亡霊は魔王の娘を雑用に使う

「よし、いいでしょう」

「ようやくか!待ちわびたぞ!では、迅速に盛り付けるのじゃ!」


 ただ待つのは余計に苦痛だというベラナベル様のご意思で、ベラナベル様には椀を並べたり箸を数えたりと言った雑用もお任せしている。なにしろ十二人分の食器だ、並べるだけでもなかなか手間のかかる作業である。

 椀を手に取り、杓子で具沢山のスープを注ぎ、置きながら別の椀を取る。手が四つもあると何かと都合がいい。それも、腕と繋がっていないために、それぞれが独立して動かせるときた。

 雑用はもちろんのこと、戦闘でも役に立つ。三つの斧を同時に振るい、残りの手で盾を構えるなど、生身の身体では到底不可能な芸当である。


「十二人分、滞りなく」

「ご苦労。では、運ぶとしよう」

 幼子のような腕を広げ、ベラナベル様が大きめの盆を手にされる。

「慌てて零さないでくださいね」

「分かっておるわ!」

 四回目の腹の虫がベラナベル様ご自身を急かす。いつもの事だが、心配である。

「しかし、慌てるなとは言うが、冷める前に食う方が美味いと言ったのはお主じゃろう」

「それはそれです。食べる前に駄目にしてしまっては元も子もないですからね」

 スープの並々と注がれた椀が十二人分。それなりに重いはずだが、ベラナベル様にはさしたる問題ではない。どちらかといえば、重さよりも揺らすと零れてしまうことの方が問題だ。


「それにしても、美味そうじゃな」

 ベラナベル様はご自身の椀を見つめられる。

 最初にスープを注いだ椀、即ち一番冷めた椀を。

 相も変わらず、魔王の娘らしからぬ謙虚さである。


「味はご存知でしょう?」

「実はまだじゃ。では、行ってくる」

 そろりそろりと慎重な背中を、じっと見送る。ぺた、ぺた、しゃりん、しゃりんと、傷んだ髪とぼろ切れが揺れている。

 相も変わらず、お美しい。


 さて。四本の手で片付けを済ませたら、速やかに警備の任に戻らねば。

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