【企画】H3BO3用

宮間

「温泉 三日月 対価」

「温泉のヒーリング効果ってどこまで信用できるのかね?」

「はぁ?」

 有名な温泉地に湯治にやってきたに関わらずこいつは何を言っているんだ、と、男の相方は思った。

 しかも湯に浸かっているというのに。

「少なくともお前が思うよりかはあると思うぞ」

「だって思わないか?硫黄とかの温泉に浸かっておはだすべすべーってやつ、要するに肌を溶かしてるだけの話だろ」

「煩い。黙れ」

「だからまあ、それに値する値段で湯に浸かりたいだろ」

「お前は本当に煩いよ」

 三日月が空に浮かんでいる。こやつはわざわざ個人の露天風呂を選んだというのに今更何を言っているのか。

「……………修学旅行のときさ」

「なんだよ」

 うだうだ文句を垂れていたそいつが、ぽそりと口を開いた。

「ある男子に女風呂覗いてこいって言われてさ」

「覗きに行ったのか?」

「行ってないけどさ」

 少し黙って、

「要するに虐められてたんだよ」

 告白した。

「飛躍しすぎでないか?」

「そんなこともないよ。前々から下駄箱の中にカエル詰め込まれたり靴隠されたり教科書破られたり何もしてないのに後ろ指指されたりしてたし」

「完全にいじめられてるでねえか」

「うん」

 だから、と、彼は言う。

「風呂とか苦手だったんだよな。裸の付き合いとか言うけど、それは環境と一緒に入る人を信用してるってことだろ」

「まあそうだな」

「だからさ、結構今の状況が信じられない」

 ぱしゃぱしゃ湯船を叩きながら彼は言った。

「俺はお前にそれ相応の対価を払えてるのかなーって」

「対価ってなんだよ」

 男はにやついて、「俺は結構自由にさせて貰ってるよ」呟いた。

 俯いている彼の顔を見る。男はくすくす笑った。

「明日はどこへ行こうかね。東尋坊でも行くか?」

「今更だよバーカ」

 男は隣の彼の肩に触れるようにする。男の手は彼の肩をすり抜ける。

 男は手を浮かせて、何も感じない空間を叩く。

「俺が死ぬ時に連れてってくれよ」

 彼は透き通る微笑みを浮かべた。























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