第11話 夢が醒めた

 ㅤ夢から醒めた。星の人はいなかった。いたのは遅刻しないか心配して起こしてくれたお母さんだけ。


 ㅤあのまま夢の中にいられたら、ワタシと星の人との関係はどうなっただろうか。なんて、どうでもいいこと考える。きっと存在する現実は、学校に寝坊するということだけだったろうに。


 ㅤワタシ、恋、シテルノカナァ。わからないな。目がさめるとわからない。お母さんが部屋を出たあと、少しだけ掛け布団の中から天井を見つめた。チクタク時計の音がして、飛び起きて準備して出かけた。この日は休日だった。


 ㅤ春には鮮やかな花が咲いていた。今は裸の木。部屋の窓からも見える冬。閉め切った窓を少し開けて、冷たい空気を取り込む。


「うおぅ、さむ」

 ㅤ腕を抱えて震える。そしてお母さんの声がする。


「手紙、届いてるよ」

「はーい」

 ㅤきっと星の人からの手紙だろう。今度は冬編だ。階段を降りて受け取って、部屋に戻って机に置く。これだけでも体を温めるには良い運動だ。そしてまた下に行って朝食をとる。


 ㅤ初めて手紙をもらったときは、学校に遅刻しそうなこともあって、焦ってた。入学式だったし。手紙と言われても何のことだか。それが今では、「はいはいあれね」と流れ作業のごとく、しかし心には微笑みを持って、星の人からの手紙を受け取っていた。


 ㅤ学校生活にはコレといった変化はない。先のことも、正直あまり考えていない。というか、考えなきゃって思うほど思いつかなかったり。高校生なんてそんなもんだよね、と根拠もなく自分をなぐさめたり。


 ㅤしかし今日もまた、学校で何かをひらめくことなく、家に帰ってきた。


「おババ、ただいま」


 ㅤ玄関先で会った。おババは優しく微笑むと、これから病院に行くらしい。といっても定期検診なので、あまり心配はしていない。強いて言うなら外の寒さ。ワタシは自分の首に巻いたマフラーを勝手におババに「あったかいよ」と巻きつける。


 ㅤおババは頬も目尻もシワシワの顔で「ありがとう」と呟いた。


 ㅤさてさてと、夕飯やらお風呂やらを済ませたあとに、机の上に置いた手紙と向き合った。相変わらず白い封筒に「マァちゃんへ」の文字。


 ㅤ少しだけドキドキして封を開けて便せんを開く。そしたら。



 ㅤ突然ですが、これが最後の手紙になるかもしれません。マァちゃんのことを嫌いになったとか、そもそもこれで最後とする深い意味もありませんが。

 ㅤただこれ以上続けても、僕の気持ちが届くどころか、手紙自体届かなくなるかもしれません。

 ㅤでもきっと、何の影響もありませんよね。僕の手紙が届かなくなったところで。届いたところで。

 ㅤ本当は、何かの影響があったらいいなと思うんですけど。難しいと思います。


 ㅤこれまで、何通も一方通行な、わがままな手紙を送ってしまい、申し訳ありませんでした。だけど僕は、最初にも書いたように、マァちゃんのことを嫌いになったわけではありません。

 ㅤマァちゃんのこと、愛しています。これからのことはまだまだわかりませんが、この気持ちはなるべく長く続くような気もしています。


 ㅤなぜかといったら、キミと離れたところにいるからです。近くにいたら、見えない星も、遠くにいたら、見える星もあると思うんです。


 ㅤたぶん、マァちゃんは僕のこと、誰かわかると思います。こんな僕でも一応、そのくらいの自信はあります。だけど忘れてほしくて、名前は伏せています。きっと、こんな手紙を書いている間にも、マァちゃんは僕のことを忘れていくと思いますが、それはいいのです。

 ㅤただ僕は。なるべく。なるべく。マァちゃんのことを覚えていようと思います。いつか会える日が来るのか、それはわかりませんが。


 ㅤ冬はさすがに寒いですね。ペンを持つ手も震えます。鼻水も出ます。だけど、夜空は綺麗に思います。


 ㅤ星の人



 ㅤワタシはなぜか、泣いていた。

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