第7話 夏にさくら

 ㅤ夏が来た。日差しがポカポカ暖かい。


 ㅤ星の人からの手紙は、二通目以降届いていなかった。ワタシもそのことに関する気持ちは、日に日に薄れ、過去の記憶になろうとしていた。


 ㅤ今日もプールの中で、泳げないなりに一生懸命バタ足。水が光と跳ねる。女の先生がこんなできないワタシにもついてくれて、丁寧だから応えたくなる。


 ㅤ前で、手を繋ぎ導いてくれる先生。水中で目をつぶりながらも、その温もりは感じられる。


「ねぇマァちゃん聞いてよ、木崎のやつさぁ」


 ㅤ早くもミヤちゃんは木崎くんと付き合ってしまいました。五十音告白を木崎くんが終えたあと、ミヤちゃんが木崎くんに説教したのがキッカケのようです。ワタシは、誰とでも付き合えたらいいという人はダメだなんて思っていたけど、ミヤちゃんはそのくらいの人の方が好きなようです。毎日、ワタシに文句を垂れながらも楽しそうです。


「マァちゃんはさぁ、好きな男いないの?」

「いないよ、全く」

「そんなんでいいの?ㅤせっかくの青春がさぁ、もったいないよ」


 ㅤミヤちゃんはこんなふうに、ズケズケと物申してくるけど、不思議と嫌じゃないです。ミヤちゃん自体、口調は強くても本当にワタシを変えようという気はないのです。


「まぁでも、マァちゃんはマァちゃんか」

ㅤ席に座りながら足を組んで腕を組んで。偉そうだけど、とっても良い人です。


「もし好きな人ができたら、ミヤちゃんには教えようかな」

「エ、マジ?ㅤ嬉しい!」


 ㅤ本当に教えるかどうかわからないこと、ミヤちゃんはわかりながらきっと喜んでくれているのです。


 ㅤ夕方、自宅前に着くと、郵便ポストに白い封筒が刺さっているのが目についた。もしかして、と、春の記憶が突然頭の中に戻って来た。散ったはずのさくらの花びらが、一斉に舞い上がって再び枝につくように。緑の葉が一面、白く染まるように。


 ㅤ封筒のオモテ面には「マァちゃんへ」の文字。ワタシは慌てて玄関の扉を開け、手も洗わずに、ただいまも言わずに階段を駆け上った。



 ㅤ夏ですね。カキ氷が美味しい季節です。お元気ですか。(メロン派です)

 ㅤ僕はというと、あまり元気じゃないです。とにかく暑いですね。やっぱりまだまだ暑いです。

 ㅤでも、健気に暮らしています。

 ㅤマァちゃんのこと、考えたりしています。


 ㅤ人間の脳みそは便利です。色々不具合を起こすこともあるでしょうが、基本的には思い出に浸ったり、空想に浸ったり、自由にすることができます。

 ㅤマァちゃんは今頃、どんなことを考えているでしょう。知りたいような、知りたくないような気分です。


 ㅤではまた。


 ㅤ星の人



 ㅤ星の人って、何か不思議な文章書くなぁ。カキ氷食べたい。

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