、ダンスの初歩の初歩なのだろうが、この時点で冷や汗が出るほど付いていけていない。僕はダンスに向いていないのだろうと思わざるを得なかった。

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