そらいろミサイル

夏鎖芽羽

そらいろミサイル

 戦争が終わり世界は平和になりました。

 どこかで見たことがある物語の終わり方だね。

 でも、そんな世界にも続きがあると思うんだ。

 これから僕が話すのは平和になった世界のその後のお話。



 戦争には様々な武器が使われた。

 銃、手榴弾、地雷、戦車、戦闘機、そしてミサイル。

 でも、平和になった後の世界にそんな武器はいらないよね。

 だから、ミサイルの僕はだだっ広い焼け野原に他の武器と一緒に捨てられたんだ。

 寒い、寒い、冬のある日のことだった。

 そんな焼け野原にもしばらくすると春がやってきた。

 温かい陽気に誘われて、どこからか飛んできた種が芽吹いて、花が咲いて、蝶がやってきた。

 誰かを悲しませるために作られた僕だけど、そんな景色を見て温かい気持ちになったんだ。


 そして君がやってきた。


「ねぇねぇ、みさいるさん」


 君は一言で言うと白かった。白い肌に白いワンピースに白い服に白い靴。黒い髪と瞳以外は全て真っ白な女の子だった。

 白い女の子は僕の周りをスキップで一周すると、弾けるような笑顔でこう言ったんだ。


「世界中に私の素敵な言葉を届けて」


 よく意味がわからなかった。


「ミサイルは遠くまで飛ぶでしょ? だから、私の言葉も世界中に届けられると思うんだ」


 白い女の子は自分の夢を語った。

 ミサイルに楽しいことや悲しいことを言葉にして積みこんで、世界中に届けて回る。


「ねっ、とっても素敵でしょ?」


 屈託なく笑う彼女に僕は素敵だねと返した。

 そこから素晴らしい日々が続いた。


 白い女の子は毎日ひとつだけ、素敵な言葉を僕の中に入れた。


「今日はホットケーキが上手にやけました!」


 そんな些細な日常をかわいらしい文字に変えて僕の中に入れていく。


 雨が続く日には、カエルとお話したことや、カタツムリと競争したことを。

 暑い日が続く日には、綺麗な蝶に出会ったことや、冷たい川に入ったことを。

 木々の葉が色づいて日に日に落ちていく時は、どんぐりを拾ったことや、木が寒そうなことを。

 冷たい風が吹き続ける日には、いたずらをしてお母さんに怒られたことや、ホットミルクが美味しいことを。

 雪が降った日には、一つ歳をとったことや、雪だるまを作ったことを。


 そして、春になった。


「もう満タンだね!」


 白い女の子は僕の中を素敵な言葉でいっぱいにした。

 楽しいこと、面白いこと、切ないこと、悲しいこと。

 そんな素敵な言葉が僕をカラフルにした。


「ねぇねぇみさいるさん。世界中に私の言葉を届けてくれるかな?」


 僕は快諾して、次の日飛び立つことになった。



 僕が旅立つ日はとてもよく晴れた。


「ばいばい!」


 元気よく手を振る白い女の子の前で、僕はコップ三杯の油を飲んで世界に飛び立った。

 町の上を、山を、海を飛んで世界中に少しずつとびっきり素敵な君の言葉を届けていった。

 そうして世界を一周した。

 僕は空の一番高いところではじけて、君の言葉は世界をきらきらさせる。

 そんな世界を白い女の子が笑顔で見ているところを想像して、僕はとっても幸せだった。

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そらいろミサイル 夏鎖芽羽 @natusa_meu

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