女領主フェリカ敗れる

Ittoh

第1話 シーナ城陥落

 攻め寄せる二万余の軍を受けて三千の城兵は、凄まじいまでの闘いを示した。川から引き入れた水で堀を巡らして、高き石造りの城壁は、敵を寄せ付けぬように立ちはだかっていた。万の軍による猛攻を二ヶ月耐えていた、夏の終わりから始まった戦いは、秋を越えて冬に差し掛かろうとしていた。

 雪が降れば、撤退をせざるを得ない。攻城側の方が追い詰められていた。シーナ城の城主ラデルは凡庸なれど、守将として兵を率いたのは、豪勇無双の剛弓使いの城主が叔母フェリカ・スサ・シーナであった。フェリカ・スサ・シーナの剛弓による被害は酷く、堀を越えて鎧を貫く矢による被害が、数十を越えて百に届く勢いで、兵を率いる将を失っていた。フェリカが守護するところが、将を失っていくことで、攻勢が衰え城に近づけなくなっていた。

「届いたか」

「は、はい。これに」

攻撃側の帝国軍大将、ファン・キューブリック伯爵は、ようやく届いた二つの首桶を確かめた。叛乱軍総大将、レゼル・シーナとフェリカの婚約者にして神皇国皇子ネイルの首である。神皇国への友軍依頼をおこなったものの、断られ帰路に討ち取られた、フェリカの兄が首と、フェリカである。本来は、神皇の依頼による叛乱であったが、神皇国遠征軍は既に敗退し、帝国との和平を結んでいた。つまり、帝国内の叛乱軍は見捨てられたこととなる。

「明日、総攻撃をおこなう。正面より全軍を持って押し出す」

「は。首を晒しますか」

「馬鹿者ッ。そんなことをして、首を取り戻しにフェリカに突撃でもされれば、こっちは半壊するぞ」

「は、それでは」

「正面が攻撃をかけて、1時間後に、皇子とレゼルの首を城将のラデルに届けよそのまま、降伏するならば、裏門の橋を下し、門を開けて軍を迎えよとな、さすれば城将ラデルが命は助けてやると言え」

「はッ」

使い番が下がる。

「これで、勝てるの」

少女のような顔立ちの娘が聞いて来る。レオナ・ユーフェミア男爵であり、攻め手大将ファンの奥方でもある。

「ま、ラデルは、神皇国の騎士伯でもあるからな、裏門から逃げ出すさ」

「味方を捨てて」

「ラデルの味方は、神皇国だよ。ここには居ないさ。レオナ」

「何、ファン」

「明日は、千騎率いて、裏門へ廻れ」

「いいよ。門が開いたら突撃で良い。ファン」

つまりは、逃げるような男を殺していいかの問いに

「城へなんとしても入り込み、本殿を焼払え、それで戦は終わりだ」

好きにしろと返した。

「うん。わかった」

結果として、シーナ一族が叛乱は、ラデル・シーナの裏切りによって終幕となった。裏門を開き、逃げ出そうとしたラデルが、突撃してきたレオナによって打倒され、ラデルは討ち取られ、馬車に乗っていた妻妾や子らは捕らえられた。

 陥落した城は、阿鼻叫喚が響き渡る、略奪横行の修羅場となる。

 攻城戦というのは、護る方にとっては、必死であるが、攻める方は勝たねば何一つ得られるものが無い。攻め落とすことが、難しい戦であれば難しいほどに、勝った時は野獣のような修羅と化すのが、戦場というものである。二カ月もの攻城戦を耐えた、シーナ城は暴徒と化した野獣たちに荒らされていった。

 フェリカも、裏門が破られ、本殿に火の手が上がると、味方であったはずの雑兵たちに、側仕えの侍女アイルと共に襲われ、鎧や兜、衣服を奪われ、小屋に引きずり込まれて輪姦された後に、雑兵たちは逃げ出したみたいで、ゴミ屑のように棄てられていた。

 男達に嬲られ、破瓜の痛みや女陰や菊門の裂傷によって、記憶も定かではなく、痛みに記憶が飛んでいた、フェリカが気づいた時には、すでに陽は傾き夕暮れとなっていた。痛みや裂傷によって流れ出る血が、こびりついた様に赤黒く固まっていた。起き上がることもできず、這い蹲うように、隣で同じように倒れていた侍女に向かっていった。

