《01-02》

「私は正義の味方ではない。だが、目の前で行われる悪を放置しておける人間でもない」

「え?」

「靴や上履きに異常な執着を持つ者がいると聞いたことがある」

「ちょっと待ってください」

 

 想定していなかった方向に話が転がり出した。

 焦る菜留。

 

「性癖の自由が認められるべきというのは解る。だが犯罪となれば話は別だ。とりあえず、職員室まで来てもらうぞ」

「待ってください! 先輩は何か凄い誤解をしています!」

「ほう、誤解か。いいだろう。君には弁明する権利がある。聞いてやろうじゃないか」

 

 左手の中指で眼鏡を上げる。レンズがキラリと光を反射。

 その奥で瞳が鋭さを増した。

 

「あの……」

 

 菜留が言葉を揺らす。

 しかし下手な嘘をつくより、正直に言った方が良いだろうと判断する。

 

「さっき、先輩は名札を見せようとして胸を張ったじゃないですか」

「ん、それがどうした?」

「なんていうか。女子の胸をじろじろ見るのは失礼かなと思って」

 

 小声でなんとか伝えた。

 

「失礼なのか?」

「だって、色々と想像しちゃいますし」

 

 菜留は小さい頃から読書が趣味。

 更に読み終えた物語を、頭の中で膨らますのが大好きだった。

 年齢を経るにつれ、その想像力はどんどん豊かになり、今では現実に起こった事についてもあれこれ考えてしまう。

 悪友達からは立派な妄想家、とまで言われているくらいだ。

 

「色々、とは?」

「はい。その、下着とか胸とか……」

「嘘だな。この私に対して、そんなことを考える人間などいない」

「そんなことありません! だって先輩は!」

 

 つい声を張ってしまった菜留。

 突発的な感情を口にしていいのか。そんな迷いが生まれる。

 しかし、出かけた言葉を止めるには遅過ぎた。

 

「とても綺麗で魅力的だと思います、から」

 

 少女はただ絶句。

 微かに開いた唇が微かに震えるだけだった。

 

「あ、あの、先輩」

 

 沈黙に耐え切れず、菜留が声を掛ける。

 

 直後に起こった少女の変化は、まさに劇的だった。

 頬が、いや耳が、更に首元までが、一瞬にして朱に染まったのだ。

 

「つ、つまらない冗談を言うんじゃない」

「でも、僕は本当に……」

「だ、黙りたまえ。き、君の発言は、その、そう、明らかなセクハラだ。謝罪を要求する」

 

 真っ赤になった顔を逃がすように、ぷいっと視線を外した。

 

 

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