《01-03》

 子供っぽい対応に菜留の口元が緩む。

 途端に横目で睨まれた。

 急いで真面目な表情を作ると、謝罪を口にする。

 

「変なこと言ってごめんなさい」

「ふむ、いいだろう。迂闊な行動を取った私にも問題がある。その点については詫びよう」

 

 菜留の方に向き直った時には恥じらいは消え、凛とした雰囲気に戻っていた。

 

「それに君の性癖についても誤解があったようだ。済まなかったな」

 

 そう言うと、深く頭を下げた。

 

「いえ、そんな」

「しかし、そうなると次の疑問が出てくるな。君がここで何をしていたか、だ」

「靴を探していたんです。下駄箱からなくなっていて」

「面白そうな話だ。良ければ少し詳しく話してもらえないか」

 

 菜留は朝からの出来事を説明する。

 普通なら笑ったり呆れたりする話だが、少女は真剣さを一切崩さす全てを聞き終えた。

 そして。

 

「君は頭の良い人間のようだな。要点を上手くまとめて話すことができている」

 

 的のずれた評価が返ってきた。

 

「はあ、ありがとうございます」

「君に一つ確認したいことがある。君は間違いなく靴を履いて来たのだな。上履きで来たということはないか?」

「そこまでドジじゃないですよ」

「それを聞いて安心した。これで君の靴については見当がついた」

「え?」

 

 己の耳を疑う菜留。

 

「君が望むなら教えてやってもいいが、どうする?」

「是非、教えてください!」

 

 つい前のめりになる菜留に対し、少女は不敵な笑みを浮かべる。

 そのまま腕を水平に伸ばし、芝居掛かった動作で指を鳴らした。

 

 

                    ※ ※ ※

 

 

 パチン。

 

 全生徒千人分の下駄箱が並ぶ玄関。

 ふたりしかいない空間に乾いた音が響く。

 

 不思議な事に、菜留は空気がぴっと張り詰め気がした。

 

「さて」

 

 一呼吸置いて、少女が切り出した。

 

「状況を整理すれば結論は簡単に導き出せる。まずポイントは遅刻ギリギリだったという点だ。君は昨晩遅くまで本を読んでいたんじゃないか?」

 

 当たりだった。驚きつつも菜留が頷く。

 

「その本はミステリィの類。そして非常に秀作だ」

「ええ、その通りです。でもどうして?」

「可能性の高い物を選んだだけだ。さっきも言ったが、君は要点をまとめて話すことができる。語彙も豊富で、主語述語が明確。ここから読書好きだと推測した。本の種類についてだが、君の説明はやや冗長的な傾向がある。そう物語の探偵が話すように、だ。そこからミステリィを候補にあげた。ミステリィは一般的に読者の興味を維持する形で物語が展開される。つまり途中で止めづらい。しかも就寝を忘れるほど、引き込める作品と言えば、そのレベルはかなりの物だろう」

 

 菜留が頷いて納得を示す。

 

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