「あ、アイル、アイル」

同じように、女陰や菊門には裂傷を負い、口からも血が流れ固まっていた。アイルは、恥辱を恐れて舌を噛み切って死んでいた。開いた瞳を閉じさせて、

「すまぬな、アイル。恥辱に合わせてしまった。できれば、生きていて欲しかったな」

『そうだねぇ、助けようとして死なれるのは嫌だよねぇ』

「何っ、誰だ」

『ご、ごめん。なんか、転生って奴をしたみたい』

「転生、もしかして、そなた、優子か」

『うん、そうだけど。何か、知ってるの』

「昔、胡蝶の夢を見ているように、そなたになっていたように思う」

『そっかぁ、もしかして、あたしに、変な本が読みたいって言ってたの、貴女だったの』

「そうだ、すまぬな。あまりに多くの本があったので、読みたかったのだ」

『いいよ。あたしも面白かったし』

「どうして、そなたは、あたしの中にいるのだ」

『あたしは、あなたが言う、胡蝶の夢の世界で殺されたんだ、気づいたらここに居た』

「優子は、死んだのか」

『そうね。今のフェリカみたいに、嬲られ輪姦されて、訴え出て処罰から逃げだした屑にね』

「私は、この戦にシーナ一族の再興と雪辱を願ったが、適わなかった。先にわたしが死んでいれば、そなたの世界へ行って助けれたかもしれんな」

『かもね、でもま、現実としてはあたしが死んで、あなたのところに来た。ゴメンね」

「しかし、せっかくだが、酷い状況ですまぬな」

『敗戦なんでしょ、そんなものじゃないの』

「そう言ってくれると助かる」

『あたしは、生きたいと思ったから、ここに来ちゃったみたいだし、これから、フェリカと一緒に生きていくってことでしょ』

「そうだな、あたしも生きたい。転生とかできるとは思っていなかったが、この戦場で死に、生き残ったのであれば、生き残る算段をせねばな」

『ねぇ、この世界では、捕虜とか、敗者は奴隷とかで売られたりするの』

「シーナ一族の所領は、全国にあるが、あたしの所領はこのあたり一帯だ。これは勝者に奪われるからな。ま、生きて捕まれば、帝都に連れて行かれるか、奴隷に売られるかの二択だろうな」

『生きて捕まった方が、生き残れそうだね』

「そうだな、奴隷となるのは、嫌だが死ぬよりは良いのかもしれぬ。そなたはどう生きたい」

『いいよ。なんにせよ、あたしの人生は終わったんだ。生きているのは、あんたの人生だ。あたしは見守るだけさ』

「優子。そうでもないぞ、お前の世界での夢で見た弓を基に造らせたあたしの弓は、城壁から50メートル先の敵を鎧ごと射貫いたからな」

『へぇ、弓かぁ、あたしのはただの部活だけどね、役に立ったら幸いだよ』

「後、一月守りきれば、ここらへんは雪に閉ざされるからな、攻め手は撤退してくれたろうに、残念だ」

ガラッと扉が開けられて、弓を背負った少年兵がひょこっと顔を覗かせる。全裸で長身のおんなを見て、真っ赤になりながら必死で、

「あ、居たッ。フェリカ・シーナだな」

「あぁ、確かにそのような名前を持つものだが、人に名を聞く前に、自分が名乗るものではないか。それに、そなたが手にしているのは、あたしの弓であろう」

「あ。これはやはりお前のか、おれは、ライ。ライ・リョウガ。お前に射貫かれた、カザル・リョウガの次男にして、ヤゼル・リョウガの弟だ」

「ほぉ、あたしの弓で親兄弟を射貫かれたのか。ならば、どうする。ここで仇を討つか」

「え。いや、戦場での殺し合いは武家ならば是非無きことだ。おれは、ただ貴女を凄い弓使いだと思ったんだ。だから、探していた。この弓を渡したくて」

あたふたと、している姿が可愛い。

「ふっ。弓を取り返してくれたのは嬉しいが、弓はそなたにやろう。親兄弟の仇だが生きるを許してくれた礼だ」

「いや、そんなことをしてもらうほどのことは無いぞ」

とことことことやって来て、弓を渡そうとすると、

「リョウガ家は、帝国武家の名門であろう。弓を礼として感じてくれるならば、このまま私、フェリカ・シーナを縛りあげて、攻め手大将ファン・キューブリック伯爵の下へ連れて行っていただきたい」

「逃がさなくても良いのか」

「構わぬ。我が名はフェリカ。フェリカ・シーナだ。シーナ一族の者として、敗戦の責は、負わねばならぬ」

「しかし、そのままでは」

全裸で、剥かれ、嬲られた跡も痛々しい姿から、目を背けるようにしていた。

「ライ殿。この姿は、敗戦の女将なれば仕方なきことよ。頼む」

「わ、わかった。連れて行く」

手を縛りあげて、ライは、小屋から連れ出した。焼き落ちた本殿近くに天幕が張られ、本陣が設営されていた。夕日に照らされるように、白き裸身が浮かび上がり、どうしても内股にならざるを得ないフェリカが、ライの手にした縄に曳かれるようにちょぼちょぼと歩いていく。192センチの長身に、釣鐘型の94センチの爆乳に近いくらいのおっぱいが揺れ、胸と同じくらい豊かな93センチの尻も歩くごとに揺れていた。

 嬲られた後に、虜囚として晒され、引き摺られていく女の姿は、戦場の狂気を冷やすように、兵達が屯っている道を開いていった。戦場では、大きな身体は目立つ、城より矢を放って次々と射殺した女戦士の姿は、戦場に響くように伝わっていく。その女が、凌辱の跡も凄まじく縄を掛けられ、連れられる姿は、兵達の同情を惹いていた。

