第4話 正体

「オハヨー、マァちゃん」


 学校に着き、教室の扉を開けると、ミヤちゃんがその元気な声と共に勢いよく駆け寄ってきた。


「あ、今日はちゃんとメイクしてるんだね、うふふ」


 メイクと言ってもたいしたことはしてないんだが。特にミヤちゃんと比べると。ミヤちゃんは金髪だし、目元も口元も肌も、とても綺麗にしてる。スカートも他人より短め。だけど自然な可愛げがあるのは根っからのオシャレさんだからだろう。


 ミヤちゃんは中学でも一緒のクラスだった。人見知りなワタシにとっては、心強い味方。だからこうやっておしゃべりする。


「どう、学校慣れた?」


 前の黒板を見て左端の、前から五番目の席に着く。ミヤちゃんはその前の席に壁を背に右向きで座る。金のカラコンが、真っ直ぐこっちを見てる。


「慣れた? って、まだ二日目だよ」

 ワタシがそう返すと、

「ソウダヨネー、まだムリだよねー、ていうか普通何にもないよね」

「何にもって?」

「何にもは何にもだよ、入ったばかりでさ」


 ワタシの頭の中には手紙のことがチラついた。目線は自然と右上の方を見ていた。


「何? 何かあったの?」

 キラキラした目をさらにキラキラさせてこっちを見るミヤちゃん。


「な、何にもないよ、ミヤちゃんはどうなの」

「うーん、ちょっと変なヤツがいてさ」

「変なヤツ?」

「見覚えもないのに、いきなり告白してくるの」

「エッ!」

 思わず、大きな声を出してしまった。周りの視線に軽く「ごめんなさい」と会釈して、話を聞きなおす。


「ふふふ、何そのリアクション、驚きすぎじゃない?」

「いや、ほんとに変なヤツもいるもんだなって……。で、どんな人なの」

「それがさ、ウチらと同じクラスのヤツでさ」

「エッ!」

 また大きな声を出してしまった。少し周りの視線を痛く感じたが、あまり見ないようにして、周りは周りで二度目だったので呆れたようだった。


「ほんとリアクション大きいよね、そんな子だったっけ」

「ご、ごめん」

「でさ、そいつ本当変なヤツでさ、あんなやり方でトキメク女子がいるかっつうの」

「え、ええ……」

「まだマァちゃんはそいつに会ってない?」

「アァ、アァ?」


 会ったような、会ってないような。もしかして「星の人」の正体って、出会ったばかりの面識もない人に突然告白してくる同じクラスの男子? ウワァ、何かそう思ったら嫌な気がしてきた。


 でも実際、そういうことだよねぇ。突然手紙よこして愛してるなんてさ。うーん。だけど二通目の手紙もやけに馴れ馴れしかったというか。そういう人なのかな? あれ、でも、入学式前の朝に告白してくるなんていったいどうやって。


「おーい、マァちゃん聞いてる?」

「ご、ごめん、動揺してた」

「童謡? うさぎとかめ的な」

 ミヤちゃんは時々真面目にこうなりますから放っときます。可愛いです。


「ねぇ、もしかしてその突然告白してくる人ってさ、手紙で」

「手紙? 違う違う、ちょくで」

「直で!?」

「チョーク? 黒板書く的な」

「じゃあさ、自分のことこんなふうに名乗ってない? 星の」

「星野? 違う、そいつの名前は」

「マァちゃんさん。ボクと付き合ってくださぁい!」

 突然ワタシの横に、見知らぬ男が立っていた。

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