第5話 深夜の真実

 当直事務員がドアを開けると、そこには薄暗い廊下にその男性が独りぽつん、と立っていたそうです。

 何をしているんだろう?

 そう思ってよーく見てみると、奥の方をじっと見つめていたそうです。段々、当直事務員は嫌な予感がしてきたそうです。何というか、寒気というか、第六感みたいなものがビンビン頭の奥の方を刺激してくるような、そんな感覚に捕われたそうです。次の瞬間、


 ピコーン。


 エレベータのドアが開いたそうです。しかし男性はそれに全く気づきません。それどころか、どこか奥の方一点を見つめ続けていたそうです。そしてしばらくすると両手に力を込め、震え始めたそうです。それから少しうつむくと、何やらぼそっと呟き始めたのです。

 当直事務員はドアの隙間からかろうじてその声を聞き取ったようなのですが、

それはこんな事を言っていたそうです。


「……っと会えたね。ここにいたんだね……」


 そのまま、男性は立ち尽くすと、どうやら泣いているようにもみえたようです。そのままくるりと向きを変えた瞬間、当直事務員は驚いて、ドアを閉めたそうです。その後何事も無かったように、夜を過ごしたそうです。翌日、男性は深々をお礼をし、病院を去ったそうです。

 それからというもの、子どもの幽霊の話は一切聞かれなくなったそうです。

丁度時期を一緒に地下1階に改装工事が入り、建物自体が大きく変わってしまったのもあるかもしれません。

 ただ、その男性が一体何者だったのか? そもそも、その当直事務員の話がどこまで本当なのか、そしてそのおしゃべり女性事務がどれだけ脚色しているのか分からないこの話。でももし本当だとしたら、真実はどんなことがあったのでしょうか?


 とある子どもが何らかの理由でこの世を去った。しかし、離婚もしくは蒸発、何らかの理由で父親はどこでどう亡くなったのかを知る事が出来なかった。ひょっとしたら亡くなった事すら最初は知らなかったのかもしれない。そんな時、この噂の話を聞いた。色々調べるとそれは自分の子どもかもしれないと思った。幽霊でもいい、一度で良いから自分の子に会いたい、そう思って男性は幽霊に会いに来た。父親と子どもは、幽霊という形で、通常ならなし得る事の出来ない「再会」を果たす事が出来た。

 うーん、今考えてもあまりにも出来すぎた話ではありますが、私たちにとってはただの怯える存在の幽霊でも、父親にとってみれば亡くなった子どもと会えた、奇跡だったのかもしれません。


 ツカマエタ……と飛びつく子どもの幽霊を、彼は抱きしめたのでしょうか。


 ただもう今となっては確認のしようもありませんが。


 今は職場も変わり、あの病院へバイトに行く事もありません。でも夏になり、怪談話が聞かれるようになると思い出すんです、あの病院での噂話を。


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