 おかしなことのように思うが、戦場というものは、冷酷にもなれば、善良な想いにとらわれることもある。過ぎたる狂気は、次に自分の身を滅ぼすというのもまた真理なのである。凌辱され、虜囚となったものは、奴隷として売られるなり、誰かの仇として引き渡される、結果、さらなる凌辱や輪姦にまみれることとなるのも、真理なのである。虜囚として晒されるということは、一時的に狂気を鎮めたに過ぎない。

 本殿前の庭に設営された天幕の前で、女の声が響き誰何された。

「誰か、そこな虜囚は」

「は、俺は、リョウガ伯爵家次男ライ・リョウガ、正門付近の小屋にて、シーナ城が守将、フェリカ・シーナを捕らえました」

「ほぉ、そなたが、フェリカか」

正面より見据えると、虜囚となったフェリカは、相手を観た。180センチの女としては大きな身体に、スレンダーな体形をしているが、雪のように白い肌は、金色のナチュラルブロンドに映えるように煌いていた。攻城側で女騎士が本営の天幕を守護できるとすれば、攻め手大将の側近、もしくは奥方に限られてくる。

「貴女が、ファン・キューブリック伯爵が奥方、レオナ殿か。ならば、まずは名乗られるが筋であろう」

「は、反逆者の妹が言いよるわ。男共に嬲られ、自分から腰を振ったのではないか」

「ははは。このフェリカ。男相手に腰を振れるほどに、女に長けてはおらぬ。痛みが強すぎて、動くことすらままならなんだわ」

「ほほほ、神皇国皇子ネイルも恥さらしよ。そなたのようなアバズレと婚約したばかりに、首を晒しおったぞ」

「ね、ネイル様が、ならば、兄上の首も落ちたのだな」

「当たり前でしょ、神皇国皇子を騙し、帝国へ叛逆を企てた張本人なのだからね」

「そういうことか、城門は破ったのではなく、内から甥御が開けたということか」

「ほほほ。首二つで慌てて門を開いて、無様に逃げ出そうとしたわね」

「流石だなファン殿は、神皇国へ落ちようとしたラデルを討たれたか」

「貴女の皇子とは違いますからね」

振り払うように首を振ると、膝をおろして、騎士としての礼を取った。

「護ってあげたかったがな。首を見せて貰えないか、このようななりで悪いとは思うが、せめて祈りなりと捧げたい」

肩透かしをされたような態度に、ちょっと言葉が止まって、

「そうね、そのくらいは、確認してあげても、良いわ」

ちょっと、意表を突かれたように、戸惑いながら、後ろを気にしていると。中から声がかかった。

「良いですよ、レオナ。天幕の内へ二人を案内なさい。それに、天幕の予備があります。少しはマシでしょう。かけてあげなさい」

「は、はい。アバズレ、ファン様に感謝なさい」

「かたじけない、レオナ殿」

「ふん」

踵を返して、天幕の内へと入る。

 天幕の内へと入ると、机に首桶が二つと、少し離れて、生首が一つ置かれていた。

 首桶の前に座ると、首桶を開き、二人の死を確認した。腰をおろして、手を組み、無言で祈りを捧げ始めた。しばしの静寂があたりをつつみ、夕闇の陰りが少しづつ天幕の内を暗くしていった。灯されたランプを持って、ファンが天幕の内へと運んできた。

「甥御殿については、祈りを捧げずとも良いか」

「戦なれば、是非無きこと。されど、ファン殿」

「戦は、勝者が決めること故、願うことしかできぬのは承知なれど、ラデルは神皇国の騎士伯でもある。子らを殺さず、寺にでも入れて頂きたいと願うだけにございます」

「それは、皇帝陛下が決めることなれば、そなたの身柄を含め、一介の伯爵に権限はない」

「それでも、口添えを願うことは、できませんか」

「妻妾は、すでに奴隷商への売却が済んでおります。また、子らについては、皇帝陛下より斬首と報せが届いております。この身には、何もできません」

「そうですか、後は、この身についてだけですか」

「そうですね。貴女については、帝都へ護送いたします」

「はっ。かしこまりました」

「何故です。敵将は奴隷として売却、もしくは戦場の敵討ちとして下げられるが、古来の御法ではございませんか」

「レオナ。このファンは、皇帝陛下より、二万の軍勢を預かり、小城に三千の兵が立て籠もって二カ月落とせなんだ、無能と呼ばれることとなる」

 神皇国が纏め上げた侵攻軍八万は、十万の帝国軍と戦い一日で敗れ壊滅し屍を晒して撤退していった。結果として神皇国は、侵攻そのものの責任を皇子の首とレゼルの首におしつけて、塩漬けにして皇帝へ贈って、謝罪としていた。

「そ、それは」

「なればこそ、皇帝陛下に敵将がみすぼらしく映っても困る。出立は明日。ここより帝都までは一月かかる。レオナ、十日で我が領地に着く、それまでに、傷の手当てと衣の用意をいたせ」

「は、はいッ」

「ということだ、あざとい演出なれど、つきあって頂けるかな」

「生きたいと願う、敗軍の将なれば、攻め手の慈悲に沿うよう、出来る限りの働きはさせていただきましょう」

こうして、フェリカ。シーナの帝都護送が行われることとなったのであります。

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