第28話 古い星の光

「チョットマッテ、コレ、星の人の住所じゃないの!?」

 ㅤ予想外の出来事に、ワタシの心は冷静と混乱の間で揺れていた。


 ㅤまずやっぱり、星の人は実在する! ㅤファンタジーじゃない。イタズラじゃない。世にも奇妙なじゃない。本当にいるんだ、ここに行けばきっと会えるんだ。


 ㅤどうしたらいいんだろう。行くしかない。行くしかないって、どこへ?ㅤ この住所だけ見せられても、ワタシは郵便屋さんじゃないからわからないよ。


ていうか、何で今突然文字が現れたの?ㅤ ブラックホールのせいなの?ㅤ 危うく死にかけたせいなの?ㅤ わからないよぉ。お母さん!ㅤ お父さん! ㅤおババ! ㅤダメだ。こういうときに心の中で意味なく親しい人へ呼びかけても、何も変わらない。何もわからない。


「ってうわぁ!」


 ㅤ今度目の前に現れたのは、大きな大きな青い星。って、大きく見えるのはワタシがすでにかなり近づいているからだ! ㅤもう、さっきから何なんだよぉ。ワタシはただ家に帰りたかったんだよぉ。確かめたいこととかも、あったんだよぉ。そんなふうに一人ツイートリツイートをしていたとき。フラッシュバック。あの言葉を思い出した。



「星の光がワタシたちに届く頃、ワタシたちはその星の過去を見ている」



 ㅤ場所は縁側。春の夜。ある女性が、まだ今よりシワの少なかった若い手で、空を指差した。

「ごらん。あの大きな青い星。あれが何かわかるかい?」

「うーん。すぴか!」

「惜しい。惜しいけど違うんだ。それにね、あのお星様、輝いているでしょ」

「うん、きねい!」

「でもね、あの光っていうのは実は、昔の光なんだ」

「どーいうこと?」

「星の光がね、宇宙を超えてワタシたちに届くには、多くの時間が必要なの。ほら、家の電球は、スイッチを押せばすぐに明かりがつくでしょ?ㅤ でもあれだって、電気の流れが必要」

「ほえ?」

「つまり、ワタシたちがお星様のスイッチを押しても、電気の流れが遅くて、光るまでに時間がかかるのね。だから、今の光を見るためには、もっと前のときからスイッチを入れておかないといけない」

「あばばばば」

「そうやって、星の光がワタシたちに届く頃、ワタシたちはその星の過去を見ているのよ。わかる?」

「ちぃともわかんらい!ㅤ おババらんかきない!」

 ㅤそう言って背中を向けて、小さな女の子は家の中を駆けていった。



 ㅤそれともう一つ。



「ねぇ〜〜、またおほしさまみるの? ㅤおババのはなしやだよ」

「そんなこと言わないで。大事な話するんだから」

「こんどはみじかめにね?」

「よしわかった。ほら、あの星をごらん」

 ㅤああ、前に見せられたやつだと心の中でぼやく女の子。体を両腕に抱かれながら。

「実はね、ワタシたち、あの星から来たの」

「えっ、なにいってんのぉ」

「いや、だからね、あの星から来たの」

「それだけ?」

「う、うん、それだけ」

「びえ〜〜ん、びえ〜〜ん」

「ど、どうして泣くの?」

「うちゅうじんだ〜〜、うちゅうじんのしゅうらいだ〜〜」

「ええっ、今度はそう来るの? ㅤで、でも大丈夫。マァちゃんは宇宙人じゃないから。マァちゃんは」

「びえ〜〜ん、おババはうちゅうじんだぁ〜〜。うちゅうじんにさらわれたんだぁ〜〜」

「もう、どうしたらいいのかしら。マリちゃん!ㅤ お願い」

「ほ〜〜ら、いい子でちゅねぇ、いい子、いい子。それに宇宙人って言うならマァちゃんだってそうなのよ。この世全ての人、みんな宇宙人なの」

「え、そうらの?」

「そうらの、そうらの。じゃなくて、そうなの。だから泣き止んで」

 ㅤ女の子は体を抱えられてグルグル回されたあと、そうさとされて、落ち着いた。


 ㅤ全く、子供というのは謎な生き物だ。子供の方がよっぽど宇宙人みたい。自分の中に勝手な決めつけがあって、よくわからない説得に納得して。でもそんな自由な時間を、いつか途端に忘れていったりしてしまう。

「おババ、ごめんなさい」

「いいのよ。またいつか、教えてあげるね」

「それはやだぁ〜〜」


 ☆


 ㅤ最後までめちゃくちゃだなコイツ。まぁ、ワタシのことなんだけど。

 ㅤまるで、星の光みたいね。こんなところで、こんな昔のこと思い出すなんて。今ならあのときの話も少しはわかるかな。


 ㅤ目の前に広がるは、青い星。見覚えのある青い星。

 ㅤワタシにとって、特別な光。


 ㅤ行こう。

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