track 06-芝居小屋の4人組

「イッテェ……これは厄介な相手だね」

「ねちっこいんだよなこのタイプの人たち」

「チャチャっと片付けて逃げようぜ」

「絶対できないよね、そんな言った時に限って」

「敵じゃないってこんな連中」

「うん、敵じゃない」


目の前で各々の武器を取り出した4人が会話をしながら戦う、その相手をするのはいかにもやる気のなさそうな女だった。


「いやぁ危なかった」

「大変だね、重力を操作する相手と戦うの」

「ノックアウトできるか?」


妙に言葉を選ぶような会話をするこの4人、しかしそんな事をしながらでも猛攻が途切れる事はなかった。


そもそも、なんで俺がこんな戦いを見せつけられているのか、全ての始まりは今朝の出来事だった。


* * * * *


「申し訳ございませんでした!」


ささくれさん、ピノキオP、Junkyさん、額を腫らしたナブナさん、そして俺を前にしたNeruさんが土下座する勢いで謝る、昨晩は結局夜も遅かったので解散になり、またここに集まる事になってたのだった。


「Neruくんだっけ? 君、どこまで記憶あるの?」


ピノキオPが訊ねる、俺たちを襲った記憶はあるのかという意味だろうか。


「正直、あの異能嫌いのヤバい部隊に捕まってから何も記憶が無いんです……でも、俺が目覚めた時のあの部屋を見れば、俺が何らかの形で暴れたというのは分かります……」


「君、見たところ真面目そうだよね、僕らが見た昨日の少年は君にそっくりだったが今の君とはまるで別人のような雰囲気だった、君が覚えていないなら本当に別人だったんじゃないか?」


─そんなメチャクチャな……


ピノキオPの言葉に対して、俺の心の声とナブナさんの呟きが重なった。


「そもそも、そこのヒョロいお兄さんなんて昨日の少年のこと殺しかけてたしね、あの部屋で暴れてたのが君だったとしても、何も謝る事なんてないって事さ」


ヒョロいと言われたナブナさんが顔をしかめる、どうもこのピノキオPは独特のフォローをする傾向にあるようだ。


「まぁ詳しく話は聞いときたいのには変わりないから、今日はよろしくね」


ささくれさんがニコリと笑う、肩に乗ったカフェオレ生物が腕を組んでウンウンと頷いた。


「そうだバックフジくん、駅前に猪鹿蝶っていう和菓子屋があるでしょ? 悪いけどあそこで全員分の饅頭買ってきてよ、とびきりもちもちしたヤツ」


そう言ってささくれさんがカフェオレ生物を投げて寄越す、カフェオレ生物の手にはしっかりと五千円札が握られていた。


「15個も買えば充分かな、お釣りはあげるよ」


* * * * *


「……ささくれくん、今更だけど駅前の猪鹿蝶は洋菓子店だよ」


「うそ!? あの店構えで洋菓子店やってるの!?」


あーやっちゃったよと言いながらささくれPは電話手に取り、操作をして耳に当てた。

数秒の沈黙の後、テーブルの上から着信音が鳴る、先ほどバックフジと呼ばれた男が持っていたスマホだ。


「ま、まぁ…いざとなったら僕のカフェオレちゃんを通じてなんとか伝えるよ、それに緊急事態になっても居場所は分かるようにしてるし」


非常に申し訳なさそうな顔で苦笑いを見せたささくれPが言った。


「にしても、なんでバックフジ君を行かせたんだ? お菓子なら冷蔵庫にいくつか残ってたはずだけど」

「彼は僕らみたいな派手な異能は持ってないからね、余計な秘密を知って命を狙われるのは可哀想だと思って」


お盆にコップをいくつか乗せて運んできたささくれさんが目の前に座る、その目は真っすぐと僕を見つめていた。


「話の続きだよ、Neru君」


* * * * *


[やっぱマカロンでいいよ]


ポケットから這い出てきたカフェオレのような生物が、頭の蓋を開けて取り出したメモとペンで書いて見せる、俺が猪鹿蝶の店内に入って品揃えを見てから戸惑っていた時の事だった。


[ぼくもしらなかった、ごめんね]


猪鹿蝶の静かな店内で俺はため息をついた。


無事マカロンを買い終えた俺は、そのまま帰路につく、カフェオレ生物は窮屈なポケットが嫌だったのか、そのまま俺の頭の上に居座っていた。


ふと足を止める、大通りの片隅、俺が通らなければならない道の真ん中で、4人組と1人の女が何やら不穏な空気を漂わせていたのだ。


「だから、僕たちはそんな野蛮な連中に協力するつもりはありませんって」


「そう……困ったわねぇ……」


関わらないのが一番、そう考えた俺はその隣をそっと通り抜けようとする、その判断は早々に無意味なモノとなってしまう。


「お兄さん、異能者でしょ?」


馴染みの深い言葉に思わず振り返る、不穏な空気を漂わせていた内の女の方がこちらを見て不気味に笑った。


「人によるみたいなんだけどね、分かるのよ、異能者同士って」


俺は嫌な予感に襲われ、思わず走り出す、しかしその足は見えない何かに掬われ、無様に宙を掻いただけだった。


『故にユーエンミ─』


派手に転んだ俺は、次の攻撃に備えて急いで体制を立て直す、しかし目の前にはあの女は居ない、まずい、見失った!

