エピローグ

 ジャンユーグ商会の壊滅後、ロランに連れられて僕とスンは孤児院に戻った。

 とりあえず、孤児院がある当たりの再開発は無期延期という結論になったようだ。ロランがエリカに説明をし、喜びの余り感極まったエリカがロランに抱きつく。


 僕達と、孤児院の子供たちの前でしばらく抱き合う二人。


「ひゅー、ひゅー」


 羨まし……子供たちの教育上、良くない気もしたので、声に出して囃した立てみた。


「あ!」


 エリカが顔を真赤にして身体を離す。

 そういや、エリカも良い年齢なんじゃなかったか? 何、若い女の子みたいな反応をしているんだ……と考えたら、殴られた。


「エスパーか!」

「主様、それは通じない」


 思わずSF用語で突っ込んでみたが、どうやら、この世界には存在しない単語らしい。スンに通じるのはなぜなんだという疑問は見逃しておこう。


「シャルル君の表情を見れば、良い年齢のおばさんなのに、小娘みたいな反応をして……と書いてあったのが解ります。本当に君は4歳なの?」

「勿論、正真正銘の4歳だよ。エリカお姉さん」

「もういいです!」


 そういって頬を膨らませてしまった。

 調子に乗ってからかい過ぎたかな。


「いや、俺が悪いんだ。みんなの前で……いや、違うな……こういう事をしても照れるような関係だという事に甘んじていたのが問題なんだろう」

「え、どういう事?」


 ロランの言葉に、エリカの表情が曇る。


「エリカ……俺と……そうだな。子供たちの前で抱き合っても、恥ずかしくない関係になってくれないか?」


 そ、それって……


「エッチなお誘い?」

「主様、違うと思う」


 思わず、小声で呟いた僕にスンが軽くツッコミを入れてくれた。


「ロラン、それって……」

「ああ、俺と結婚してくれ。今回のような事が、俺がいない時に起これば、今のままではお前も、お前が大切にしているこの場所も守ってやることが出来ない」

「ロラン……」

「勿論、俺にとってもここは大切な故郷だ。そして、幸いにも俺の名があれば、ここを言いようにはさせないだけの力がある」


 そして、優しくエリカを抱き寄せ、


「子供の頃からずっと一緒に育った俺達だ。だから答えを出すのが遅くなって、ずっとお前を待たせてしまった。本当にすまんと思う。こんな俺だが、ずっと一緒にいてくれ。二人で幸せになろう」


 抱きしめられているエリカの目からは大量の涙が溢れている。表情を見れば、それが幸せの涙だって事くらいは、僕にも解る。


 そして、俺の目からも……


「くそ! 幼馴染とゴールインだと! 羨ましすぎるぞ!」

「主様、心の声がダダ漏れ」


 もらい泣きだけじゃない、悔し涙が溢れてきた。


「エリカお姉ちゃん! おめでとう!」

「おせーよ! ロランおじさん。姉ちゃん、何年待っていたと思うんだ!」


 僕の怨嗟の思いとは違い、孤児院の子供たちは素直に喜んでいるみたいだ。さすがに中身まで子供な奴らは純真だ。


 見た目は子供、中身は中年素人童貞の『俺』とは大きく違う。


 ま、知り合ったばかりで詳しい事情はよく知らんが、おめでとうとは言っておく。


----- * ----- * ----- * -----


 ……というようなハッピーエンド的なエピソードがあってから数日後、


 「なぁ、お前達、俺に何か隠している事は無いか?」


 あの日から、そのまま孤児院にお世話になっている僕とスンの元へロランがやってきて、突然こう切り出してきた。


「隠している事?」


 この世界に転生してきて中身は本当は30歳の中年だって事か?


「いや、無いと思いますけど?」

「そうか……いや、組合の方へ、こんな物が届いたんだが」


 そういって、一枚の羊皮紙を差し出してきた。


「これは?」


 こっちの言葉は、幼児の脳の吸収が良いおかげでか、同年齢の子供と比べても、ちゃんと喋れるようにはなっているが、識字という点に関しては勉強していた期間が少ないので、大人並みとまではいかない。


 そして、渡された羊皮紙に書かれた文章は、達筆な上に、知らない単語も出てきており、ちゃんと読むことは出来なかった。


「すみません。知らない言葉も多くて、読めません」

「ああ、そうか。すっかり気になんなくなっていたが、4歳だしな」


 そう言って、ロランは内容を説明してくれた。


「公王の事務所からの召喚状だ。シャルル、どうやら公王がお前と会いたがっているらしい?」

「はぁ?」


 ここは公都。正式には公都アラルコン。公都とは、公国のみやこという事だ。そして公国の正式名称はアマロ公国。アマロ公国の公王と言えば……


「あ、ソフィアの父ちゃんか」

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