第36話 再戦

 瞬く間に時間は過ぎ、夏休み前の祝日を含めた連休に、中等部の学内囲碁トーナメントが開かれる。


 大会は二日間に渡って行われ、合計十六名参加で勝ち残り形式で、一日二試合ずつ行われる。


 対局室に集まった生徒たちは、壁に張り出された対戦表を見て、喜んだり悲鳴を上げたり、悲喜こもごもの様相を呈していた。


 同じ中等部であっても、囲碁の実力には個人差が大きかった。そのため同じ中等部であっても、普段はランク戦などで当たる機会がないために、生徒たち全体の実力や士気の向上のため、変わった組み合わせをするようにしていた。


 夏実も自分の組み合わせを確認するため、表が張られているホワイトボードに近づいていく。


 張り出されていた対戦相手の名前には「住谷 優子」と書かれていた。


 組み合わせ表を見に来ていた優子と、お互いに顔を見合わせる。


 夏実は、沙也加から言われたことを思い出した。勝ち上がるためには、たとえ友人であろうとも蹴落とすぐらいの覚悟が必要だと。


 優子にはテストの件を含めて、色々と迷惑をかけて、そして助けられた。あたしは、それでも——


「夏実ちゃん、手加減はなしだよ」思案にふけっていた夏実に、優子から声がかけられる。


 自分は何か思いあがっていたのだろう。勝手に余計な負い目を感じて、気を回すふりをして、相手を侮辱するような考えを抱いていた。


「あたしも負けないよ」夏実は、自分の覚悟を示す。本当に背負うべき覚悟は、全力でぶつかり合うことだ。結果がどうあれ、それが後悔しない最善の方法に思われた。


 夏実は対戦表を見て、他の名前を探す。


 沙也加の名前は、自分の場所からは少し離れた場所に書かれていた。


 順調に勝ち上がっていけば、準決勝で当たることになる。準決勝まで行くには、二回勝ち上がらないといけないので、二日目の三試合になるだろう。


 表を遠巻きに眺めている沙也加の様子を観察するも、特に変わった感じもない。きっと、誰と当たったところで変わりはない、とそう思っているのだろう。


 さらに対戦表を眺めていく。


 麗奈の名前は、沙也加のすぐ隣の組み合わせにあった。こちらも勝ち上がっていけば、初日の二戦目で沙也加と麗奈が当たることになる。


 あの二人と同時に対局することはできないのか、と夏実は残念がる。


 対戦表を確認した麗奈が、夏実に声をかけてくる。


「お互い、別のブロックに分かれましたわね」


「うん、あたしは優子ちゃんと当たることになった。麗奈ちゃんは、勝ち上がれば沙也加先輩と当たるんだね」


「夏実さんにすぐ借りを返せないのは残念ですけど、先に沙也加先輩を倒して、互いに勝ち上がってリベンジを致しますわ」麗奈が強気の発言をする。


「その時は、あたしがまた勝つから大丈夫だよ」夏実も負けじと言い返す。互いに笑みを浮かべ、対局の準備をするために席へと移動する。

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