第17話

「厳しい監視は当然だけど、大風や雷雨、豪雪も想定して、対物センサーと飛行清掃体も用意してる。それでも足りない時は自動破砕装置もあるけど、初動に力を利用するだけじゃなく、初めから危険を避けられるよう外の存在を寄せ付けない磁界の中に作るんだ。ヤマト以外の五つも条件は同じだよ。土地が広い分、ヤマトより磁界にも余裕があるし」

「いや、私が言っているのはむしろ、こう大きくては質量的に無駄ではないのかということなのだが」

「機能美なんて言葉もあるのに、みんな無駄に思えることをすぐ切り捨てたがるよね。自分にとって無意味でも、存在するだけで本当は、無駄なものなんて何ひとつないのにさ」

 ほんの少し呆れたような声。子どもらしい態度の内に、ひどく大人びたものを覗かせてさとるはぽつりと言葉を落とした。


「…わかりやすいものがあったら、迷子にならないのに」

「なんだ?」

 覚の視線を辿れば、ベッドで眠る娘の姿。

「半年くらい前に第九セグメントで磁気嵐があっただろ。収まるまで人の方向感覚もおかしくなるから、他セグメントにも逃げられなくて中心部で大量の死者が出た。あのニュースを見てた時、めぐみがそう言って泣いたんだ。痛い、淋しいって。だから俺、約束したんだよ。皆の目印になるもの、作ってやるってさ」

「恵が?」

 感受性の強い娘であるのは知っていたが、まだ五歳にも満たない妹の一言が、兄を動かす力になったというのか。

「長大な塔にすることでエネルギー受給がいいのは勿論、自分たちを守る存在が確認できる、しるべになってほしいからだよ。どれくらい離れたところから視認できるかまでは予想してないけど、結構遠くでも見えるんじゃないかな。どこかを目指す人にも、そこで暮らす人たちにも、この塔が支えて導く羅針盤になったらいいと思ってる」

 かつて栄華を極めた時代に、人類がこぞって築き上げたビルの群れは今や崩れ、朽ち果てた過去の遺産となり、高層と呼べる建造物は、五、六階建て程度のものがスラム住人の棲み家となって残るくらいだった。

 そんな遮るもののない地で、輝きを纏った塔が人々の目に映じる光は、一体どれほどの希望となるだろう。


「…レイヴァーテナーの名はこれから、お前にこそ相応しいものになるだろう。あるいは、あの子もお前と共に背負うのかも知れんな」

 あどけなく眠る娘の姿に再び視線を投じ、息子へと目を移した火狩博士は、おそらく妻にすら見せたことのない、百万ドルではない心からの笑みを浮かべた。

「ならばその計画に際し、お前に私の持つ権利他すべてを譲ろうと思う。…ただし」

 お前の夢の一端に、私も技術者として立ち合わせてくれ。

 それは火狩博士が博士として過ごしてきたものを、手放す意でもあった。

 だが覚は父と共に仕事ができる期待に顔を輝かせ、言葉に含まれたものに気づくことはなかった。

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