焦る気持ちで辺りを見渡す、しかし本当にどこにもいないのだった。


「あなたの"選択"はね、私の前では何か足りなくてどこか無意味なものでしかないの」


後ろから声がする、力を抜き取られるかのような気だるげな声に思わず鳥肌が立った。


「あなたたちも、無意味な"選択"は止めた方がいいわ、疲れるだけだから」


臨戦体勢に入る4人に女が言った。


『かごまないで』


4人の内の1人が消える、彼女の声がしたさらにその後ろの辺りから聞こえた音に、思わず振り向いた。


「うしろの正面は誰だ?」

「時計台くんでしょ?」


釘バットを振り上げたまま硬直する男、振り向いてそれを見た女は目の前に手をかざした。


『重力操作の新化学』


男がフワリと浮かび上がり、次の瞬間勢い良く後ろへと吹き飛ばされた。

ゴミ集積所に叩きつけられた男が呻く、何なんだこの戦い、俺関係無くないか!?


「だから無意味なのよ」


『マジックワードはKDCL』


目の前の3人の雰囲気が変わる、ビリビリと伝わる感覚はきっと強者というものの気迫なのだろう。


「芝井っち、無事?」

「丈夫だから、僕ってさ」


後ろで立ち上がる先程飛ばされた男も同じく雰囲気が変わっていた。


「さーて、無意味かどうか確かめてやろうじゃない」


* * * * *


「で、異能対策部の人たちに連れて来られた場所が……なんか、なんとか研究所とか書いてる場所に連れて来られて……そこでヘッドフォンをつけられて目隠しをされたとこからは……何も……」


Neru少年はそこで黙り込んでしまった。


「思い出したくないならいいけど、意識が無い間、何か見たり感じたりとかしなかった?」

「……よく分かんないんですけど……なんか凄い嫌な感覚で一杯でした、幸せなモノが全て壊されるような、例えるならそんな感覚です……」


Junkyくんはそこまで聞くと黙って出て行った、おそらくこの少年をあんな目に会わせたのは彼と因縁の深いあの連中なのだろう。


「カサイケン……異能力科学再現研究所のことだろうね……Neruくん、君自身には以前使えた異能が今は使えなくなったりとか、そんな感じの変化は無かったかい?」


Neru少年がそれを聞いて不思議そうな顔でこちらを見た。


「あそこはね、異能を科学で再現する研究をしているんだ、同時に異能者の異能を抹消する研究も進めていてね……君が受けた洗脳、それはJunkyくんがあの研究所に奪われた異能を再現したモノ……「複製:幸壊-ジユウ-」なんだよ」


少年の首筋を、一筋の汗が伝って行った。


──────────────────────

犬丸芝居小屋

犬丸、丸井、芝井、古谷の4人で活動するグループP。作中では4人で同じ異能を使い戦う。

異能

1-かごまないで:必ず相手の背後をとれる異能、しかし背後をとった直後に「うしろの正面は誰だ?」と問い掛けなけらばならず、これに敗北した側は数秒のペナルティ(拘束)を受ける。


ただのCo

言葉遊びを取り入れた楽曲を得意とするボカロP

異能

1-故にユーエンミ─:相手の行動や選択を常に「何か足りなく、どこか無意味」なものにしてしまう異能。ただしゴリ押しには弱い。

2-重力操作の新化学:その名の通り、重力を操作する異能。操作範囲は0G〜100G、自分を中心とした斥力、引力の発生、切り替え。

* * *

世界観:異能

この世界の数%の人間に発生するヒトの力を超えた所謂超能力のようなもの。

主にクリエイター等の想像力が豊かな人に発現することが多く、ある国では過剰なまでに危険視され、差別の対象になっている。


世界観:固有結界

異能によって発生するその異能を行使するための専用の空間。

通常の空間に重ねるように発生する重複型、通常の空間に割り込んで元の空間を削った位置に発生する展開型、一定量の異能によって発生する成分を空気に混ぜて、拡散や濃縮をさせてその範囲内を固有結界とする気体型の3種類に加え、固有結界と通常空間の境目の違いも複数存在する。

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